読書感想39冊目:15秒のターン/紅玉いづき著(メディアワークス文庫)
注:感想を書き連ねる間に重要なネタバレをしている可能性があります。ネタバレNGな方は読み進めることをおすすめしません。苦情については一切受け付けません。また、感想については個人的なものになります。ご理解ご了承の上、読んでいただくことをお願いいたします。
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著者、紅玉いづき先生のデビュー15周年記念刊行による第3弾。
あとがきを読んで気づいたのですが、「読んだことあるな、これ」でした。言われてみれば既視感があったような?
でも全然気にならずに読了。自分の記憶力のなさにアッパレ(誉めてない)ではなく、作品が良いからかわらず没頭できるのだということですね。
さて、この一冊、全部で五本の物語から構成されています。
帯には”迷える彼女達の5つの「決断」の物語”とあります。
その謳い文句のとおり、少女(だった人、その思い出も含む)たちの、瑞々しくも不器用で歯がゆくて、それでいて妖艶でもどかしく、儚さと郷愁でキラキラと輝く物語たち。
紅玉さんの文章はひとつひとつの言葉を散りばめて、大きく広げて展開される、航海図や星図のような感じです。道標でありながら遠くに感じ、近くにいつもあるような。
共感するけれど分厚いガラス越しのような曖昧な感覚。でもそれでいて胸をぎゅうと掴まれ絞められるような、切ない気持ちになる。憧れのような泣きたくなるような。
そんな感情で揺さぶられる物語たちばかり。
それぞれのお話についても少しずつ。
【15秒のターン】
本書の表題にもなっている一作。30ページと少しの短編であり、お話の作りが少し変わっている。そして、15秒間という、ちょっとしたやり取りで過ぎてしまう短い時間のこと。
それでもぐう、とクリティカルヒットを受けてしまう。すごい。
読了時、紙の本がなくなるという話題がXで出ていたので、「これが電子だけなんてもったいない! 五感大事にしていきたい!」と手元に文庫本があることを感謝したところです。
ほたるちゃんと梶くんが、それぞれに思う、15秒。その思いの交錯が深すぎて、怖い。いろんな日々の思い出が書き出されているのですが、たしかに脳内で思い出すと「秒」だよなぁと。
15秒のターン、というのが、どんな意味を持って物語を彩るのか、それを読み進めて最後に行きつくと、なんとまぁ自分でも15秒間しか過ぎていないような感覚に陥るお話でした。
あ、小さな恋のお話です(最大限の小さなネタバレ)
【2Bの黒髪】
これ読んだことあったんですよ!でも忘れてたんですよ!!!
でも、変わらず胸をぎゅっとつかまれる、思春期というか苦しい、若さゆえに目の前が見えない不安を淡々と、でも白黒でありながらとてもみずみずしく描いているのがすごいなと(語彙力)
タイトルの意味はそのままなのですが、2B?クラス?なんて読み進めるのは危険です。やられます。
シンプルなタイトルなのになぜそんなに奥深くなるの!?と叫びたくなる、じっとりとした爽快感。
最後に泣きながら笑うような、そんな読了感を味わえます。
【戦場にも朝が来る】
物騒なタイトルですね~
登場人物は少女が二人。彼女たちの戦場はどこなのか。
『2B~』とはまた違った苦しいさなかにいる二人の気持ちのやり取りは、一方通行なような両想いなような。
主人公のひとり、あたし、がチョコに託した思いと、チョコがあたしことあめめに向ける思いと。
その終着点が朝と呼べるのか否かは、読んだ人の解釈によるものではないでしょうか。
私は、戦い続ける勇敢な彼女たちが、まっすぐ光も闇も押しのけて走っていってほしいなと陰ながらそっと応援したくなる気持ちになりました。
【この列車は楽園ゆき】
東京、という場所がキーワード。
茜子さん、という呼び方で進んでいくので、誰かからの伝聞のような形なのが印象的なお話。
いうなれば、彼女のコンプレックスのお話なのかもしれない。
そんな彼女に深く関わるのは、高根文明くん、「ブンメイ」などとあだ名をつけられている彼は、どこか死んだように生きている茜子さんと対比しているようで少しいびつな位置に存在するようなクラスメイト。
感情が豊かというよりも、まわりのすべてに感化されてしまう、というのが正しいのか、うまく言い表せられないのですが、惰性で息をして、生活をしているような印象の茜子さんに対比すると、色があるというか。
明るい色に交じっているのに浮いた印象、もしくは濁っていくように感じているし描写される茜子さん。
浮いているはずなのにどこまでも色鮮やかで、それゆえに誰とも交わらない印象の高根くん。
高い根、って矛盾してんなー、と感想を連ねながら思ったところですが、茜子さんが向かう楽園と、高根くんの立ち位置、見届けてほしいところです。
【15年目の遠回り】
15と15で挟んでくるあたり、憎らしい!!!そんなお話。
冒頭は”妹のほたるが死んだ。”で始まります。
読んだ人はあら?と思う事でしょう。どこかで聞いた名前だと。
最初に言いました、15と15で挟んでくるあたりが憎らしい!
大人の視点で、バーで話される恋のこと。
それが15年目にして、どういう風に語られるのか。
しっとりと、でも情熱があって。モノクロームのような風合いでありながら、ほのかに燃えるキャンドルのもと、ひっそりと話し合うような。
最後に結ぶ言葉は、女の子って強いよね!と実感できるもの。
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