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普通に目指せ最高成績! ハップ8人夏物語/高校野球ハイライト特別篇・八幡

商業の「ハッショー」でも、工業の「ハチコー」でもない。「八幡の普通」という意味を込めて、滋賀県立八幡高校は「ハップ」と呼ばれている。学校には看護コースも設置されているが、野球部の選手は所属していない。

「全国クラスの部活も少ないし、地域の特性を生かした練習も伝統のメニューもない。学校もクラブも普通だから、個性を探すのは本当に難しい」。

田辺資博監督が苦笑いを浮かべるほど特徴のない野球部が、今年は滋賀大会の1・2回戦を突破。1981年の創部以降、初めての夏ベスト8に王手をかけている。

八幡高校のグラウンド

兆しは確かにあった。主将の押谷旭陽やエースの左近悠翔など、3年生8人全員が去年からレギュラーを務めている。経験値で上回るチームはなかなか見当たらない。

「1つ上の選手はキャプテンだった端無晴さんだけ。すごく優しく接してくれたのに勝ちを届けられなかった。今年は勝つ。端無さんに勝ちを見せる。3年生全員がそう思っていた」。

去年の夏、敗戦後に大粒の涙を流した押谷主将が振り返る。新チームの中心を担う8人を突き動かしたのは、大逆転を喫した苦い記憶だった。

主将の押谷旭陽

もちろん1年間全てが順調だったわけではない。4月には下級生で唯一1ケタ背番号を付ける磯部琉翔ら30人近くの1年生が入部。部員が突然3倍近くに増えた一方で、押谷主将は浮ついた雰囲気が漂ったことを悔やんでいた。

「学校での態度やグラウンドの使い方…自分が仲間や後輩に伝えきれていなかったことが全てだと思う。春の大会後、気の緩みから練習をさせてもらえない時期もあった」。

暑くても疲れていてもやるべきことは同じ。普通のチームだからこそ、普通のレベルを上げていけ―。田辺監督や越川貴文部長は、欲を見せない選手たちにあえて厳しく接してきた。大量失点を繰り返したチームがタイブレークを除いて2試合を3失点でしのいだ背景には、精神面の成長も少なからず関係している。

エースで主砲の左近悠翔

「夏休みに全員で部員の家に泊まったことも、びわ湖に遊びに行ったこともある。このメンバーで勝つことが楽しい。チームメイトというより、本当に普通の友だち」。

3年生の関係をエース左近が表現する。野球目的で来た選手も、卒業後に野球を続ける選手もほぼいない。ただ普通に高校生活を過ごしながら野球に取り組んだ8人は、野球人生最後の大会でチームを最高成績に導けるだろうか。

八幡高校の3年生

きっとどこにでもある学校の、きっとどこにでもある話。それでも読み返してみると、小さな奇跡が見えてくる。

「8」と「普通」に導かれし夏物語。今年の滋賀大会は、「ハップ」から目が離せない。

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