砂と海
いろんなことを忘れてきた 拾えなかった。
それなのに、いらないものをたくさん拾ってきた
そう思っていた。
何が必要で何がいらないか、まっさらな僕にわかるわけがなかった
だから両の手を自然に開いたままにしていると、指の隙間から勝手に落ちていった。
さらさらと隙間を降る砂は、風に運ばれて大きな川に流れていく
僕はその様子を無感情に眺める
その川は上流から様々なものが流されており、ひどく汚れていた。
なんとなく川を眺めると、ぬいぐるみ、小瓶、洋服、写真、中には文字やなんかも流れている
しかしそれらを視線で捉え、川の下流へそのまま目を向けると、いつの間にか自分の意識が途絶えたのかと不安になるほど、ある瞬間で姿を消す
まばたきの瞬間に溶けている、泡状分解される、と言ってもいいかもしれない。
ざぁっー、という水流の轟音にも意識を向けると、
かすかに上流の方で子供の声が混じっていることに気づいた。その声は次第に大きくなり、遠くの方から10歳くらいの男の子が流されてくるのが見えた。
「はぷっ、たすけっ、たすっ・・・」
男の子は苦しそうに叫びながら、口元と手を水面から出したり引っ込めたりしながら流されてきた。
僕は男の子を助けなければと思い、川へと飛び込んだ。
川の流れは強く、大人の僕でも横殴りの水流に抵抗するのが精一杯で、間に合わないかもしれない、という不安を噛み殺しながら進む。
口いっぱいに空気を吸い込もうとした男の子の視線が、僕を捉える。
僕は大丈夫だよ、という色合いをしっかり込めた視線を、男の子に返す。
伸ばす手と手の指先が触れ、男の子の眼に一寸の光が差し込むその刹那、強まった水の流れは無慈悲にも男の子を流し去った。
あまりに唐突であっけなかったので、子が流される瞬間、映画ならあらゆる角度、距離で抜かれて、時間にするとそれなりのボリュームになっただろうな、などと場違いな感想が頭を駆けていった。
水の音も男の子の消えゆく悲鳴も、そして自分の心音も、うるさかった。むしろ僕はどうしてこんな状況に身を置いているのだろうと苛立ってもきた。望んでここにきた訳じゃないのだ。あの子も、僕も。
全身から力が抜けていき、僕は水の中に沈んでいった。
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お空はまあっくら
だけど、ちかちか、ぴかぴか、お星様
きれいだね
よしよし
君はもう忘れちゃったね
あの星はそう、君が6歳の時に持っていた、機関車トーマスのおでかけカバン。1人でお出かけしたとき、どこかに忘れていっちゃったね。君、すごい泣いてた。
後ろのこっちの星は、君が中学校を卒業するときに、勇気が出なくてあの子に渡せなかった手紙。なんで知ってるかだって?ふふ、もういいじゃない。
そしてあの星は、君があの日友人を深く傷つけた言葉達。そっか、見たくないか。でもあの星がなければきっと、とってもきれいなあの星とあの星は消えているの。きっとそう。
そっちの星は、きっと君が1番知ってるね。
じゃああの星は、、、、、
って、もういいかな。
ほら、全部覚えていたでしょう?
え?一粒一粒覚えていられないって?
そうだね。じゃあそのときは代わりに私が覚えていてあげる。
だから大丈夫、全部ちゃんとあるんだよ。
これまでも、これからも。
それからついでにね、さっきの男の子も大丈夫だと思うよ?君がちゃんと覚えていたからだね。
ほら、、、ね?
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川の下流は水深も浅く、大変なだらかだった。
運搬されてきた砂や諸々は川の曲がり角に堆積し、地形も相まってか、先ほどの男の子を受け止めるような不思議な形を取っていた。男の子は無事であった。手には、僕の10歳頃の家族写真。みんな笑っている。
汚い川は、曲がり角のその先も流れ続けている。
その先は、海。
光る海。
いつかどこかで見た光。
そしてきっと、これからもある光。
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