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【短歌物語】」この雨があがったら〜青ブラ文学部〜

買った本をまとめようと模様替えを始めた午後。開け放した窓の外、西の空は真っ暗だ。棚から取り出した古い一冊にあっと声が出る。それからじんわり切なくなって、だけどそれを胸に抱いたらゆっくりと微笑みが戻ってきた。

一生懸命背伸びしていた。とにかく必死だった。届かないと思っていた人にこの手が届いたからだ。とんでもなく嬉しかった。自由奔放でなんでもそつなくこなして誰もが憧れる大人の男性で、なのに肝心な時には不器用で臆病で。そんな彼が可愛くて愛おしくて、だから私がって生意気にも思ったあの日。

けれどやっぱり私は子どもで、掴んだはずのものも本当に届いているとは思えず、胸の奥が激しく焦げついて傷んだ。眠れぬ夜に開いた本はたまたま本屋で見つけたもの。初めて手にした短歌恋の歌。凝縮された想いはまるで私の心を代弁しているかのようで、寄り添ってくれるその優しさに何度も救われた。

それでも踏ん張れず、最後は自分から手放した恋。さようならを言ったのは私だったのに、大声をあげて泣きたくなった。一人でちゃんと決めて、よくやった自分と思いながらも、「どうして、どうして、どうして」そう投げつけて泣きたかった。

だけど泣かなかった。彼を大切に思っていたから、何よりも素敵な思い出だから。みっともなく泣いて、すべてを台無しにしたくなかった。手放してもずっとずっと私の宝物でありますように。そんな矛盾ありえるだろうか、いやそれだけはどうしても、そうであって欲しかった。だから悲しみに蓋をして、心でありがとうを言い続けたのだ。それで良かったのかどうかわからない。けれどあの時の私にはそれしかできなかった。

窓の外、空は真っ暗になった。吹き込んでくる風の温度が下がり、雨の気配が濃厚に迫る。

不器用で臆病だったのは私の方だ。強がって大人ぶっていい子ぶって、彼よりももっと素直じゃなかった。きっと子どもだってよかっただろうね。ありのままの自分で向き合えばよかった。あの日泣けたらどんなによかっただろう。あの日泣けたら何か変わっただろうか。後悔ではない。落ち着いて、素直に自分にそう問いかけられた。ああ、私が私を慰めているんだと気づいた。許しているんだ、受け入れている。今ならきっと……。


雷鳴は
遠い扉を叩く音
降り出す雨に
今は甘えて

 

すっかり馴染んだ三十一文字が、私の心を掬い取って囁きかける。頬を伝わる温かいものに目を閉じた。ずっと胸の奥に秘めてきた涙が、大好きだった彼の腕の中と同じように甘く優しく私を溶かしていく。今度こそ、心の底からありがとうを言った。彼に、自分に。「素敵な恋のままでそのままで」そう願ったことだけは叶ったのだと思う。

いつの間にか降り出した雨。思った以上に強い雨音の中、声を上げて子どもみたいに泣いて泣いて、「どうしてくれるの、目が腫れたわ!」と笑おうか。雨上がりの綺麗さはきっと空だけじゃない。


山根あきら/妄想哲学者さんの
短歌物語│青ブラ文学部に
参加させていただきました。

時間ないから無理かもと思っていましたが
フォロワーさんに触発されて頑張りました。

恋イベントにも参加中なのでその延長で
遠い昔の甘酸っぱい記憶を投入しました。
あるある、だよね〜、だったわ、と
頷いていただけたら嬉しいです。

山根さん、よろしくお願いいたします。

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