![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/117124910/rectangle_large_type_2_a0074aaecc801a233a5bd35e28cf59e9.jpeg?width=1200)
【詩】谷間の百合咲くとき
中庭の回廊には人気がなかった。
遠く鳥のさえずりだけが聞こえた。
誘われるように小さな花壇へと向かう。
夢を見たんです。
真っ白な服を着て花を育てる夢を。
水やりの手を止め、彼女は顔を上げた。
汚れる白を厭わないのではない。
汚れることを受け止め
洗い流して自分を見つめ、
残されたものに愛を見出し、
今ここにいることを刻んでいくのだ。
初めて来た場所だった。
初めて会った人だった。
それでも言わずにはいられなかった。
スカートの裾に刺繍があったんです。
白に白の小さな花です。
谷間の百合が微笑んでいました。
彼女が土塊のような何かを差し出した。
一つ植えていきませんか。
花が咲くのはずっと先です。
いえ、咲くかどうかもわかりません。
だけど。
花が咲いたら何が動き出すような気がした。
花が咲かずとも何かが変わるような気がした。
始まりがいつも鮮やかだと限りません。
緩やかに立ち上がりやがて形になるものもある。
全てには理由があるかもしれませんが、
全てを今、明らかにしなくてもいいのです。
だから。
私はそっと土を掘り返した。
午後の回廊には人気がなかった。
遠く鳥のさえずりだけが聞こえた。
けれど今、
微かな鼓動が生まれ出ようとしているのだと
微笑まずにはいられなかった。
彼女の真っ白なスカートには
可憐な一輪の花が揺れていた。