読書感想23冊目:蟲愛づる姫君 虜囚の王妃は夜をしのぶ/宮野美嘉著(小学館文庫 キャラブン!)
注:感想を書き連ねる間に重要なネタバレをしている可能性があります。ネタバレNGな方は読み進めることをおすすめしません。苦情については一切受け付けません。また、感想については個人的なものになります。ご理解ご了承の上、読んでいただくことをお願いいたします。
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「蟲愛づる姫君の婚姻」シリーズ第九巻。
第一巻はこちら(次巻よりは順にリンクがあります)
第二章第3巻、「魔女」「恋」から始まり今回は「虜囚」。
今回の副題、「虜囚の王妃は夜をしのぶ」ですが、まさに、魁国の王妃であるところの玲琳姫、今回のお話では捕まり囚われの貴人、となってしまうのです。
理由はというと、他国間のもめごとに巻き込まれたため。
新章では、と言わなくても基本的に巻き込まれることの多い印象ですが、まさか他国事情にまで巻き込まれるとは、という感じ。
しかも、今回は国王夫妻そろってなので国家としても一大事。
事の発端はといえば、玲琳姫の故郷であり最愛の姉が治める斎帝国と、玲琳姫に求婚した第二王子がいるという浅からぬ縁を持つ飛国。この二国は対立しあっている、というか、以前に婚儀による縁結びがうまくいかずぎくしゃくしていたとのこと。
そんな二国がこのたびめでたくも同盟を結ぶことになったとのことで、その立会人として指名されたのが玲琳姫。
断るいわれもないと快諾しつつ、現況を知ろうと放った呪い破られるという事態。
なにやら不穏な気配、と思いつつ旅立った国王夫妻がそのまま囚われてしまう……というのが全体のハイライト。
二人を捕まえたのは二国の同盟を阻止したい、飛国の蟲師一族。蟲毒の民である玲琳姫とはまた違った流派があると前巻での出来事で知りつつも出会ったのは初。
そんな玲琳姫に対して蟲師一族は玲琳姫を、というよりも師匠であり母であった胡蝶をよく知った上で憎しみをぶつけます。
蟲師の誇りと実力でもってこてんぱんにしてやろうとした玲琳姫でしたが、なんと蟲もかなわず優秀な暗殺者の実力を持つ『森羅』である葉歌さえしりぞけてしまう強力な敵に対し、玲琳姫、大ピンチです。
果たして国王夫妻は無事に囚われの身から解放されるのか。二国の同盟は相成るのか。
そもそも同盟を厭うのは、誰で、なんの目的があるのか。
様々な思い、特に憎しみをはらんだ今回のお話は、窮地に陥りながらも玲琳姫と夫であり魁国王の鍠牙の知恵を絞る様子。王宮で事態を察知した後の王女王子、側近たちの行動。
その流れにいつも通りの安心感を覚えつつもスリリングな心地がするところです。
蟲師として常人とは少し異なる考えや誇りを持ってはいるものの、ただただ自分が正しいと思うのではなくそれを自覚しているゆえに俯瞰して物事を見て判断することができるために世界がうまく回ってるんだなという玲琳姫の政治への見識も見られたり。
久しぶりに登場の斎帝国の女王彩蘭とその王配の普稀さんは、どちらもその強さに変わりなし。ここも安心の一手です。しびれるような冷徹さに、玲琳姫がこの場にいたらうっとりしながら身もだえしてそう!などと重い菜が柄読みました。
第二章からレギュラー入りしている紅玉さんと犬神の黒もそれぞれいい感じです。
なにより今回は、鍠牙とはまた違った壊れかたをした人物も出てきます。そのあたりの闇の深さをがっつり味わうのも見所の一つ。
全て理解した上でその狂気を隠しながら過ごすことに対し、その精神力の強さ、恐ろしさを感じます。
どのキャラクターもどこか壊れていて、それを玲琳姫は「毒」と評して愛でているのですが、その懐の深さもすごい。
ある意味一番指導者に向いているのかもしれないな、と読むたび思うところです。ほかの方々のインパクトが強すぎるのと、政治に興味もなければ私情が入りやすい面があったりするので結果として向いてないのかもしれませんが。
そんな三国を統べる人物と、その周辺の人物や思惑なども考えながら読むのも面白いのかもしれません。
斎帝国、飛国、魁国の三国は中華風の国土ではあろうと推測するのですが、きっと少しずつ文化や雰囲気などが違うのだろうなぁと思うところです。
飛国は金・赤・朱色でド派手そう、魁国はモンゴル系?も含んでそうと思うのですが斎帝国が謎なのですよね……古典的でありながら異国情緒も取り入れつつ、穏やかにしとやかにきらびやか……?色合いとかでの雰囲気がうまくつかめないところです。
そしてちょこちょことなれそめシリーズ的に語られる掌編もあり。
『彩り月の錦』は、斎帝国の女王夫妻のお話です。
二人のあれこれそれ、は周りの評価はあれど、本当のところは二人しか知らない。というか、周りの評価も外に出ている言葉もめちゃくちゃ冷たいんですけどね。印象通りなんですけどね。
でも、いやーラブラブじゃんね!?とちょっとだけつっこみみつつ砂糖を吐き出したい感じに仕上がっています。
個人的には嬉しい、よかったと思いながら読了したのでした。
公式紹介ページはこちら
コミック版もあります(第一巻のお話ですが)
お読みいただきありがとうございました!
第十巻はこちら