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【物語:自由詩シリーズ】第15話 薔薇色の傘と雨だれ

夏へ向かう雨は力を感じさせる。
全てを洗い流してしまってくれるかのような力。

薔薇色の傘を買ってあげようか。

思いがけない言葉に顔を上げれば
兄は窓の外をじっと見つめていた。

振り返る時間の中には
手放してしまいたいものだってたくさんある。
綺麗な横顔が痛みをこらえるかのように見えて
たまらず私は憎まれ口を叩いた。

傘なんてきっとささないわ。

振り返った兄が静かな眼差しを投げかける。

いいさ、さす必要はない。
雨の中でお前が薔薇色を咲かせている。
それだけで十分だ、綺麗じゃないか。

私は肩をすぼめて見せた。
全てを洗い流せたら、
誰もが幸せになるのだろうか。
きっとそうとは言えないだろう。
けれど、全ては洗い流せるのだと信じられれば
きっと明日は虹が出るだろう。

ささないだろうけど、薔薇色の傘は欲しいわ。
ああ、いいよ。買ってあげる。

優しげに微笑んだ兄が、
急に口角を上げて挑発する。

そうそう、ピアノは上手になったのか?

遠い日の、
雨降る午後の演奏を揶揄やゆっているのだろう。
観客は兄一人、私のデタラメ創作曲発表会。
微笑み返しながら母のピアノの蓋を開ける。

驚くわよ。
ショパンの真似だってできるんだから。
それはまた、随分賑やかな雨だれだろうね。

窓ガラスを打つ雨粒を見ながら
兄が嬉しそうに笑った。

何かに心を寄り添わせながら
生きてきたのは私も同じ。
明日はきっと二人で同じ虹を見れるはず。

弾き終わったら、まずは熱い紅茶を淹れよう。
そう思いながら象牙色の鍵盤にそっと指をのせた。

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