【不思議な話】ピンク色の幼児靴
平成後期の話。
私が自宅から駅に行くまでの道に、玄関横の壁に子供用の三輪車を掛けている家があった。まるで三輪車が壁を走っているかのように見えるちょっとしたオブジェだ。家からは時折幼児の元気な叫び声が聞こえてきた。
『三輪車は子どものかな?斬新だな』
三輪車を見るたびに微笑ましく思いながら通り過ぎていた。
ある日、三輪車の家とその隣の家の間の隙間に幼児の履く小さな靴が並べて置いてあることに気づいた。家と家の間にできた30cmほどの隙間。砂利の上に雨風で劣化した小さなピンク色の靴が左右並べて置いてあった。
『なぜこんなところに?』
まあ、落とした靴を置いたのだろうくらいに思っていた。
しばらくしておかしなことに気づいた。並べてあったはずの靴が右側の靴だけちょうど幼児の一歩分くらい手前に、道路の方に置いてあった。
その時は見間違いだと思いあまり気にしていなかった。
数日経ち、出勤途中にふと見てみると今度はちゃんと揃えてある。
『やはり見間違いか』
だがまた数日後に見ると今度は左足だけが一歩分、手前に置かれていた。
『一歩づつ近づいてる?』
少し気味が悪いが自分の見間違いか、誰かのイタズラだと思うことにした。ところが異変は続いた。
数日ごとに幼児の靴は右、左、右、左と少しづつ道路に近づくように置いてある。最初に見たときは道路から3mほど奥まった場所にあったはずなのにいつの間にか道路から1mほどにまで迫っていた。今では汚れたピンクの柄が花を模したものであることもわかった。
そしてとうとう幼児の靴は家と家の隙間から後一歩で出る場所に置かれていた。その日は金曜日で次に私がその家の前を通るのは三連休あとの火曜日。嫌な胸騒ぎがした。
そして火曜日、家の前を通ると幼児の靴はなくなっていた。家の人が気づいて処分したのかもしれない。なぜかホッとした。視線を上げると例の三輪車がなくなっていた。
その場所には『忌中』と書かれた墨文字の一枚が貼られていた。
「えっ!?」
そして家の前の電柱に見慣れぬ立て看板があることに気づいた。
『平成○年○月○日○時○分頃、この場所にて人身事故が発生しました。目撃された方は○○警察署まで』
その日以降、三輪車の家から子どもの声は聞こえなくなった。
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