スタートアップ経営者が知っておくべき 成長を支えるITツールの選び方と導入のコツ

第7回の記事はITツールについてになります。

情報システム(CorporateIT:CIT)分野になるのですが、CITは更にヘルプデスク機能や、IT資産管理、社内インフラ管理等多岐に渡るので、今回はあくまでITツール部分についての話に絞って記載をします。

昨今ではクラウドサービスとしてSaaS系のITツールが、各分野でひしめき合っていますので、選択する側からすると選び放題になるのですが、その事が逆に迷いを生じさせてしまいます。

今回はITツールについての基本的な考え方について整理をさせていただきましたので、是非ご一読いただければと思います。


1.はじめに

スタートアップ経営者の皆さん、日々の業務に追われる中でこんな悩みを感じたことはありませんか?

  • エクセルやスプレッドシート管理の限界
    エクセルやスプレッドシートは初期的には有効な管理ツールですが、従業員数が増え部門間で連携が必要になると、効率や正確性に限界が出ます。

  • 適切なITツール選びの難しさ
    経理、人事、営業、顧客管理など、必要なシステムは多岐にわたり、導入の優先順位を見極めるのは簡単ではありません。

  • 導入のタイミング
    タイミングを逃すと、データ移行や従業員トレーニングの負担が増え、システム導入の効果が発揮されにくくなることがあります。

さらに、複数のシステムをどのように組み合わせるべきかについて最適な運用設計を考える際に経験が不足している場合、試行錯誤が膨大なリソースを消費する可能性があります。

また、前回の記事で触れたように、経営数値やKPIの収集・分析ができる仕組みがない場合、重要な意思決定の遅れにつながるリスクもあります。

本記事では、スタートアップが成長を止めずにITツールを効果的に選び、導入を進めるための具体的な方法を解説します。

2.成長フェーズ別に見る必要なITツール

スタートアップの成長に伴い、必要なITツールも変化していきます。以下に成長フェーズ別のツールの一例を記載します。

(1) シード期(~10人)

  • 主にコストを抑えつつ、効率化を目指す段階。

  • 推奨ツール例

  • 目的
    このフェーズでは、まず最低限の業務効率化と数値管理の基盤を整えることが重要です。特に資金管理や簡易的な数値分析を可能にする会計システムや、チームの基本的な連携をサポートする情報共有ツールを導入します。
    早期から適切なデータを蓄積することで、将来的な成長フェーズでの活用に備えます。
    この段階での失敗は、「情報の散在」や「管理体制の混乱」に繋がり、次のフェーズで余計な負担を生むことがあります。

(2) アーリー期(~30人)

  • チーム全体の効率化とデータの一元管理が重要。

  • 推奨ツール例

  • 目的
    経営に必要なデータを効率よく収集し、次の成長ステージに備える。
    特にこのフェーズでは、経営企画や人事労務における重要な数値(KPIや会計データなど)を正確に収集し、それをもとに経営判断を行う準備が必要です。
    この段階で適切なシステムを導入していないと、後々の成長フェーズで正確なデータが得られず、経営管理の精度に影響を与えることになります。

(3) グロース期(~100人)

  • 組織が複雑化する中、プロセスの標準化を進める段階。

  • 推奨ツール例

  • 目的
    組織が複雑化する中で、プロセスの標準化とデータ活用を一層推進することが重要です。このフェーズでは、部門別の予算管理やKPIの精緻化を通じて、部門間連携を強化します。
    また、BIツールの導入により、各種データのリアルタイム分析を可能にし、迅速な経営判断を下す基盤を整備します。
    適切なITツールがないと、データ収集や分析にかかる時間が増大し、現場と経営のギャップが広がるリスクが高まります
    このフェーズでのIT基盤整備は、レイター期での全社最適化に向けた土台となります。

(4) レイター期(100人~)

  • 全社最適を図る経営管理体制が必要。

  • 推奨ツール例

  • 目的
    全社最適化を目指し、経営データの統合と管理体制の高度化が必要となります。
    ERPシステムや高度なBIツールを活用し、全社的なデータ一元管理を実現するとともに、将来的なグローバル展開や子会社管理に対応する基盤を整えます。また、CRMやMAを通じて顧客データの活用を進め、事業戦略の効果を最大化します。
    このフェーズでの遅れは、競争力の低下や経営判断の遅れにつながるため、スケーラビリティと拡張性を考慮したシステム設計が求められます

3.ITツール導入の優先順位

スタートアップが導入すべきITツールの優先順位を示します。これを基準に、自社の状況に合わせて選定してください。

1)情報共有ツール
社内外のコミュニケーションを効率化し、チームの生産性を向上させるために欠かせません。
初期段階ではチャットやファイル共有、タスク管理機能を備えたオールインワン型のツールが適しています。導入時には、プロジェクト管理や外部関係者とのコラボレーションに対応できる拡張性を確認しましょう。
また、他の業務ツールとの連携を意識することで、情報の一元管理が可能になり、業務効率がさらに向上します。成長フェーズでは、社内ナレッジの蓄積や利用をサポートする機能を備えたツールを活用し、組織力を強化することも視野に入れるべきです。

2)会計ツール
会計ツールはあらゆるスタートアップの基盤となる重要なシステムです。しかし、単に「売上と支出」を管理するだけではなく、将来的に給与、経費精算、BIツールなどの他システムと連携することで、経営数値を網羅的に把握できる環境を構築する視点が重要です。

3)人事・給与ツール
給与計算や社会保険手続きは初期には外部に任せても良いですが、自社でシステムを導入する際には、会計システムとの連携がしやすいものを選ぶことが重要です。これにより、従業員規模が拡大しても負担が大幅に増加するのを防げます。

