口より目。
ぼくは、この『史記』に書かれた司馬遷の言葉が結構好きです。15年ほど前に独立してCHACOというデザインオフィスを立ち上げてから今日まで、なんとか生き延びてこられたのは、いろんな人たちに絶えずお声がけをいただいた結果です。
ぼくは、アピールすることや宣伝すること、営業すること、名前を売ること、顔を売ることがとても苦手です。なので、どうにかしてぼくの存在を見つけてもらうしかありません。見つけてもらって「この人なら大丈夫そうだな」と信用してもらわないといけません。ぼくが生き延びるためには、審美眼のある人を味方にする必要があるわけです(暗に、ぼくの仕事が美しいと言ってるわけではないですからね。それを気にすると話が進まないので許してください)。
今日までぼくを生かしてくれたのは、ぼくのまわりの審美眼のある人たちです。ぼくは、そんな人たちがいるからこそ、みっともない発信をしなくて済んだし、苦手なアピールや宣伝にリソースを割かずにすみました。だから、ぼくはぼくに声をかけてくれる人たちに感謝しかありません(クライアント、なんてビジネスライクな言い方はしたくないくらいに)。
冒頭の【成蹊】の話に戻りますが、実を付けていなくても、口先やアピールだけで売れている人はたくさんいます。ぼくらは、ときに、そんな人たちを観て羨望したり嫉妬したりします。でも焦らないで大丈夫。地道に、サボらずいい仕事をしていれば、きっと審美眼を持った人たちが見つけてくれます。そう信じて、とにかく自分を磨くことに真剣に取り組んで欲しいです。いい仕事をしている人は、いい言葉を使えるようになります。うわべだけのスピーチ術ではなく、意味のある言葉を操れるようになれると思います。
また、決定権や人事権をもつ偉い人たちは、口だけの人にだまされないように、もっと見る目を鍛える必要があります。日本の経営者には圧倒的に審美眼が足りていません。いいものを見て、いいものを買って、いいものを使って、見る目を鍛えないといい人材の発掘はできません。
ちょっとうろ覚えですが、APUの出口治明さんが、新卒採用の選考時になにを判断基準にするか、という問いに「大学の成績」と答えていました。大学のレベルはどうだっていい、自分が行きたくて入った大学の成績がとにかく大事だと。部活やサークル活動や、ボランティア活動のアピールよりも、日々の勉強が大事だぞと。この話は大好きです。でもうろ覚えです。
ということで表題の『口より目』。ぼくはこの姿勢でいましばらくがんばります。
※ただし、怖がらずに、もっとアピールをがんばればよかったなという反省もあるので何ごともバランスですね。