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マウントで人生を整えなくても、働きながら本を読めるようになるには
本のマウンティングの世界
三宅さんの本『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』で、もっとも印象的だったのは2021年公開の映画『花束みたいな恋をした』で麦と絹が書店にいくシーン。
絹は自分が好きな文芸誌「たべるのがおそい」を見つけ嬉しそうに手に取る。一方、麦は自己啓発書コーナーで前田裕二の『人生の勝算』を立ち読みする。東京生まれで親も裕福な絹は、地方生まれで仕送りをもらえない麦が自己啓発書を手にすることに、否定的な反応をする。はっきり言って、絹から麦への視線には「こないだまで文化的な趣味を持っていた彼氏が、イマは自己啓発書を読んでいるなんて、ちょっとかっこわるい」というささやかな蔑視すら感じる。
これどこかで見たことあると思ったら、『人生が整うマウンティング大全』にのっていた古典愛読マウントの文芸版だ。
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三宅さんの本では、労働史、読書史をさかのぼり、背景にある社会の階級格差の影響や、自分で自分を働かせすぎてしまう社会構造を浮き彫りにしてくれる。そうした「そういうふうにできている」ものを解きほぐすことも非常に面白く、年表などにまとめたくなるが、ここでは本のマウンティングに焦点を絞りたい。
いつの時代も人は本でマウンティングをとっていた
明治時代。夏目漱石の『門』には、エリート主人公が歯医者の待合室で雑誌『成功』をみつけパラパラとめくり、そっと雑誌を伏せて「こんな雑誌があるなんて知らんかったわ」と冷ややかな目で見つめるシーンがある。『成功』は工場の労働者が読む雑誌。なんともストレートなタイトルだ。
大正時代は総合雑誌がマウンティングのフィールドになった。
読書階級の一員たるサラリーマン層は、新聞・講談雑誌を読む労働者との最下の必要に迫られた。この要請に応えるべく出現してきたのが、まず『文藝春秋』であった。『文藝春秋』や『中央公論』等の総合雑誌を読む読者としてサラリーマン層は自らを差異化した。
教養あるエリートと、負けじと自己啓発をする労働者。ある人は歴史上の偉人から教訓を学び、またある人はコミュニケーション術のハウツーを学ぶ。
同じ時代同じような会社で働いているからこそ、周りと違う本を読み、ユニークな教養を効率的にみにつけたい。自分が選んだ本、学ぶジャンルに価値があると思いたいから、他の人が選ぶ本はくだらないものと思ってしまう。それがいつの時代も通ずる、自己啓発本における愛読書マウントだ。
自分が選ばない本は、ぜんぶノイズ
SNSで常に多くの情報が流れ続けるようになり、ひとはなるべく目に入る情報を絞り込まなければならなくなった。
自己啓発書の特徴は、自己のコントローラブルな行動の変革を促すことにある。つまり他人や社会といったアンコントローラブルなものは捨て置き、自分の行動というコントローラブルなものの変革に注力することによって、自分の人生を変革する。それが自己啓発書のロジックである。そのとき、アンコントローラブルな外部の社会は、ノイズとして除去される。
愛読書マウントで、読まなない本はノイズとして除去。そうすることで人生を整えていかなければ、時間がいくらあっても足りない。仕事に直接関係する本すらまともに読む時間が取れないのに、趣味や娯楽の本や、他の人が読んでる本まで読むなんて、ぜっったいにムリ!!!
働きながら本が読めるようになるには
愛読書マウントで人生を整えてしまいがちなのはわかった。しかし、そのままでは働きながら愛読書以外の本を読むことができないままになる。
大切なのは、他者の文脈をシャットアウトしないことだ。
仕事のノイズになるような知識を、あえて受け入れる。
仕事以外の文脈を思い出すこと。そのノイズを、受け入れること。
それこそが、私たちが働きながら本を読む一歩なのではないだろうか。
三宅さんの回答は、働いて余裕がなくなっている人たちにとって、耳が痛い言葉だろう。ここまで本を読み通せた人たちなら、快く受け入れる準備が整っているかもしれないが。(普通なら受け入れられないことを受け入れられる状態にすることは、本の大きなパワーの1つだろう)
「ちゃんと人の話をききましょう」と傾聴をテーマにした本は『LISTEN 聞くことは最高の知性』や『聞く技術 聞いてもらう技術』などがあるが、上司や部下でもない、あまたいる著者という他者の文脈に、何時間も耳を傾けるというのは至難の業だ。
他者の文脈を、他人事にしないために
となると、できることはどんなことだろうか。働きながら本を読むコツとして三宅さんがおすすめする読書アカウントをフォローするというのは、ひとつだろう。継続的に何人かの読書歴をみていけると、読書アカという他者の文脈から、愛読書や推しの著者以外の本に出会えるようになる。
もうひとつ提案したい。本棚の写真をバーもちよって、飲みながら人生を語らうのはどうだろう。リラックスした時間と場所で、マウンティングしても仕方のないメンバーで、他者の棚について問いかけ、同じ本を読んでいることに喜び、気がつくと他者の文脈が他人事でなくなってくる。そんな時間。
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仕事終わりにいろんな場所にあつまり、本を読み、本と人生を語らう。たまには愛読書マウントを披露してもらうのもいいだろう。ありがたく聞かせてもらえば、存外悪くはないかもしれない。
関西でいいかんじの場所をみつけるところから始めたい。
いっしょにやってくれる人、いい場所しってる人、参加してみたい人がいたらお気軽にご連絡ください。