風を待つ心は年を追うごとに変化して:成熟とは何か
風を待つ。この言葉の響きがとても明るい印象だった若かりし頃。
タンポポの綿毛が風に乗り、「新しい地」へと飛び立つことを夢見ながら、与えられた今を精一杯生きる。
「その時」が来るのを待ちながら研鑽に励み、どれだけ辛くとも目の前の苦しみから逃げるまいと、大いに勇気づけられた。
風を待つ心はワクワクで満たされていたのだ。
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風を待つ。そのことにワクワクした気持ちを抱けない大人になって。
堅実さを求める心が優先され、退屈で平凡な生き方を是とする。忙しい日々に追われ、風を待っていたことすら忘れてしまう。
どこか違う場所へ行くことなど永遠にないかのように。
ずっとここで生きていくと覚悟を決めたかのように。
ただひたすらに生きるのだ。
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風を待つ。枝に残った枯れ葉に気持ちを重ねて中年期を過ぎ。
「その時」が来たら、土へと還るのだと悟る。
永遠にここに留まることはない。ごく自然に「その時」は訪れて、風は我が身を大地へと運ぶ。
命の寝床に横たわる自分をイメージし、若い頃は感じ得なかったワクワクを手に入れるのだ。
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風を待つ。老いてその時を迎えることは喜びでもある。
幾多の危機を乗り越えて生き長らえたことに感謝して、次の世代に命を繋ぐ。見ることのない未来を夢見て風を待つ。
最期の風を待つワクワクを存分に味わうため、若いときには想像すらできなかった「感性」を磨く。
それが成熟というものではないだろうか?