労働災害を防ぐこと
労災の統計を見ると、日本は現場での軽い災害はどんどん減っていて、欧米とはけた違いに改善しているのですが、死亡災害の割合は欧米諸国に負けてしまっているという現状があります。不思議なことですが、これは「個人がなんとかできること」は頑張って改善しているけれど、「個人ではどうしようもないこと」の改善がまだまだ進んでいないということなのでしょう。現場の努力は(危険予知やヒヤリハットなどの地道な活動で)かなりできているが、マネジメントのほうがずっと遅れているということです。
経営側がこの課題認識をはき違えてしまうと大変なことになります。環境やしくみが整わないから労災が起きているのに、現場や個人に責任転嫁されてしまうので、現場にはますます「無理な要求」や「チェック項目」ばかりが増えていく、それでいて事故やケガは減らない、という現象になりかねません。
私は職人の家に生まれ、建築にかかわることがいつも身近にありました。日本の意識が遅れていた証として典型的な言葉が「怪我と弁当は自分持ち」という言葉だということを、株式会社環境ワークスの黒崎先生伺いましたが、確かに私も子供の頃に聞いたことがありした。しかし、これは欧米の人にとって大変ショッキングな言葉なのだそうです。普通は職場で怪我をしたら責任者や会社のトップが本人に謝るべきなのに、日本では被害者が会社に謝る、信じられないということです。人口減少と高齢化が進む日本では、限られた労働力でいかに経済を維持していけるかが重要で、国が生産性の向上と「1億総活躍」を掲げざるを得ない現状ですから、誰もが幸せになるために働いているのに、働くことが原因でケガや病気になってしまうのは本当に悲しいし馬鹿げていますよね。
昨年、たまたま他県の企業の依頼で、労災防止の研修をしながら社内のメンバーの皆さんと事例の分析をしていたのですが、そういう取り組みは人材定着や業務の効率化にも影響しています。メンバーの方々は最初は消極的だと伺っていたのですが、始まってみると具体的な行動や効果がわかり、どんどん意見交換ができるようになっていき、研修を終える頃には自社の災害事例にも的確な分析ができるようになっていました。そういう場づくりが進んでいくと、数か月後からは目に見える効果が出てくるのです。先行投資はやはり重要と実感しました。
さて、もし労働災害が不幸にして起きてしまったら、セオリーとしては4Mをチェックしていきます。人、モノ、方法、管理、の英単語の頭の字を取って4Mと言っています。4Mのどこかに欠陥があるから労働災害が起きる。という前提で原因分析と対策を勧める考え方を4M法と言います。例えば物の運搬中にどこかにぶつかってけがをした、という場合、不注意が原因なら「人」、運搬手順が不適切だったなら「方法」、整理整頓ができていない場合は「管理」に原因があることになります。改善が進まない会社ほど「人」を全ての原因にしてしまいがちですが、実際は複合している場合がほとんどです。そんなところに体質や文化の差が出ますから、本質を間違う事の無いように取り組んでいただきたいと思います。