コマンド入力操作のスキル
以前に「手続き的記憶としてのゲームプレイ操作」という記事で,コマンド入力について触れました。今回は,具体的なコマンド入力の操作を例に挙げながら,そのスキルを身につける過程について述べたいと思います。
そもそも何が難しいのか
かなり特殊な話だと思いますが,私は対戦格闘ゲームを使用した心理学実験を実施した経験があります。この心理学実験というのは,実験に協力してくれる人を募集して,来てもらった人(実験参加者)にゲームを実際にプレイしてもらい,心拍をデータとして取得したり,アンケート(質問紙)に回答してもらったりする,というものです。そして,プレイしてもらうゲームを他ジャンルに変えてみたり,初心者と上級者で比べてみたりすることによって,データの違いを見るというようなことをするわけです。そのような研究の詳細はここでは脇に置いておくとして,たくさんの実験参加者を観察するなかで,初心者のコマンド入力操作のスキルと,そのスキルが身についていく過程について考えていたことがあります。
比較的複雑なコマンド入力が苦手な人はいます。対戦格闘ゲームの初心者にとって,できるかできないかの境界線上にあるコマンド入力とはどのようなものでしょうか。当然のことですが,その境界はゲームプレイ経験によって大きく左右されます。ここでは,対戦格闘ゲームをほとんどプレイしたことがないけれども,一般的なコントローラーを使って複数のゲームをプレイしたことがあり,ゲームプレイ画面を見ながら十字キーとボタン押しの入力をすることができる,というようなプレイヤーをイメージしていただきたいと思います(すなわち,ゲームをまったくプレイしたことがないというような人ではないということです)。
私はおよそ100人以上は観察してきました。私の見る限り,初心者は「→+○」や「↓+○」などは難なくできますが,「↘+○」や「↙+○」,もしくは「→→+○」などはやや個人差があり,できるようになるまで少し時間がかかる場合があります(+は方向キーとボタンを同時に入力することを示します)。明確な境界線は「↓↘→+○」や「↓↙←+○」にあります。これらは他ジャンルではほとんど使われないため,即座にできるようにならない入力操作になっていると考えられます。このことは,以前の記事(「手続き的記憶としてのゲームプレイ操作」)で触れたように「手続き的記憶として定着していないために練習を必要とする」と言い換えることもできます。実際に少し頑張って教えて練習してもらうと,ほとんどの人は「↓↘→+○」ができるようになります。つまり,数あるコマンド入力のうちで「↓↘→+○」はできるかできないかの境界線上にある入力操作だといえるでしょう。
コマンド入力に関して,「そもそも何が難しいのか」や「どれが難しく感じられるのか」といった問題は,実際に観察してみなければわからないと思います。私はコマンド入力で苦労した経験がほとんどないので,なおさらでした。初心者が習熟していく過程を観察していてわかったことは,最初の練習のうちは一連の入力操作をいくつかに分割すべきだということでした。
複雑なコマンド入力の練習方法
この記事では,『グランブルーファンタジー ヴァーサス』(以下,『GBVS』と略記)を例に説明します(『GBVS』については,この記事の下の注に示しました)。コマンド入力の説明のために必要な記号の対応は,以下のとおりです。
弱攻撃:L
中攻撃:M
強攻撃:H
特殊技:U
方向キー入力は,対応する方向の矢印記号で示します(↓,→など)。
※『GBVS』には,アビリティ(R1)ボタンを使った入力方法がありますが,この記事では,方向キーと各種ボタンの組み合わせを使った「テクニカル入力」の場合で説明しています。
ジータの奥義「絶類なる十の力」を例として説明します。コマンド入力は以下のとおりです。
↓↘→↓↘→+H,(相手に当たったあと)L,L,M,M,H,H,L,M,H,↓↙←+U
(これはキャラクターが右向きの場合で,左向きの場合は入力方向が左右逆になる)
比較的複雑なコマンドですが,実はそんなに難しくはありません。できるようになるためには,練習の仕方が重要です。コツは一気にすべて成功させようとするのではなく,前から順番に練習していくことです。前提として,「↓↘→」系の入力ができるものとします。まずは「↓↘→↓↘→+H」の入力ができるところまで練習します。成功すると以下のようになります(少し細かい話ですが,以下の画像では,H,H,Hのヒット確認をし,それから「絶類なる十の力」を入力してキャンセルでつないでいるため,ヒット数が3から始まっていることに注意してください)。
© Cygames, Inc. Developed by ARC SYSTEM WORKS
次に,追加攻撃のコマンド入力の練習に移ります。最初のL,Lの入力は連打ではなく,2回だけポンポンと押す練習をします。成功時は以下のようにジータが斧を振り下ろします。
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それができるようになったら,続くMを2回入力するところまで練習します。成功時は以下のように杖が出てきます。
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次は,Hを2回入力するところまでの練習です。成功すると以下のようにジータが剣を振ります。
© Cygames, Inc. Developed by ARC SYSTEM WORKS
その次は,L,M,Hを順に入力する練習です。焦らずにテンポよくポンポンポンと入力します。成功時は以下のように銃が出ます。
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最後は「↓↙←+U」の入力です。ここも決して焦らず流れるように入力します。成功すれば以下のカッコイイ演出に移行します。
© Cygames, Inc. Developed by ARC SYSTEM WORKS
練習のポイントは,前から順に分割して練習することです。入力の結果となる演出に注目して,上で示してきたような各時点で,成功したか失敗したかを判断することも大切です。この技に限っていえば,全体として「ポンポンポン……」と一定のリズムで入力するのがコツです。ボタンを連打しても,入力のタイミングが合っていれば成功しますが,私はあまりオススメしません。
入力したのに演出が別のものだった(出てくる武器が違うものだった)という場合や,意図せず技が途中で止まってしまったという場合は,たいてい各ボタンを必要以上に押しすぎていたり,入力のタイミングが早すぎたり遅すぎたりしています。入力の練習では,やみくもに繰り返すのではなく,反省点を明確にしたうえで継続することが大切です。
慣れてくると,成功した部分までの入力が手続き的記憶として定着していきます。具体的には,自動的に指が動くようになります。「次に入力するのがどのボタンだったかを忘れた」といったようになっているうちはまだ練習が不足しているといえます。また,コマンド入力は焦っているほど失敗しやすいと思われます。いかに自動的な処理ができるようになるかがポイントです。
『GBVS』は比較的新しい作品で,個人的に面白いと思うので,例として使わせていただきました。実戦でテクニカル入力の「絶類なる十の力」が成功すると気持ちいいと思います。
注(『GBVS』について)
『GBVS』は,2020年2月に発売された『グラブル』の対戦格闘ゲーム(ジャンル名は,対戦アクションRPG)です。開発元はアークシステムワークス,発売元はCygamesで,PS4版とSteam版があります。
https://versus.granbluefantasy.jp/?lang=ja
(『GBVS』の公式Webサイトへのリンク)
複雑なコマンド入力の練習では,前から順番に分割し,ステップアップしていくという方法がよいということを述べてきました。例として挙げた「絶類なる十の力」に限らず,コンボ(連続技)の練習についても同じことがいえます。他の対戦格闘ゲームでも,特定の入力操作を手続き的記憶として定着させるためには,練習のポイントとなる部分を把握しながら,分割した形でトレーニングをしていくのがよいと思います。
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