雨降る時間の回転木馬

画像1 回転木馬という言葉が、響きが、好きだ。私にとっての回転木馬は、遠い日にモンマルトルの丘でであって以来、セピアな世界の中を今も回り続ける。そこには静かな雨が降っている。アンニュイで他人には興味がなさそうなのに、たどり着いた人を決して邪険に扱わない場所。どこまでも切ないんだけど、そこにいるとほっとしてしまう世界。遠く離れてしまった大好きな人を想う時、気がつけばいつも雨降る時間の回転木馬に乗っている。
画像2 私の町にやって来る移動遊園地は初夏の風物詩だ。もちろんそこには回転木馬もあるけれど、歓声が上がる太陽の下で、それはなんだか少々くたびれて見える。けれど日が落ち明りが灯れば、心なしか馬たちの首は高くもたげられ、その瞳には輝きが宿るような気がする。
画像3 ふと目が合った白馬に乗ってみる。愉快なようでいて、実は物悲しいメロディーに合わせて、馬たちはいななき駆け始める。早くなったり遅くなったり、抜いたり抜かされたり。今、ここと、ここじゃないどこかが繋ながっているんだって思う。灯された明りの下でけばけばしいほどの色彩はなりを潜め、世界はゆっくりとセピアに溶けていく。いつのまにかあの日と同じように雨が静かに降り始め、私は求めてやまない温もりにそっと手を伸ばす。

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イデ クララ ユカ
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