4)勤怠管理ツール
勤怠管理は、特に労働基準法に則った管理を行う上での基盤となります。
勤怠管理ツールを導入する際には、人事・給与ツールとの連携が可能なものを選ぶことで、従業員データの二重入力や手動管理によるエラーを削減できます。
また、勤怠管理ツールには得手不得手が存在し、皆さんの会社での従業員の働き方や制度に対応可否が分かれる事がありますので、留意しなければなりません。

5)BIツール(データ分析基盤)
経営データをリアルタイムで可視化し、意思決定を支えるためのデータ分析基盤です。特に、KPIマネジメントや予実管理をスムーズに行うために不可欠な存在となります。
BIツール導入時には、会計や営業管理ツールなどから自動的にデータを取り込める統合性が鍵となります。スタートアップの初期フェーズではシンプルなダッシュボードから始め、成長フェーズに応じて高度な分析機能を持つツールへと移行するのが理想的です。また、クラウド型BIツールを活用することで、初期投資を抑えつつ柔軟なデータ活用が可能になります。

4.コスト最適化のポイント

ITツール導入時に気になるのはコスト。以下のポイントを押さえて、賢く最適化しましょう。

  • サブスクリプション型サービスの活用
    初期投資を抑えつつ必要な機能を柔軟に利用できる点が大きなメリットです。導入時には、契約プランやサポート内容を確認し、自社の成長速度に適応できるものを選ぶことが重要です。

  • スモールスタート戦略
    まずは小規模で運用し、運用フローを確立したうえで段階的に拡張していくことで、無駄な業務及び資金コストを削減しつつ、チームにツールを浸透させることができます。
    初期段階では無料プランやトライアルを活用して、実際の運用に即した判断を行いましょう。

  • スケーラビリティの確保
    現段階の規模だけでなく、次の成長フェーズを見据えた拡張性を持つサービスを選ぶことが重要です
    たとえば、シード期で導入したツールがアーリー期で限界を迎えないよう、あらかじめ成長に対応できる設計を心がけましょう。

  • 将来の拡張性への配慮
    短期的な運用だけでなく、長期的な視点でのシステム選定が欠かせません。特に将来的に新しいツールとの連携が必要になる場合や、従業員規模の増加を想定する際は、スケーラビリティや柔軟なアップグレードが可能なツールを選びましょう。これにより、成長の過程でシステム入れ替えの手間やコストを最小限に抑えることができます。

上記のような全体を通じた設計には専門的な知見が必要になるため、外部パートナーに相談してシステム選定や導入サポートを依頼することも有効な選択肢です。

5.失敗しないためのチェックポイント

ITツールを選ぶ際の重要なチェックポイントを以下にまとめました。

  • ユーザー目線での使いやすさ
    システムは現場が実際に使うものです。導入するツールが直感的で使いやすいかを確認するだけでなく、ユーザー体験を最大化するために他システムと連携した運用設計をあらかじめ検討することが重要です。

  • 導入・運用コスト
    システム導入時には初期費用だけでなく、運用にかかる継続的なコストも考慮する必要があります。導入後のトレーニングやサポート費用、アップデート対応のコストが見落とされがちです。
    長期的なROIをシミュレーションすることが、無駄なコストを抑えるカギとなります。

  • データ連携の可能性
    データ連携の設計を最初に怠ると、後から複数システム間のデータ統合にコストと手間がかかります。すべての数値が経営に直結する情報となるため、経理や給与、人事管理、BIツール間のデータがスムーズに連携する仕組みを事前に整備しましょう。

  • セキュリティ対策
    情報漏洩やサイバー攻撃のリスクを考慮し、導入するシステムが十分なセキュリティ機能を備えているかを確認することが不可欠です。
    暗号化機能やアクセス制御があるか、またシステム提供企業のセキュリティ基準が信頼できるかを調査しましょう。
    さらに、社内での運用ルールを定め、管理者権限の設定や利用者の教育を徹底することで、運用時のリスクも最小限に抑えることが可能です。

6.まとめ & 次のステップ

  • KPIや会計数値を活用する基盤づくり
    各ツールを適切に選び、経営に必要な数値を網羅的に収集・活用できる環境を整備。

  • 段階的な導入のロードマップ
    無理のないスケジュールで必要なツールを順次導入し、成長に対応する。

  • 専門家への相談タイミング
    システム導入や設計に悩んだ場合は、外部の支援を活用して全体設計を依頼しましょう。

7.ITツールを通じた成長支援

スタートアップのITツール導入は、事業成長を加速させるための基盤作りです。数値の収集や分析が可能になると、経営企画や成長戦略の精度も大きく向上します。
しかし、各ITツール全体が有機的に結びつかないと必要な情報が効率的に集約できません。ITツールは業務を効率化するだけでなく、業務上から得られる現場の情報をリアルタイムに経営に伝え、次の経営戦略及び事業戦略の一手を考える材料になります。
そういった事を実現するためには
・会社のKPIは何なのか?
・その情報はどのITツールから得られるのか?
・ITツール間の組み合わせて得られる有用な情報はないのか?
といったことを整理していくことが重要です。

ぜひ本記事を参考に、自社に最適なツール選びと導入を進めてください。

詳しいサポートや相談をご希望の場合は、ぜひこちらまでご連絡ください。
経営企画やバックオフィスの運営のプロフェッショナルが有用なITツール設計についてお手伝いさせていただきます。

いいなと思ったら応援しよう!