【自由詩】秋が好き〜シロクマ文芸部〜
「秋が好きかい?」と尋ねたら
彼女は大きく頷いた
夏生まれの南国育ち
リネンのドレスに裸足のつま先
誰よりも透明な光が似合う人なのに
「本当に?」と重ねたら
それでも大きく頷いた
「どうして?」と引き寄せれば
「だってあなたの香りがするから」と答えた
ああ なんということだろう
無垢なる彼女を秋の中に攫ってしまおう
あれもこれも手取り足取り教えてあげよう
そんな僕の作戦など見事に吹き飛んだ
僕の知り得るすべての秋を
今すぐ彼女に捧げたいと思った
想像できるどの風景の中にも彼女が笑っていて
もはや僕の秋は彼女なしでは立ち行かず
秋は彼女のものだった
いや秋そのものが
あなたのものにしてくれと
彼女の前に身を投げ出した
色づく世界が彼女のためにほころぶ
その類いまれなる香りと言ったら
丹精込めて仕込んだ葡萄酒も
息をのんで見守った秋薔薇の開花も
到底及ばない
「秋はもう君のものだ
君のための香りに満ちてる」
そう言えば彼女が瞳を揺らした
海のような空のような彼女の青が
芳醇な香りに包まれて陰影を深め
昨日とは違って見えた
「それじゃあ私とあなたは一つになったのね
混じり合って溶け合って
もうどこにも境界線などないんだわ」
彼女の微笑みが僕を貫いた
ああ なんということだろう
なんと答えればいいのだろう
どんな言葉も陳腐に思えて
僕は全てを引き剥がして素直に乞うた
「どんな風に?」
「こんな風に」
柔らかな熱の重なりに世界はより香り立ち
僕らの秋が例えようもなく深まっていく
あれもこれも教えられたのは僕
けれどそれはあまりにも甘美で
ただただ胸が震えた
今週も張り切って小牧さんの企画に参加です。
今週は書きやすい!なんて思った私。
いやいやいやいや、難しかったです。
あれこれ可能性があるからこその難しさ。
着地点を模索して七転八倒。
そんなわけで気持ち長くなりましたが、
秋という季節の中の、恋の駆け引きを
楽しんでもらえたら嬉しいです。