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南アルプスを越え来る冬を見た。ウイスキーとFoveonと供に。
静岡県の山側に尖りでる角は3000m峰が連なる南アルプス深南部。そこは町から片道4時間のドライブでやっと辿り着く、まさに僻地。そしてこの大いなる山々を乗り越えて、冬将軍は静岡を訪れる。
11月中旬、冬が静岡に到着する姿をFoveonとともに眺めました。そして標高1200mの山中で蒸留されるウイスキーのことも忘れがたい。
静岡県の屋根、南アルプス
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静岡のまちからめちゃくちゃ遠い。
赤破線で囲った角のようなエリアを中心に、長野県、山梨県にまたがる南アルプス。日本有数の高山帯であり、ライチョウの生息域南限。二次元の地図ではわかりづらいけど、静岡はこの山脈のおかげで北風と雪から守られ、太平洋側の暖気と湿度を逃さない。温暖な静岡の屋根のような存在。
地図からわかるように、市街地から南アルプスまでは非常に遠い。車で片道4時間。同じ静岡市葵区なのに。そんな辺境ともいえるエリアを、11月中旬に訪れました。お仕事だったのですが、Foveonをカバンに忍ばせて。
秋色に染まる接阻峡(標高500m)
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市街地からだいたい一時間半でたどり着いた休憩ポイントが接阻峡と呼ばれるV字谷が続くエリア。山肌を紅葉が染めており、大変美しかった。近くには温泉や資料館もあり、エメラルドグリーンの湖面を眺めながら歩くハイキングロードも整備されている。別の機会にゆっくりと訪れたい。十分に旅の目的地となる場所だ。
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接阻峡からさらに山に向かって小一時間進み、標高800mの白樺荘までくると、少し季節は進み、紅葉も散り際。
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余談だけど、白樺荘に向かう道中に、「てしゃまんく」がいるのでぜひ通りがかったら挨拶をしてほしい。彼は静岡の街中まで荷物を背負って駆け下りて、その日中に駆け戻ってくる健脚屈強にして知恵者のスーパースターである。浅間神社の大きな石鳥居を一人でひょいッとかけた伝説もある。和製バーフバリ。
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森の中に井川蒸留所(標高1200m)
白樺荘から30分ほどで畑薙ダムの駐車場に至る。一般車両で来られるのはここまで。それより向こうは特種東海製紙㈱の社有林。
もともと天領地だったこの山林を、明治時代半ばに大倉財閥が引き受け、林業が営まれてきた。ところが高度成長期が終わり1980年代にはいると諸般の事情で木材生産は中断。ユネスコパークや自然共生サイトに認定されるなどしながら現在に至る。この辺りの歴史は非常に面白いので、ぜひ、WEBサイトを確認してほしい。
そんな井川社有林で、十山㈱(特種東海のグループ会社)によるウイスキーづくりが始まっている。井川蒸留所だ。
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試飲させていただいたのだけど、これがとても華やかなかおりで美味しい。(スマホ撮影)
工場(蒸留所)は標高1200m、下界から7℃ほど気温が下がる亜高山帯。もってきたダウンを着込んでの訪問となった。周囲の落葉樹はほとんど葉を落とし、あと一週間もすると閉山するギリギリのタイミング。
空気も水もまったく異なる世界で作られるウイスキー、特別な存在だった。
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荒川三山を臨む(標高2200m)
蒸留所からさらに上がり、最終的には標高2200m地点に到達。目の前に雄大な3000m峰が並ぶ。よくみると樹林帯を越えた稜線はもう白い。
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すぐ目の前に、長野から冬が訪れようとしていた。
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周囲はシラビソ林で、樹皮をよくみると樹液がしみでている。柑橘系のようなスキッとした華やかな香りがする。
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指先に少し樹液をとり、道中の気付け薬とする。
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南アルプス深南部の標高2000m域は苔むすシラビソ林。樹高もそこまで高くないので比較的林内は明るくて、このままずっとここにいたくなるような快適な森だ。とはいえ、目の前に冬が迫っている状況。吐く息は白く、立ち止まるとじわりと冷気がまとわりつく。
美しい山に後ろ髪をひかれながら、帰路についた。
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帰路ももちろん4時間かかる。山をでたのは夕方だったのに、静岡駅についたのはとっぷり暮れた夜の8時過ぎ。駅前には薄手のコートの襟を立てて足早に行き交う人々。
南アルプスが、ずっしりとその背に冬を受け止めてくれていることを、きっとみんな知らない。
後日談)南アルプスがまちににやってきた
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南アルプスに関する基調講演や、現代のてしゃまんくともいえる3人の最強の山男たちのトーク、ライチョウの写真展・・盛沢山で最高のイベント。
その会場で、なんと井川蒸留所のウイスキーも限定販売されていました。蒸留所では購入できなかったことが心残りだっただけに、日を置かずに手に入れられてとても嬉しい。
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この本を片手に1200mの山奥に想いを馳せながら飲むと、一段と味わいが深まる気がする。
昨夏に初めて訪れた南アルプス。今回は登山とは違う形での再訪となったのですが、南アルプスの雄大さにあらためて下界での些事が吹き飛ぶ感覚を得ました。
昨夏の体験についてはこちらの記事にまとめたので、よければ。
今回持ち歩いていたFoveonについてはここで熱く勝手に解説しております。