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【映画感想】『パリ タクシー』チャーミングなマドレーヌ(92歳)のパールジュエリーはお手本に
封切りは2022年。このとき、92歳の主人公のマドレーヌを演じるリーヌ・ルノー(現役の俳優で歌手)は94歳だったそう。40歳(実年齢)が大学生(役柄)はままあれど(無理があることも)、94歳が92歳とは素晴らしい。そしてまたとびきりチャーミングでエレガント。91分があっという間の映画です。
パリ タクシー
https://movies.shochiku.co.jp/paristaxi/
「一年で地球を3周分走る」パリのタクシー運転手シャルル(ダニー•ブーン)。車窓越しに流れていくパリの風景は美しくて重厚で、誰もが憧れるにふさわしい。
今年のオリンピックパリではこの美しい町中からベルサイユ宮殿までもがコースになるそうで楽しみ。お正月の駅伝も、実業団駅伝(コースは高崎)よりも箱根の風景豊かな大学駅伝のほうがやっぱり楽しいもの。
で、タクシー運転手のシャルル。パリを出たこともない、朝から晩まで走り続け、娘に会う時間もない、なのに収入は乏しくて生活はカツカツ、しかも免停間近。フランスも格差社会ですね。
そんなシャルルがタクシー無線で呼ばれ、パリの反対側にある老人ホームまで客を乗せることになる。美しい戸建ての前で待っていたのは老女のマドレーヌ(リーヌ•ルノー)だ。
仏頂面のシャルルに後部座席のマドレーヌは話しかける。
「いくつに見える? 92歳よ、なかなかでしょ?」
本当になかなかなのだ。プラチナブロンドのショートヘア、耳には、バロックパールの品の良いフープピアス。同じくバロックパールのショート丈のネックレスが首に揺れる。水色のスカーフがよく似合う。
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シャルルはマドレーヌの願いで寄り道をするうちに、彼女の非凡な半生が明かされていく。初恋、出産、結婚、事件。画面はしばしば若き日のマドレーヌの映像が織り込まれる。凝った織り地のワンピース、美しい鎖骨に白い珠のネックレス。これもバロックパールだろうか。
はじめは早く仕事を終えることばかり考えていたシャルルも、次第にマドレーヌの半生に引き込まれ、心を寄せていく。1950年代のパリはかくも保守的だったのか。夫の暴力へ行き詰まったマドレーヌがとった行動に、容赦のない判決が下る。服役、釈放、長じた子どもとの再会、、語るマドレーヌの横顔にバロックパールが揺れる。
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まるで「ローマの休日」のような、シャルルとマドレーヌの「寄り道」が微笑ましい。アイスクリームをおやつにはさみ、ディナーでワイングラスをカチンと鳴らす。
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だが、ドライブは予定時間を大幅に超えて終わりを迎える。老人ホームへの到着だ。別れ際のマドレーヌの言葉が胸に迫る。小さく振った手、うしろは振り返らない。
「また会いに来る」約束した通り、シャルルはすぐにマドレーヌを訪ねる。彼女にも話した自慢の妻を連れて。
ここからラストまでは、心に風と星が流れるよう。何度も観たくなる、美しいとても良い映画です。