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顧客体験ということ

この数年、「顧客体験」(CX)という言葉を取材の現場でもよく聞くようになりました。商品やサービスを提供する企業は、いかに数を売るかより、自社のメッセージを、顧客がどう感じているかにとても気を配っていると感じます。

顧客視点で考えれば、「顧客体験」が今のように意識されるようになったのは、生活者の消費行動がより成熟して「モノからコト」へシフト、情報収集から購買までの一連のジャーニーが重要視されるようになり、生活者自身が消費行動の意味や質にこだわるようになったことがあると理解しています。

生活者はすでに体得したさまざまな基礎情報を検索で補強または修正しつつ、狙った方向性とは異なる情報や意見もセカンドオピニオンとして参照、注意深く「われながらベストであり、人にも共有できる選択をした」と言えるレベルまで「体験」を温めてから消費行動に移ります。

生活者がここまで周到に消費活動をセルフマネジメントするようになったのは、個人がSNSなどネットで積極的に自分の行動を発信するようになったことと無関係ではありません。

「新しくPCやスマホを買った」などと発信するとき、より多くのアカウントから同意や賞賛を集めたいという意識がある半面、絶対に「この人こんなチョイスをして大丈夫?」と思われたくない、という意識があるのではと思います。自分の考えを敷衍してマジョリティを語るのは危険ですが、そう外れてもいない気がしています。

こうして顧客が体験を高めて購入・採用の意識を温めているときの評価軸は、時を経るごとに多くなっています。

「新製品か?」「安いか?」「ポイ活的に適切か?」「ランキング的に見て適切か?」「保証やアフターサービスは大丈夫か?」といったベーシックな評価軸は当然として、「自分が主に関わるコミュニティのメンバーから見て恥ずかしくない/誇らしいか?」「従来使用してきたアイテムからの乗り換えとして妥当か?」「家族や近隣から見て説明可能な範囲か?」などといった個々人のポジショニング軸、さらには、「ミニマリズムの観点からして過剰では?」「エコ・SDGsに配慮したいが外れていないか?」「企業として応援できるか?/排除したい企業に加担していないか?」など、ポリシー軸を持っている生活者も少なくないでしょう。その他にも独自の軸を持っているケースはあるはずです。

と、いろいろ言っていますが要は「顧客体験=満足感」です。

食べ物で言えば、ただ安くておいしくてお腹いっぱいになるというだけではもはや満足できなくなりました。その材料がどういうものか(無農薬か、健康を害するような添加物は使っていないか、アレルゲンは何が含まれているか、生産時に環境に過度な負荷をかける素材を使っていないか、特定の地域の子どもかたちから搾取して得た材料を使っていないかなど)も納得ずくで対価を払い、味わいたいのです。つまり現代の生活者には、より高度な消費を企業に求める人が多くなったのだと思います。

企業からしてみると、面倒な世の中になったもんだ、と思う向きもあるかもしれませんが、逆に言えば、これまで企業が連綿と行ってきた、他社との差別化戦略の結果でもあると思います。

「わが社の製品は、他社とは違いすべて無添加です」といったぐあいに。そうすると、その商品が次のスタンダードになり、無添加じゃなければ上客には買ってもらえない、そんな感じです。

満足の在り方が変わった。値段ではない。豪華ではなくてもいい。唯一無二の自分らしい感動が何度もよみがえる選択・入手体験をしたいわけです。

「顧客体験」というテーマにこれからも企業は向き合っていくのだろうと思います。

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