551の豚まん
空が薄暗く、今にも雨が降りそうだ。
7月、私と友人であるPは平日の仕事終わりにとある場所で開催されるホームパーティーに招待されていた。
スマートフォンのアプリで呼び寄せたタクシーに乗り込み、以前訪れた記憶を頼りに道を進む。
目的地の近くにあるコンビニエンスストアでタクシーを降りると、Pは手慣れたようすで食べ物や飲み物を手に取ったカゴに入れていく。
Pの話によると、どうやらホームパーティーが始まるまでにはまだ数時間あるらしく、家主もどこかに出かけているようだ。
それをきいた私はPを真似るようにカップ焼きそばや缶ビールをカゴの中に入れた。
Pは家主から鍵を預かっていたので、ホームパーティーの会場に入ることは難しくはなかった。
その後しばらくして家主と友人たちを迎え、音楽やお酒を楽しんだ。
パーティーも終盤に差し掛かったころ、冷凍食品の餃子があることをきいていた私は家主にそれをひとつ頼めないかときいた。
どうやらPも空腹のようだ。
家主は数秒の沈黙後、思い出したように551の豚まんがあることを私たちに告げた。
そして家主は気だるそうにこれがラストオーダーだとも言った。
Pは豚まんの味付けにこだわりがあるようで、「ポン酢はあるかい?」と家主に尋ねた。
家主からポン酢を受け取ったPは、ポン酢に書かれていた20210625という数字を見ると急に静かになった。
驚いたことと言えば、551の豚まんは私とPの二人に対して一つしか与えられないと家主から告げられたことだ。
すでにカップ焼きそばを平らげているとは言え、私もPも大柄な人間だ。
「あなたたちも一つの豚まんを二人で分け合い、美味しいな美味しいなとその気持ちも分かち合えばいいじゃない。」
家主は幼少期に友人と一つのミルクティーを分け合った記憶を思い出したらしく、懐かしげに二人で分け合うことの良さを伝えてきたが、私たちにとってそれは試練を与えられた以外なにものでもなかった。
四角い箱の中で熱せられた551の豚まんが私の前に届く。
私とPが争わないように豚まんの真ん中にはナイフで切れ目が入れられていた。
しかし熱さが目に見えているほど熱せられた551の豚まんを目の前に、私もPもどちらとも先に手に取ろうとせずにいた。
しびれをきらしたPが先に豚まんを手にとり、続けて私も手にとりそのまま豚まんを頬張った。
しばらくしてPと目が合い、おそらく同じ気持ちを分かち合えたのだろう。
「硬いね。」
「ああ、硬い。」
注文した餃子は最後まで出てくることはなかった。