スタートアップ経営者が知っておくべき 経営企画の基本と成長を支える実践アプローチ

第6回目の記事は経営企画についてです。

経営企画の重要性とスタートアップにおける実践的な活用方法について取り上げます。経営企画は、バックオフィスの分野でありながら、特にスタートアップ経営者にとって、事業運営と意思決定に直接関わる非常に重要な役割を担います。

これまでの経理や労務、広報に関する記事に加え、今回はより「攻めのバックオフィス」をテーマに、スタートアップ成長を支える経営企画のエッセンスをお届けします。


1.なぜ今、経営企画が重要なのか?

スタートアップの経営者が直面する課題の多くは、経営企画の機能が不足していることに起因するケースが少なくありません。
たとえば、次のような課題を抱えていませんか?

  • 資金調達の際、投資家から経営計画について詳細な質問をされて困った

  • 売上は伸びているのに、なぜか資金繰りが苦しい

  • 経営数値を把握したいが、どの指標を見ればいいかわからない

これらの課題に対して、経営企画の適切な機能が整備されていれば、より精緻な計画を策定し、資金繰りや事業戦略に対する管理が可能となります。
今回は、スタートアップに特有の課題を踏まえ、実践的な解決アプローチについて考えてみましょう。

2.スタートアップの経営企画における3つの重要要素

①予算管理の仕組み化

予算管理の本質は、「将来の見える化」と「早期の軌道修正」にあります。
特にスタートアップでは、限られた資金を効率的に活用するため、予算と実績の差異を早期に把握し、迅速な意思決定につなげることが不可欠です。

✕ よくある失敗例
- 売上計画だけ立てて、経費計画が後手に回る
- 資金繰り表がなく、資金ショートに陥る 
- 予実管理が疎かで、大幅なズレが発生する 
○ 成功のポイント
- 毎月の収支計画の策定と、キャッシュフロー予測の更新
- 予実差異の分析と対策立案(外部専門家と連携してズレの分析を行い、早急に対策を実施する)

②KPIマネジメントの確立

KPIは「見るための指標」ではなく、「行動するための指標」です。
各指標が具体的なアクションに結びつき、現場での改善活動に活用できる形で設計されることが重要です。

✕ よくある失敗例
- 売上の数字ばかりに目が行き、他の重要指標を見逃す
- データが散在し、集計に時間がかかる
- KPIの定義や意味が曖昧で重要性を理解してもらえず、現場に浸透しない 
○ 成功のポイント
- 自社のフェーズに応じたKPI設定
- データ収集の自動化を視野に入れ、会計システムやCRM、BIツールを適切に導入する
- 定期的なレビューと、KPIがアクションに結びつく仕組み化

KPI設計においては、指標を集計するためのシステムや基盤の整備が必要です。
経理システムやBIツールなどを活用することで、重要指標がリアルタイムで把握できる体制を構築しやすくなります。

③成長戦略の策定と実行管理

成長戦略は「描く」だけでなく、「実行してこそ」価値があります。
戦略を現場の具体的な行動に落とし込み、定期的なレビューを通じて軌道修正できる仕組みを作ることが持続的な成長の鍵です。

✕ よくある失敗例
- 成長戦略が言語化されておらず、口頭のみの伝達
- 現場と乖離したアクションプラン
- 進捗管理が属人化し、進み具合が可視化されていない
○ 成功のポイント
- 中期経営計画や具体的なマイルストーンを策定する
- 進捗管理を仕組み化し、チームで共有できるようにする

外部サポートを用いて、事業戦略の構築から実行までの管理を包括的にサポートする体制を作ることで、戦略実行の確実性を高めることも可能です。

3.スタートアップ経営者が今すぐできる改善アクション

①基盤整備フェーズ(設立~シリーズA)

  • 重要KPIの特定と測定開始
    一般的なKPIに加え、自社の価値創造プロセスを丁寧に分析し、各工程での成功要因を特定しましょう。また、それらを測定可能な指標へと落とし込み、自社独自のKPI体系を構築していきましょう。
    その際、データの取得方法や更新頻度も併せて設計することがポイントになります。

  • 会計による数値見える化と簡易的な計画・予測の設計
    会計数値の可視化については内製化・外注を問わず、確実に毎月のサイクルで予実管理を行える体制を確立することが重要です。
    その上で、重要KPIの推移から売上予測を行い、それに応じた費用計画を四半期・半期・年間で設計します。この予実管理の仕組みが、次のステージでの本格的な経営管理の土台となります。

  • 簡易な経営ダッシュボードの作成
    KPI、会計数値、計画対比等を一覧で見える化するためのダッシュボードを整備しましょう。
    初期は簡易的なExcelなどのシンプルなツールでも構いませんが、「見やすさ」「更新のしやすさ」「必要十分な情報量」の3点を意識して設計しましょう。

②成長加速フェーズ(シリーズA~B)

  • 経営管理システムの本格導入
    事業規模の拡大に伴い、より精緻な管理が必要となります。
    会計システム、経費精算、勤怠管理等の基幹システムを導入し、データの自動連携による効率的な管理体制を構築しましょう。

  • 部門別予算管理の開始
    組織が拡大し、権限委譲が進む段階での予算策定や執行モニタリングを実施します。部門KPIと予算の連動性を持たせることで、より実効性の高い管理が可能になります。

