決戦! 長篠の戦い その6

・金箔を張られた髑髏(どくろ)

 前回からの続き
 『 幼い子を連れている女が引き出された。朝倉の一門の妻女とその子であった。傍らにいた佐久間信盛が、「あまりにも、いたいけな子でもあるので助命され、仏門に入るようされたらいかがでしょうか」と口出しをした。信長はたちまち色をなして云った。
「この度の戦いにおいて、手柄らしいものはなに一つとして立てもせずにいて、敵の命乞いなど、片腹痛いことだ。そんなことを云う暇があったら、得物を取って、追っ手に加わり、敵の雑兵首の一つでもいいから取って来てみろ」
 佐久間信盛は返す言葉がなかった。
 その後、大野郡の山田庄、賢松寺へ逃げた義景も、味方の朝倉景鏡(かげあき)の謀反により切腹に追い込まれた。

 8月12日に軍事行動を起こして以来12日間で、越前の平定は終わった。この間に殺された者の数はおよそ5千人であった。信長は殺人こそ革命と信じていた武将だった。敵に廻った者はその息の根を止めねば承知できないという男だった。ほとんど見境もなく人を殺し、その血の中に新しい芽を育てようと考える武将だった。宿敵朝倉義景をたいした損害らしい損害もなく、たったの12日間で打ち破った信長には、小谷城の浅井父子は掌中にある敵も同然であった。放っておいても自落すべき敵であったが、飽くまでも彼は攻めようとした。しかも、ただの攻め方ではなく1日で攻め落とすという主題を与えた。

 「筑前めが、その役をお引き受けいたしたいと存じます」
 羽柴筑前秀吉(のちの豊臣秀吉)が進み出て云った。
 8月27日の夜、秀吉は小谷城の攻撃に出た。浅井久政が切腹して果て、そして翌朝には浅井長政も切腹した。ここに浅井家は亡びた。落城の際、浅井長政の室お市の方(信長の妹)は女児等を引き連れて織田の軍門に降った。
 

 朝倉、浅井は16日間で滅び去った。あまりにもはかない最後だった。その報告が古府中に入ったとき、勝頼は一言云った。
 「武田がこのままの状態で推移するならば、やがて朝倉、浅井と同じ運命をたどるであろう」
 この言葉は、武田の重臣らの耳に次々と伝えられていった。勝頼ひとりではなく、重臣の多くは同じように考えていた。3年間、喪を秘せよという信玄の遺言は、3年間戦をするなということではなかった。鳴かず、飛ばずの状態で居ろという教えでもないのに、勝頼と御親類衆との間がしっくりしないままに、なんとなく、過ぎて行く日々を恐ろしいと思わぬ者はいなかった。重臣たちは、朝倉、浅井の滅亡と共に織田信長が、今や天下人たる資格を備えた事実を認めながらも、それを口に出す者はいなかった。

 年が変わった。天正2年正月元旦、織田信長は、岐阜城内で、諸将を集めて、盛大な新年宴会を催した。各部将からの新年の贈り物が、床の間にずらりと並べられた。各地から取り寄せられた美酒、美肴が膳の上に盛り立てられていた。
 その肴の中に一段と諸将の目をひくものがあった。3つの朱色の膳の上にそれぞれ金色に輝く髑髏(どくろ)が置いてあった。髑髏を漆で塗り固め、その上に金箔を張ったものだった。膳には朝倉左京大夫義景、浅井下野守久政、浅井備前守長政と書いた白木の名札が置かれていた。
 織田信長は、元旦の席に、義景、久政、長政の3名の髑髏を酒宴の肴として出したのである。武将たちは、内心恐怖におののきながらも、信長の前で辞を低くして、これはまことに面白い御趣向にございますなどとおべっかを垂れていた。』

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以上、ここまで見てきましたが、戦とはなんとも残酷。
戦争をしていない一般人はもちろん、女子供まで殺される世の中。そんな戦国時代が終わっても現代の海外の一部の国々では同じような事が行なわれております。そんな争いの無い世の中になって欲しいものです。
そして、現代の私たちの感覚で戦国時代の英雄たちを見ると、印象がまったく変わります。信玄などは現在の倫理観に当てはめると、大盗賊ではありませんか。他人の土地を奪い火を放ち、殺し、人の娘を略奪する。信長にいたっては連続殺人犯、いや殺人マシーンでしょう。これは近代の戦争でも同じです。国の戦争であれば許されるのですから恐ろしい話です。しかし、後世の者は何とでも言えます。当時を生きた人々は生を受けた時代を必死に生きようとしていたのでしょう。

さあ、次は勝頼周辺をみていきます。

銀河鉄道999(スリーナイン)のナレーション風に言うと、

君よ、必死に生きた人々の思いを知れ、その過酷さを思え、そして移りゆく激流はどこへ向かうのか・・・次回の「決戦!長篠の戦い」は「新統領の座の周辺」に迫ります。ポオーーー汽笛の音(笑)。

その7へ続く



 

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