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Fake Tour, 実存する街の架空の歴史を歩き進む方法

私の仕事は、事象と事象との間につながりを見出すことだ。本業である美術/アートを具体例にあげると、自分のなかで起きた閃き - あれとこれを繋げるのはどうだろうか - を具体化して、他者とも共有できる状態にすることがある。例えば「観光ツアーがあるけど、その内容を嘘だらけにするのはどうだろう?」という閃き - 既存のツアーに、虚構という方法を結びつける - というものになり、それが現在企画している「Fake Tour」という作品である。

これは、2018年に大田区で、ストリートファーニチャーをベースにした作品を作ったことから、しりとりのような妄想を脈々と続けていくことで思いついた。ストリートファーニチャーとは、街にすでにある構造を利用し、そこに何かを加えることで、路地にあたらしく機能を持った構造を出現させる。例えば、樹木やガードレルに対して、紐や、デザインされた板などをあてがうことによって、その場に新しく椅子やテーブルのようにも使える構造を生み出すことだ。大田区では公園にある大きな遊具をスズランテープのようなものでぐるぐる巻きにして、本来そこにあった滑り台とか、上に登ることができるような網を使いづらくした。しかし、ぐるぐる巻きにすることによって新しく生まれたいくつかの面や、バリケードのような作用によって、その遊具の遊び方や、滞在方法が変化した。

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2018年7月27日 本蒲田公園で開催されたNEO盆踊りに参加

では、どのようにここから、Fake Tourにつながっていくのか。Fake Tourとは、実在する都市で行われるツアーである。しかし、そこで紹介される内容というのは、虚実入り混じったものである。町の歴史、景観、地理的立地、かつてあったお店、かつていた人、そういったものを引用して、その上に、あり得たかもしれない未来。ありそうでない現実を見出し、それをあたかも本当かのように語る。例えば、小田原の御幸の浜を歩きながら、かつて1000年前までここには宮殿があったが、今は跡形もなくなってしまった。この浜に特有の丸い石は、その宮殿に住んでいた王族の服を50年前にストーンウォッシュという方法でダメージを与えることで、権力の没落とストリートファッションを融合させたKAGOというブランドの工場があった名残でもある。

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上の情報にはいくつかの本当の情報がある。まず、御幸の浜という場所は、明治6年(1873)、明治天皇と皇后がおそろいで、当海浜において漁夫の地引網をご覧になり、以来「御幸の浜」と呼ばれるようになったという経緯がある。そこから宮殿を連想した。実際、御幸の浜には、まあるい石がたくさんあり、ちかくには小田原の特産品でもあるかまぼこの会社、籠清がある。そこから私はKAGOというブランドを連想した。今回の架空歴史は、書きながら、数秒で思いついたものだが、もっと現場での情報を集め、文献や聞き込みなどを続けていけば、まさにありそうな虚構の歴史を紡ぐことができる。

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小田原にはいくつかの面白い場所がある。まずは小田原城。歴史がたっぷりである。近くには一夜城や、佐奈田霊社という、これまた歴史や噂がたっぷりの場所がある。御幸の浜は上記のような歴史があり、浜の近くにはかまぼこ街道がある。漁港としても有名であり、ひものやかまぼこなどの名産品もある。食べ物では梅干しやういろう、おでん。それらの歴史について調べ、ありそうでない歴史を作り、なさそうで本当にあった歴史に驚愕する。このような探求方法と、アウトプットの方法は、小中の調べ学習には、めちゃくちゃ適しているのではないだろうか。私の子供の頃は、とにかく、微妙な嘘をつくことが好きだった。事実に基づいて、付き合ってもいない二人を付き合わせたり、読んでもいない来週号の少年ジャンプの話をあたかも「俺は知っている」という風に話すことが好きだった。国語の授業でも、たぬきに関するお話があり、宿題でその続きを自由に描きなさいみたいなものがあり小学2年生だった私は20枚にも及ぶ架空の話を書いた。

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昔からそういったことが好きだ。これまで30年近く生きてきた。様々なものに出会い、思い、感じた。その一つの集大成として、他者とも共有されている目の前の一つの現実、街がありそこに流れている歴史、それに対してリサーチすることで知り得た様々な知識と、個人的な思惑を掛け算してFake Tourという作品を今準備している。そして、そのFake Tourを通じて、実在する目の前の街を見る視点が、増えたら、楽しい。どのような思惑を持つかによって、新しく増やされた架空の都市は理想郷にもなり、ディストピアにもなる。それは過去を描くことでありながら、このような未来を熱望する。もしくは、このままでは到達したくない未来にその街が近づいてしまう、という示唆にもなり得る。小説よりも、より実体験に近いSFとでも、言い換えてもいいかもしれない。

初回は2021年12月4日(土)、小田原です。ご興味のある方はご連絡ください。⇨Twitter or Facebook or Instagram

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