読書感想38冊目:Lithos-六色の宝石物語-/桐原さくも、篠崎琴子、東堂燦作
注:感想を書き連ねる間に重要なネタバレをしている可能性があります。ネタバレNGな方は読み進めることをおすすめしません。苦情については一切受け付けません。また、感想については個人的なものになります。ご理解ご了承の上、読んでいただくことをお願いいたします。
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はじめに
このお話たちは、一次創作サークル花鳥-あやとり-さんから2013年11月に発刊された、三人の書き手さんから紡がれた一次創作小説合同誌です。
題名の通り、六つの宝石と六つの色をテーマとしてつくられたお話たちでつくられた一冊。
コンセプトは万華鏡とのこと(裏表紙より)。
装丁も、お話も、どれをとっても素晴らしくて好みでたまらなく、ふと思い出して読み直したので記録するにいたりました。
なお、和風、中華風、洋風のお話には挿絵が、表紙は万華鏡と六つの宝石がイラスト担当ゆあさんにより描かれており、こちらもとてもとてもすてきです。
そして本編。六つのお話の合同誌でありながら、その世界観はそれぞれで、それでいて大きな調和をもって読み進めることができました。
お話それぞれがつながっているわけではないのに、どこかしっくりとくる。
ひとつひとつのお話を読み終えたあと、すとんと心に落ち着く、そして次へ、とページを繰る。
そんな良い時間を過ごすことができたお話を、私なりの感想でひとつずつ、綴っていこうと思います。
各お話の作者は敬称略、タイトルの後の色や〇〇風は当時の宣伝ページから、宝石は記載されたものを発見することができなかったので推測にて記載しております。
【花と蝶々】砂漠/red ルビー(著:東堂燦)
傷だらけの少女と少年の出会いから別れまでが描かれています。
それぞれはそれぞれに絶望や諦観を抱えていて、そんな二人が出会い、お互いがお互いの中に見つけた、ほんとうに大切で綺麗なもの。けれど歪な事実が彼らの前には横たわっていて。
花と蝶々、は二人の名前になります。冒頭、出会いとともに名がつけられるのですがそのやりとりを見てからお話の最後にたどり着くとき、胸が締め付けられます。
花は蝶々とともに、蝶々は花とともに。
ひとつの国の終わりと始まりの中で、少女と少年の狂うように優しい愛しさのやりとりが、この1冊のはじまりとしてふさわしいと言えるあざやかさで描かれています。
【境の坂井に咲く水守】和風/yellow トパーズ(著:篠崎琴子)
赤で始まった激しさを感じるお話から一変、こちらの和風のお話はしっとりと落ち着いた雰囲気です。
神域に花嫁として、巫女のような役割をもって参った東領の姫と西領の姫が出会います。ふたりの姫には花嫁として境の坂井と呼ばれる神域に参る資格があり、胸に秘めた思惑をもっているのですが、お話の主な視点は東領の姫、瞠で語られます。
境の坂井に参ることのできる資格はそれぞれの御祖の姿に似た特徴を持つこと。
瞠は黄金色の髪を持ち、目鼻立ちがくっきりとした領の民とは違う特徴を持っているが、境の坂井で出会った西の領の姫は、さらに一線を画していた。
頭に雄鹿の角のように生えた枝と、琥珀のごとき黄金に咲く花。たおやかで美しい見目の少女に現れたそれは、確かに先祖返りというにふさわしく。
神の側であるものと崇められる聖の三宮と、賢く尊い三人の女人が祝の三宮と呼ばれるほかに、彼女たちはたしかに特別な存在だった。
まわりの思惑はどうあれど。
そんななかで瞠は予定通り神域に参ることが叶い、己の目的を果たそうとしながら西の姫と複雑な関係であることを気にしながら過ごしていく。
神域で過ごす二人がたどりつく、その道の先は、前途あれ、幸せであれと祈らずにはいられない微笑ましいものです。
