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映画『悪魔と夜ふかし』感想とちょい考察

2024年10月4日、日本での公開日の22時のレイトショーで鑑賞しました。題名通り「悪魔と夜ふかし」したかったのです。ネタバレあります。

デヴィットダストマルチャンがハマってた

「アントマン」や「ザ・スーサイド・スクワッド “極”悪党、集結」「プリズナーズ」「オッペンハイマー」などで出演していて気になっている俳優でした。彼が主演を務めるというのでこの映画を見にいくことを決意しました。今調べると「ダークナイト」にも出演していたらしい。ダークナイトに出ていたのは知らなかったけれど記憶に残りやすい顔立ちで良い役をする。カメラの前では陽気な司会者を演じているが、その裏では視聴率をとらなければならない焦りとその苦悩があり、そして妻の死やそのもっと奥にはカルト宗教があったり…という陽と陰のあるキャラクターで面白かった。その二面性をよく演じていたと思います。

没入と脱出

この映画はいきなりテレビ番組の内容が流れるのではなく、初めに1970年代はめちゃくちゃでしたという語りから入り、その後、「とんでもないテープが見つかったのでご覧ください」という流れでテレビ番組のオープニングが開始する形で始まります。だからこの映画の視聴者は映画「悪魔と夜ふかし」を見ているというよりも1977年の「Night Owls with Jack Delroy」を観ている感覚になります。その工夫は沢山あって、途中で画面にノイズが混じったり、CMに入る画面を見たり、音楽が実際にスタジオで演奏されているところや、映画では普通ありえない出演者がカメラを見ながら喋るところなどです。アスペクト比もテレビを意識してか、あまり横長ではなかったと思います。私は途中で「映画としてどうやってオチをつけるのだろう」と感じました。映画を観てるというよりも、テレビ番組を見ている気分になりました。

CM中は画面をモノクロにし、番組中ではカラーに戻すことで、テレビ番組の裏側を映しながら、テレビへの没入感が妨げられずに見れたのだと思います。これは面白い撮り方だと感心しました。ラストでリリーに悪魔が取り憑いてキャプテンマーベルのバイナリーモードみたいになってジャックデルロイが気を失うまではずっとテレビを見ている気分でした。それから、ジャックの回想や夢のシーンになってやっとテレビから脱出して映画になったなと感じました。それまで体感1時間以上、上映時間の7割くらいは没入してテレビを見ているような気分だったから変わった脚本でしたね。でもそのテレビ番組が面白かったから文句なし。むしろ高評価でした。

ちょっとだけ考察

映画の初めの語りでジャックが心の支えにしているのは妻ともう一つ宗教団体の「グローブ」であると説明がありました。「グローブ」とは有名人や経済的なエリートたちがメンバーの秘密結社で、森の中で何やら怪しげな儀式をしている描写があります。「グローブ」が祀っていたシンボル的なものがフクロウであったことと、テレビ番組の名前が「Night Owls」であることはジャックが番組名にフクロウを入れるほど「グローブ」に傾倒していたことを表しているのだと思います。1回目のMr. Wriggles(リグルス(モゾモゾさん))の悪魔召喚の儀式の時、リグルスはジャックに「高い木々のもとで会っているだろう」と語りかけたことから、活動場所が森の中であった「グローブ」とリグルスには関係があったのだと思います。そして、リグルスは「ジャックに妻が死んでよかったな。これで女を抱き放題だな」的なことを言っていました。ですがジャックとその妻はおしどり夫婦として有名で、ジャックは妻の死後、芸能界を一時引退して、妻の死後も結婚指輪をしていたことから、ジャックは妻を心から愛していたのだと思います。ジャックの妻は喫煙者でもないのに肺がんになり、病床に伏しました。そして、妻をゲストに呼んだ会はジャックの番組史上で過去最高の視聴率を叩き出しました。しかし妻はテレビの出演後2週間後に息を引き取ります。おそらく、ジャックは「グローブ」内で悪魔リグルスに番組の成功を祈っていたのだと考えます。しかし、意図せず愛する妻がその願いの犠牲になってしまったのでしょう。

ラストで妻が死の床に横たわっている時、ジャックに短剣で刺して苦しさから解放してくれるように懇願します。ジャックはそれを受け入れるが、実際にはリリーを刺して殺したことに気が付きます。これは妻がジャックを助けるために自分の身を犠牲にしてリグルスを殺すように仕向けたんじゃないかなーと思います。ただそれはジャックが行った願いを無しにする行いなので放送事故として番組の成功の夢は潰えたのだと思います。

おわりに

面白かったです。元奇術師のカーマイケルに「こいつ黙っとけよ!」とイライラさせられましたが、観客のほとんどに催眠術をかけてミミズが出てくる様子を見せてくるから「お前、口だけじゃないんかい!」と悔しい気持ちになりました。それくらい映画の観客としてではなく、「Night Owls」の視聴者として没入することができるのがこの映画の素晴らしい点だと思いました。70年代のアメリカのテレビ番組の空気感を味わうことができる良作だと思います。

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