雨降る時間の回転木馬 5 イデ クララ ユカ 2019年10月10日 18:56 回転木馬という言葉が、響きが、好きだ。私にとっての回転木馬は、遠い日にモンマルトルの丘でであって以来、セピアな世界の中を今も回り続ける。そこには静かな雨が降っている。アンニュイで他人には興味がなさそうなのに、たどり着いた人を決して邪険に扱わない場所。どこまでも切ないんだけど、そこにいるとほっとしてしまう世界。遠く離れてしまった大好きな人を想う時、気がつけばいつも雨降る時間の回転木馬に乗っている。 私の町にやって来る移動遊園地は初夏の風物詩だ。もちろんそこには回転木馬もあるけれど、歓声が上がる太陽の下で、それはなんだか少々くたびれて見える。けれど日が落ち明りが灯れば、心なしか馬たちの首は高くもたげられ、その瞳には輝きが宿るような気がする。 ふと目が合った白馬に乗ってみる。愉快なようでいて、実は物悲しいメロディーに合わせて、馬たちはいななき駆け始める。早くなったり遅くなったり、抜いたり抜かされたり。今、ここと、ここじゃないどこかが繋ながっているんだって思う。灯された明りの下でけばけばしいほどの色彩はなりを潜め、世界はゆっくりとセピアに溶けていく。いつのまにかあの日と同じように雨が静かに降り始め、私は求めてやまない温もりにそっと手を伸ばす。 いいなと思ったら応援しよう! サポートありがとうございます。重病に苦しむ子供たちの英国の慈善団体Roald Dahl’s Marvellous Children’s Charityに売り上げが寄付されるバラ、ロアルド・ダールを買わせていただきたいと思います。 チップで応援する この記事が参加している募集 #とは 60,302件 #写真 #詩 #海外生活 #アメリカ #とは #記憶 #回転木馬 #移動遊園地 5