『ババヤガの夜』大谷晶

『ババヤガの夜』大谷晶

・一番好きだった一節『同じ年頃の子供がごちゃごちゃと寄せ集められたあの空間は、年頃しか同じではない異物をゲロのように吐き出そうとする。自分はゲロだ、と思いながらひよこのように弱い個体に囲まれて過ごしたあの時間が何だったのか、今もってよくわからない。』

読みやすかったです!! 目が滑ることもなく、何のストレスもなくササッとサラっと読めた…驚きました、こんなに読みやすく小説が作れるものなんですね…。宇佐美りんさんの『推し、燃ゆ』も似た系統の読みやすさがあって、その時もすごく驚いたのを覚えています。どういう作り方をするとこう仕上がるんだろう。

表紙から想像していた話と、冒頭から想像する中盤と、ラストと。全てが意外性の連続でそれも新鮮でした。
現実感の無さがワンダーランド的で、その分感じられる抜群な爽快感…。現実感の無さ部分がネックでと言うか、単純に自分がそういうものを読み慣れていなかったのでそこだけノリ切れず…作品に全力で耽溺しに行けなかったことを残念に思っています。

「名前のない強い関係性」に憧れる現代人はきっと多いと思うのですが、そういう層に本当に刺さりそう…。
終盤の展開はまた、大変「現代的な価値観」が基盤にあるよう感じられました。ジェンダーのトピックは2013年くらい? から悪い意味で「トレンド」化し始めたように感じていて、ジェンダーに拗らせのある自分としては、まだ消化できずに引っ掛かり続けたり、どうでも良い事に一々頭を捻ったりしているんですが…(↑ハイファッションのブランドのデザイナーたちの間で、メディアに向かってゲイをカミングアウトするのが『流行』しました。最先端。……?)

読み終わって、これを書きながら改めて考えているんですが、この小説の中で一番ワンダーであったのは、(友人同士であるとか、恋人同士であるとか家族であるとか、そんな風な)名前は一切無いけれどでも確固たる強い絆、みたいなものであるよなとふと思って…。
現実世界で今までに、変な人にはいっぱい会ってきたけれど、そんな絆は一度もお目にかかったことがなかった。畜生羨ましいです。ラストは随分余韻の残る形でしたが、個人的には救いのある結末だと思いました。改めて太く短く、好く生きたいものです。

追記・ババヤガが何なのか知らずに読み始めてました。読み終えてしばらくしてからSNS上で『バーバヤガーの小屋』なる絵画を偶然見かけて、小説とまんま同じ造形の家だったので感動しました。実在したんか?! 
スラヴ民話なんですね。ちょっと気になったので、今度民話の方も読んでみようと思いました。こうして世界が広がって行くの本当に楽しいです。Bさま素敵なきっかけをありがとうございました。


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