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「認知の歪み」について考えてみた:認知行動療法カウンセリングセンター from沖縄
みなさん、こんにちは
認知行動療法カウンセリングセンター 與儀です。
最近twitterで「認知の歪み」の話題をよく見かけるので、それについて少し書いてみようと思います。
「認知の歪み」「誤った認知」……
「あなたの考えは歪んでいる」「誤った考えをしている」、こういう風に言われたら誰でもいい気はしません。
それにこう言っている人はあたかも「その考えを治せばあなたのうつ症状は良くなる」と言っているようです。
認知→気分という原因論で話をし、すべての責任をその人個人に押し付けているように聞こえます。
考えを変えたら、うつはきれいさっぱり治るのでしょうか?
今回は抑うつの認知理論を紹介して、「認知の歪み」というものについて考えてみたいと思います。
そもそも「認知の歪み」はどこから来たのか?
これはベックの抑うつの認知理論やエリスの論理情動療法に端を発するようです。
ここではベックの抑うつ理論を紹介します。
認知臨床心理学入門という本で、
“この理論では、抑うつの本質は認知の障害であって、感情の障害はそこから二次的に生じてくる。つまり、抑うつ感情は抑うつ認知から生じてくる。この考えがベックの認知療法の基礎になっている”(W.ドライデン/R.レントゥル〔編〕丹野義彦〔監訳〕 (1996) 認知臨床心理学入門 東京大学出版会.)
と紹介されています。
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Beck, A. T. (1976). Cognitive therapy and the emotional disorders. New York: Int. University Press. In: Walker, E., Kestler, Bollini, A., Hochman, K.(2004). Schizophrenia: etiology and course. Annual Review of Psychology, 55, p401.
この理論だけを見ると、抑うつの認知を治せば抑うつ症状が良くなると読み取れます。
その後、この理論が本当にそうなのかという多くの研究がなされていきます。
例えば、抑うつ的気分の程度と、ネガティブな思考内容との間に相関はあるのかという研究がなされました。
その結果は、“相関がある”というものです。
しかし、相関があるだけで因果はわかりませんし、そのほかの要因も絡んでいる可能性があります。
そこから、さらに多くの研究がなされ、National Institute of Mental Health(NIMH)によると、うつ病は遺伝的、生物学的、環境的、心理学的要因が影響するとされています(National Institute of Mental Health, n.d.)。なので、認知、考えだけが抑うつに影響しているわけではなく、多くの要因が絡み合っているというのが心理業界での見方です。
National Institute of Mental Health. (n.d.). Depression. https://www.nimh.nih.gov/health/topics/depression(2023年5月1日閲覧)
ただ、この抑うつ理論の影響はとても大きく、認知行動療法のアセスメントとして今でも用いられていますし、認知再構成法はこの理論をもとに発展して効果的な介入方法であるとされています(Clark, 2013)。
Clark, D. A. (2013). Cognitive restructuring. The Wiley handbook of cognitive behavioral therapy, 1-22.
「認知の歪み」の何が問題か?
はじめに話したように、単語が想起される個人だけを責めてしまうような印象が問題です。
うつになった人の考えが歪んでいるから、それがいけないんだ!
と相手をただただ責めることが良くありません。
そうなってしまうと、ほかの要因に目が向かなくなってしまい、うつに影響している様々な要因が見えなくなってしまい、どうにもできなくなってしまいます。
あと単純に言われた人が傷つきます。
それこそ、一つのネガティブなことだけに注目し、ほかのものには目もくれない「認知の歪み」だと思います。
とはいえ、僕も臨床で単なる専門用語として「認知の歪み」と使ったことがあります。
責める意味は一切ななく、単なる用語として用いていたので、今回のtwitterの議論をみて反省しました。
単なる用語としてではなく、その言葉が相手に与える意味やニュアンスに注意を払っていこうと思います。
認知は歪んじゃダメなのか?
あと、そもそも認知は歪んじゃダメなのか?ってことですけど、僕はいいと思います。
むしろ皆、何かしらの歪みや偏りはありますよね。
全てがきれいにまっすぐで正しい人なんていないと思います。
たぶん、僕はめちゃくちゃ歪んでいます。
それで結構苦労することもあります(笑)
それに「認知の歪み」それこそ自体がその人にとって役に立っているし、本人を助けてくれている考えです。
でも、それがあるから生活しづらく苦しい……
それだったら、その考えと同じように役に立つし、自分を助けてくれる考えを一緒に探してみよう、というのが認知行動療法のスタンスです。
かつ、考えだけじゃなくて、ほかの行動や環境などいろいろな要因の影響も検討してみよう、というのが大事です。
そうすることで、多くの助けを得られるし、周囲の人も様々な工夫ができるようになります。
まとめ
「認知の歪み」という単語だけだと、「歪み」が協調されすぎて個人を非難しているように見えてしまいます。
決してそのような専門用語ではないのですが、そう見えてしまうことのデメリットには注意しないといけません。
じゃあ「認知の歪み」をどう言い換えるか、これも一つの言い換えというよりも、クライエントさんとの話し合いの中で、クライエントさんが最もしっくりくるものに言い換えていくのが良いのではないでしょうか。
小学生だったら、「困ったちゃん」とか、30代だったら「役立たずな思考」とか、その方の文脈、性質に合った用語に言い換えて、一緒に協力して治療に取り組んでいくとよいと思います。
最後まで読んでいただきありがとうございました!!!
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とてもとても歓喜します!
次回は、思春期について~とか書きましたけど、まったく違う記事になりました(笑)
「言ったことと違うことをやっている自分は…」とか考えが浮かんで、ちょっと不安になりましたけど、いいですよね。
そんな感じで力抜いてやっていきますのでよろしくです。
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