旧友との話

年末年始に、幼少期から長い付き合いのある友人と会った。
関西で働く彼の帰省時に、双方時間が空くと「会おう」となるのだが、両者とも無計画で前日になってからようやく連絡を入れて調整する。
まったくもってダメな大人の見本のようだが、これはこれでなぜか調整がついて意外と会えるものだ。

最後に会ったのがいつだったのか覚えていなかったが、彼によると4年ぶりだという。
まだ4年か。いや、もう4年も経ったのか。
コロナ禍を挟んだせいかいまいち実感が無く、不思議な気がする。

彼とは積もる話をした。
聞き手に回ることが多い彼が、その日は珍しく饒舌だ。
話を聞いていくと、仕事上での苦労に加えて家族に関する悩みが大きいようだ。
実は彼の妻はだいぶ前からメンタルの調子が悪くなっており、ずっと引きこもりがちであること、子育てに影響が出ていること、などなど。
言われてみれば、確かにここ数年の彼からの年賀状の家族写真には、彼と子供達しか写っていなかった。

実直そのものの性格で、著名な大企業で順調にキャリアを積み上げ、結婚式で美しい奥さんと幸せそうに並んでいた彼にそのようなことが起きているとは意外だった。
ひとの家庭で何が起きているのか、外からは存外わからないものだ。

私自身、妻が数年前からメンタル不調であり、その夫という立場では共通なので彼も話しやすかったのだろう。

彼は、医者に通っている妻から、彼女の病気について全く教えてもらえないのだという。
医者への同行は断固拒否。
病名を聞こうと試みても怒り出してしまい、話にならないのだそうだ。
そもそもの発症要因も、現在の治療経過もさっぱりわからない。

これには少し驚いた。
一般論として、メンタルの不調は同居家族の理解や支えが恢復のプロセスにおいて大事だと考えられているだろうし、私自身の経験上もその通りだと言える。
いくら医者がいて薬が処方されているとは言え、独りで抱え込んでそう簡単に治るものではないし、そもそも同居家族に秘密にしようとすること自体が更にストレスを増やしているだろう。

それでも教えないというのは、どういうことなのだろうか。

夫である彼に対して不信感があるのか、妻本人のプライドの問題なのか、それともそれ以外の理由があるのか。
彼の名誉のために付言しておくと、彼は浮気や裏切りの類は一切できないタイプの人間だ。
嘘をつくことが極めて苦手で、善意が服を着て歩いているような人間なのである。

もっとも、それが故に伝えたくない、ということもあるのかもしれない。

いずれにしても結局は妻本人の考えである以上、第三者である私が推測したところでわかるまい。
旧友とはいえ他人の家庭事情に首を突っ込むわけにもいかない。
謎は謎のままで良い。
彼にとってはそうもいかないだろうが。

ランチを取りながら一通り話し、なんとなく気が晴れた顔になった彼と別れの挨拶を交わした。
次に会うのは一体いつだろうか。
その時までに彼と妻の関係が良い方向に向かっていることを願いつつ、私は次の予定へと向かった。


いいなと思ったら応援しよう!