【龍神あしび】琉球/green エメラルド(著:桐原さくも)
人魚に呪われたとされ、幽閉されていた少女、シギラは龍神の愛し子とされるカナサティーダに出会い、外の世界へと連れ出される。
小さな南の島国をカナサティーダとそばに控えるユルと共に、シギラはめ北へ北へと向かっていく。
北に向かう目的を、シギラは知らない。
尊い主のカナサが望むことを叶えたい。ただそれだけを純粋に思いながら旅をする。歌を唄い、自然に寄り添い、異端である自分と同じカナサとただ一緒にいたいと願い続けながら。
それを終わらせたのは「南へ行く」と決めたカナサの言葉。
その一言を契機に、三人の旅の意味が、南国の太陽のもとに明らかになる。
三人の思いが向かう先は、どうなるのか。
シギラの純粋で飾らない言葉と、優しいカナサの仕草、ユルの意地悪そうなキャラクターに、短いお話ながらぐぐっと引き込まれます。
【華英】中華風/blue サファイア(著:東堂燦)
夜明、と呼ばれる彼のそばで、覚えのない記憶を持って過ごす少女。
いまにも儚くなりそうな彼の命を細くとも永らえようと祈る彼女の前に現れたのは、兄の娘である凛麗。彼女は少女を見るなり拒絶の言葉を吐いた。
凛麗は夜明が外に出ず人形を作り続ける生活から抜け出し、自分を支えてほしいと願っているが、夜明は己の愛する人の死に関わる彼女のそばに戻ることをよしとしない。
夜明が”そう”なってしまった理由がわかるにつれ、彼の死を受け入れつつあった少女はある目的を胸に抱く。
彼の愛した人の名を、その人が亡くなった原因を、少女が彼と共にある理由を。
そのすべてが明らかになるときに、少女と少女が愛した彼の結末を、青の中で描かれた物語の中に知ることができます。
青、というテーマのせいなのか、初めから色濃く死の気配が漂い、その結末に至るのではと思いを馳せます。
けれどお話の流れには切ない、悲しいだけにとどまらないドラマが潜んでいます。その流れに沈み込むときに、私は何とも言えない苦い思いと、毒を含む宝石や花の意味を考えてしまうのでした。
【亡き王、あなたと夜明けに臨む】南国/purple アメジスト(著:篠崎琴子)
婚姻の日に語られた、異国の女王であり妻となる彼女の話。
華々しく強く思える女王の、王となる前にあった出来事。
父と、母と呼んだ女性との日々。国を継ぐという重責の中で、たった一人、ただの女の子と扱ってくれた母との大切な日々。
けれど、女王が女王となったそのくだりの、その事件のさなかに関わった人々のそれぞれの思いのなり方を。
国の夜明けと、一日の始まりの夜明けを迎える話を、新たに夫婦の始まりの日に。
母に贈られた飾りにつけられた宝石の色もまた、夜明けの色を宿して。
過去を振り返りながらも明るい未来を感じさせる、しんみりとしながら小さな切ない謎も秘められたお話。
【揺りかごの庭】洋風/pink ローズクォーツ(著:桐原さくも)
奇石職人の娘のもとに来ることになった理由を、少年は知っているようで知らなかった。交わされた誓約は、それぞれの目的であり願いでした。
亡くしたものが戻らないことを知り奇石をふみにじる奇石職人を憎む少年、ラギ。侵略の末に人身売買の商品となっていたラギを引き取った奇石職人のローダンテと、彼女に仕える庭師のエルーことアイエルーロス。
三人は奇石によってつながりながら、それぞれの誓約がかなうことを祈っているのだけれど、そのいびつさとかたくなさ、アンバランスさが絶妙に絡み合っていてもどかしいです。
ゆったりとたゆたっていた日々を動かしたのは、意志の言葉。
石(奇石)にまつわる人々の、意志による物語。
お話の真意に紐づけられたお話の構成と、三者三様の思いと態度、言葉と願いの絡まり方にうなるばかりです。
作品のページはこちら
製本版は完売の上、再販予定はないとのことです(作品公開ページには飛べないようです)
お読みいただきありがとうございました!