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「役に立たない」研究の未来 をきっかけに企業の新規事業を考える

ポップで明るい表紙の見た目と、大きなギャップのあるテーマ設定。

企業で「研究開発の成果を新規事業にする」ことに関わる立場にいるので、この本をきっかけに、ちょっとポップな気持ちでかんがえてみたい。

そもそも「役に立つ」なんて考える必要ある?

国の税金や事業部の利益を使う立場にいる基礎研究の研究者たちは、いつだって肩身が狭い。「なんの役に立つの?」という質問に対して、とある所長はこんな説明をしているらしい。

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1.基礎研究はそれ自体が知識を向上させる
2.基礎研究はしばしば予想外のかたちで、新しいツールや技術をもたらす
3.好奇心を原動力とする基礎研究は、世界最高レベルの学者を惹きつける
4.基礎研究によって得られる知識の大半は公共の財産となる
5.基礎研究の最も具体的な効果はスタートアップ企業というかたちで現れる (プリンストン高等研究所現所長 ロベルト・ダイクラーフ p.44-45)

この説明を聞いて「基礎研究、めちゃくちゃ役に立つじゃないか!」と思ってくれるといいけれど、多くの人は「一般的な話とか過去の事例とかじゃなくて、いまあなたが取り組む研究が、私達にどう役に立つのか説明してよ」というのが本当に聞きたいところだろう。

先の所長もこんなことを言っている。

基礎科学には支援する価値があることを、一般の人々に納得させるのは難しい。(・・・)その目的と価値を伝えるのに最適な立場にあるのは、研究をおこなっている科学者や学者自身だ。(p.46-47)

一方で、研究者は「なんであなたの役に立たないといけないの?」とか「そもそも役に立つなんて考える必要ある?」というのが本音だろう。この研究者自身と周囲とのギャップをどう埋めていくかこそ、最大のテーマだが、ひとまず最近の国内での取り組みを1つ共有したい。


確かに感じるのに表現しづらい魅力・・・

ジャーナリストが研究室に滞在して、研究者の日常を観察する『ジャーナリスト・イン・レジデンス』という活動が日本でもおこなわれている。

研究者自身が研究成果を発信するのではなく、ジャーナリストが研究の日常を観察して、そこから気がついたことを表現するというのは、かなり筋が良さそうなアプローチ!と思い、実際に漫画にされたものをみてみた。

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「・・・正直、もやもや感がすごい」

この漫画だと「やっぱり、何の役にも立たないじゃん」と思われてしまうが、1ヶ月や半年など、より長い間一緒に過ごすようになると違うものが見えてくるのかもしれない。しかしそこで表現されるものは、愛着や思い入れだったり、その研究者の人間性のようなものが中心になるはず。果たしてそういった表現は、当事者でない人たちにとって共感したり納得できる話になるのだろうか。。


研究も新規事業も、おもしろがる人へ届けばいい

この本は、理化学研究所のプログラムディレクターと、東京工業大学の特任教授、名古屋大学大学院の教授が登壇したイベントを書籍化したもので、第三部は当日のディスカッションとは別にそれぞれの主張を書いてもらっているようなのだが、そのそれぞれのタイトルに本音を強く感じられる。

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ひとつは、科学(研究)と技術(開発)、研究機関と企業はつながりをもち、互いに独立しながらも、協働できる場所をもとうという主張。
2つ目は、数年で成果を求める投資家から距離をとり、科学者が好きなことに邁進できる環境を守ろうという主張。
3つ目は、社会のために役に立つことから距離を取り、なにかの道具ではなく、研究それ自体を目的にすべきという主張。

研究も新規事業も、開発や社会実装、既存事業と比較して、相手の欠点をあげて「こっちのほうが良い」という主張をしたところで、応援や仲間は増えません。距離を取り、影響を受けまいとするほど、周囲からの理解や共感からは程遠くなってしまいます。一方で、自分たちの価値を認めてくれる企業と手を組むことは、役に立つことに研究を駆り立てていってしまいます。

研究者が「だれかの役に立つ存在」であろうとするのではなく、周りのごく一部の「おもしろがる人」が、一緒におもしろがってくれたらいい。それは周囲の人にとっては、ある種の娯楽のようなものなのかもしれません。

当事者にとっては真剣に人生をかけていることも、興味本位で関心をもった人たちにとってはエンタメであり、息抜き。そこに本気度なんて求めようはないし、それこそ彼らが役に立つことなんて、期待しちゃいけない。

けれど、研究の中で新たに浮かんでくる問題とか、新規事業の仮説検証でわかってくる小さな発見のようなものを、いっしょに一喜一憂してくれる人たちがいると支えになることはあるはずわかる人たちにしかわからないドラマのストーリーが、応援する側にとっての救いになるときがあるはずです

多くの人に理解してもらうことなんてできない。だからこそ、あなたには届いて欲しい。そんな軽やかさと誠実さをもち、おもしろさを伝えることを諦めない。デザイン会社でも広告会社でもなく、研究者や新規事業担当者自身が、自分の言葉で表現することに、こだわり続けて欲しい。

教授たちもプレゼン資料をもっとわかりやすくして欲しい!日本人は日本の研究者を応援したり、尊敬できるようになってほしい!


とりあえず本書で紹介されていた研究のクラウドファンディングで「感情が生じるメカニズムを究明したい!」という研究を知ったのでサポーターになってみるところから始めました。月額330円からあしながおじさんデビューできるのでおすすめです。


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