見出し画像

昨夜のカレー、明日のパン

銀杏をわる

湯船につかるギフ、脱衣所におくのを忘れたタオルをもっていくテツコ

「テツコさん」
「なんでございますか?」
「オレたちってさ、生死を共にしてんだよなぁ」

旦那を7年前に亡くしたテツコと
妻と息子(テツコの旦那)を亡くしたギフ(義父だからギフ)が、
ひとつ屋根の下で穏やかに暮らす、何気ない日常のワンシーン(ちなみに、二人の間にはやらしい気持ちも雰囲気も一切ありませんよ!)

ギフはその日、テツコのともだちの山ガールと2人で、初めての山登りをして帰ってきたのですが、ついつい山頂でビールを飲みすぎてしまい、下りで体調を崩してしまって遭難しかけてしまいます。

テツコには、そんなこと一言も話さない、強がりでかっこつけなギフ。
テツコはそれから台所へ行って、ギフのために銀杏を割ってあげます。

「大きな銀杏の木になったかもしれないのにねぇ。すみませんね」と命を一粒一粒割り続ける。
「でも、うまいからしょうがないんだよね」と容赦なく割っていると、「あうぅ~ッ!」と風呂場から、ギフのいたたまれない叫び声が聞こえてきた。まるで、割られている銀杏が叫んでいるようだった。
「容赦せぬ」
と割ると、絶妙の間でまたギフの、
「う~~ッ」
という唸り声が聞こえる。
「ん?もしかして生死を共にするって、こんな感じ?」

ソフの本音

思い出すのは、小学4年から高校卒業まで、一緒に暮らした祖父(ソフ)。

癌で入院したのは、私が大学生になり、愛媛を離れ京都で一人暮らしをするようになってからだったので、お見舞いにいき、話をしたのも一度っきり。

そのとき話したのはソフが「あれを嫁にもらったのは失敗だった」という、祖母(ソボ)をディスる話。

小学校の校長先生で、真面目で寡黙な性格で、自分の座敷部屋で一人座っていたソフが、死ぬ直前に孫に伝える言葉が、ソボディスり話。(ソボのどんなところをディスってたかは、きれいに忘れました)

当時ハタチで初めて彼女ができたことを話す私に、ソフなりに戒めをこめ、「落ち着いて相手をみつけろよ」と助言してくれていたのかもしれないのですが、ほとんど会話らしい会話をしてこなかったソフと、初めて心がつながったように感じた最初で最期の時間でした。(ソフの本音に興奮し、ソボディスりで共感して盛り上がりました。ハートウォーミングな話じゃなくて、すみません。。)

本気と生きる

本の世界に戻ります。

ギフが家に帰る前。山を下っている途中で体調を崩してしまい、山ガールの師匠(テツコのともだち)が「背中に乗って下さい。私が背負って下ります」といっちゃうほどに危ない状況になり、その本気を感じて、ギフがすこんッと体調が良くなる。それから師匠はあることに気づきます。

「なるほど、わかりました」
 師匠は、しきりに一人で納得している。
「何がわかったんですか?」
「私が山登りする理由です」
「ほう、わかりましたか?」
「私は、誰かと生死を共にしたかったんだ」

山に登って、自分自身の命の危険を感じたり、身近な人がいなくなり、その人のいない日常の中で、「あの人が生きていたこと」や「このひとはまだ生きていてくれること」に気づいたり。

だれかを傷つけたり、自分が傷ついたりしないように。本音や本気を隠しながら、ゆるゆると生きてしまいがちな自分をみたら、ソフにぴしゃっとディスられてしまうかも、しれないなぁ。。

「うぅ~~ッ!」

みっともなくて恥ずかしい、苦しくてめんどくさいかもしれないけど、どうせ死ぬんなら、共に生きる人たちと「生死を共にする」生き方をしたい。

銀杏を割るように、いさぎよい生き方は難しいけど、一歩一歩あるきながら全身に血をめぐらせるような生き方なら、できるかもしれません。


ここまで読んでくださり有難うございました!
おすすめの本があったら、ぜひ教えて下さい!


この記事が参加している募集