  • データ分析基盤の整備
    散在するデータを統合し、より高度な分析を可能にするデータ基盤を整備します。BIツールの導入により、リアルタイムでの状況把握や、多角的な分析が可能となります。

③規模拡大フェーズ(シリーズC以降)

  • 経営企画部門の設置と機能強化
    単なる数値管理を超えて、事業戦略の立案・実行支援を担う経営企画部門等を設置します。外部環境分析、新規事業検討、投資判断等、経営の意思決定を支える機能を段階的に強化していきましょう。
    必要に応じて、専門人材の採用や外部コンサルタントの活用も検討します。

  • M&A/資金調達戦略の策定
    オーガニックな成長に加え、M&Aによる非連続な成長の機会を探索します。PMIを見据えた統合計画の立案や、シナジー効果の定量化が重要となります。
    また、次のステージに向けた資金調達の選択肢(株式・負債)を幅広く検討し、最適な資本政策を立案します。

  • グループ経営管理の構築
    子会社化やグローバル展開に備え、グループ経営の基盤を整備します。
    連結決算体制の構築、グループ共通のKPI設定、経営管理制度の標準化等を進めます。
    特に重要なのは、各社の自律性と全体最適のバランスを取ることです。

各フェーズで重要なのは、「今の規模で必要十分な体制」と「次のステージを見据えた準備」のバランスです。
特に初期フェーズでは、過度に複雑な仕組みを入れすぎないよう注意しましょう。

4.なぜ多くのスタートアップが経営企画でつまずくのか

多くのスタートアップが経営企画で課題を抱えるのは、次のような要因に起因しています。

  • 人材不足:専門知識を持った人材の採用が困難
    経営企画には、財務や会計の知識だけでなく、戦略立案や分析力、プロジェクト管理能力など幅広いスキルが必要です。
    しかし、こうしたスキルを持つ人材は市場に少なく、採用が難しいのが現実です。また、スタートアップ特有のスピード感に対応できる人材の確保も課題となります。

  • 時間不足:日々の業務に追われ、計画策定や分析の時間が取れない
    日々の業務に追われる中で、中長期の計画策定やデータ分析にまで時間を割けないことが多くあります。
    特に成長フェーズにおいて、経営者が直接事業の最前線に立っている場合、経営企画業務に十分なリソースを割くのが難しいことがあります。

  • 知見不足:経営企画のベストプラクティスがわからない
    くのスタートアップ経営者は事業やプロダクトには精通しているものの、経営管理や組織運営についての経験が限られています。
    特に成長フェーズごとに異なる経営企画の役割や優先事項を理解し、実行するには専門的な知見が求められます。

これらの要因は相互に関連しており、どれか一つの解決ではなく、全体的な経営管理の体制整備が必要とされることが多いようです。

5.解決策:外部リソースの戦略的活用

こうした課題を効率的に解決するには、外部リソースの活用が有効です。ここでは、スタートアップの経営企画機能を強化するために役立つ外部支援について紹介します。

経営管理システムの導入支援

提供価値:
- 成長フェーズに適したシステム選定と導入プロセスの設計
- 運用ノウハウの移管やシステム運用体制の確立
メリット:
- 導入実績に基づき、適切なシステムとスムーズな導入が可能
- 試行錯誤の時間を削減し、早期に管理基盤を整備
- 将来的な拡張性を見据えた設計により、企業の成長に合わせた柔軟な管理体制が構築可能

KPI設計・モニタリング支援

提供価値:
- 業界知見を活かした重要指標の特定と設定
- データ収集および分析の仕組み構築
- レポーティング体制の確立と改善
メリット:
- 他社のベストプラクティスを参考にした効果的なKPI設計
- 指標の測定可能性を考慮した現実的な運用設計が可能
- 経営判断に直結するレポーティングによって、事業の方向性をデータに基づき調整

経営戦略策定サポート

提供価値:
- 市場や競合分析の実施と成長シナリオの策定
- 具体的なアクションプランと、実行可能なマイルストーンの設定
メリット:
- 客観的な外部視点での戦略立案による事業機会の最大化
- 実務経験に基づいた戦略の具体化で、現場に適応するアクションを明確に
- 社内のリソースを本業に集中させつつ、戦略の推進力を強化

データ分析基盤の構築

提供価値:
- データ統合環境の設計と、分析ツールの導入支援
- データ活用の仕組み化による情報のリアルタイム把握
メリット:
- 専門的なデータ分析を実施するための基盤整備が可能
- 専門人材を雇用するコストを抑えつつ、高度な分析を実現
- スケーラブルなデータ基盤により、将来の事業展開に備えたデータ管理体制の整備

アウトソースを活用する際は、単なる業務の外部委託ではなく、「成長パートナー」として機能してくれる事業者を選定することが重要です。
特に立ち上げフェーズでは、将来の内製化を見据えた知見の移管や、段階的な体制構築をサポートしてくれるパートナーを選ぶことで、より効果的な経営企画機能の確立が可能となります。

6.成長を加速させる攻めの経営企画へ

経営企画は単に管理するだけではなく、事業成長を加速させるための「攻めの機能」として捉えることが重要です。
自社のフェーズに合わせて必要な経営企画の機能を構築し、適切なタイミングで外部パートナーを活用することで、効果的な成長基盤を確立できます。

経営企画に関する具体的な相談や、貴社に最適な支援の形を検討したい方は、ぜひこちらまでご連絡ください。
実務経験豊富な専門家が、貴社の課題に合わせた解決策をご提案させていただきます。


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