ハスの花からガラスペンを作ったぞ《旅のガラス》第3回 創作編
大阪の万博記念公園で催された早朝観蓮会に行ってその体験をもとにハスのガラスペンを作ったぞ。今回はデザインについても考えさせられた。その制作過程を見ていこう。
旅をしてnoteにレポートを書き作品にする《旅のガラス》企画、第3回の創作編、はじまりはじまり。
第3回の旅編はこちら。
モチーフについて考えた
ハスのどこを作品にするか
読者のみなさまはハスと聞いて最初に何を思い浮かべるだろうか。筆者はふんわりとした桃色の花が咲いている様子を思い浮かべる。先日の早朝観蓮会に行った時、多くのハスが桃色をしていたからそうイメージしたのかもしれない。ハスは美しい。ハスと書けば多くの人がハスの花を思い浮かべるだろう。中にはハスの葉やレンコンを想像する方もいると思うが、ハスといえば花だと筆者は考えた。
そして、作品は何をモチーフにしたのものなのか、何を焦点にしたものなのかがわかると理解を得やすい。「これはハスの花をモチーフにした作品です」と見るだけで伝わってくるものは記憶にとどまりやすい。
なぜこの話をしたのかというと今回ハスから作品を制作すると考えていたが、どこを焦点にした作品にするかを悩んでいたからだ。
ここで1つ今回制作した作品をお見せしよう。ハスの花びらの脈をモチーフにした作品だ。試作品をいくつか作った上で制作した。
ハスの花びらには赤い色の脈が通っている。その模様だけを抽出して作品にした。焦点は「花びらの脈」だ。このようにモチーフの一部を抽出してデザインに取り入れる方法はいろんなところで見つけられる。この方法は何の情報もなく作品を見た時、何をモチーフにした作品なのかがはっきりとはわからない。ただ、同じモチーフを選んで作品を制作しても、解釈は人それぞれにあるので個性が出る表現なのである。
水上に咲くふんわりとした花というイメージから少し展開したデザインになる。
ポピュラーな技法を取り入れてみる
今回、数を作った作品にはわかりやすく、かつ、よく使われる手法を採用した。そのままハスの花を想起するデザインでオーソドックスな表現だ。ながくきゃろくろガラス工房を見てくださっている方には頷いていただけると思うが、筆者はモチーフを具体的な形状で表現することはあまりしてこなかった。具体的に形を作るのは自分の感性に合わないと考えてきた。そして、これまでの作家活動の中で目にしてきた作品によく使われている手法もあえて避けてきた。だから今回の最初の作品もモチーフを拡大し、「花びらの脈」に焦点を当てたのである。
こう作ればハスの花のように見えるだろうという想像は制作する前からあって、それはよく使われている技法なので採用するのに抵抗があったということだ。よく使われている技法を採用することで個性がなくなるのではないか。そう心配した。だが「まずはやってみよう」という気持ちでポピュラーな表現を取り入れた。
《旅のガラス》完成に至るまでの過程を見ていこう。
制作の背景
赤いガラスの在庫がほぼない
ハスの花は桃色でガラスペンも桃色を主体にしたかった。桃色は赤い透明ガラスを少しだけ使えば表現できる。だが、工房には赤い透明ガラスの在庫がほぼなかった。近い色はかろうじて紫色のガラスがあるのみで手元にある色ガラスでは桃色を表現することは難しいと言えた。
1つだけ桃色を得る他の方法があった。それは金のフューミングである。
金のフューミングで赤色を得る
読者のみなさまはフューミングという言葉を聞いたことがあるだろうか?ガラスを使って作品を作っている方、コレクターの方は耳にされたこともあるかと思う。
これは金属に熱を加えて蒸発させ、ガラスの表面に極小の金属の粒を無数につけて色をつける技法だ。今回で言えば酸素バーナーの高温の炎で金を熱し蒸発させ、それをガラス表面に吹き付ける。その面に溶けたガラスを乗せることでガラス内部に赤色を閉じ込めてハスの花の色を得た。
写真のようにフューミングでは黄金色をした金からは考えられない赤色が得られる。ちなみに「金赤」という呼ばれる色の由来はこの現象のようだ。色を指定するときに「金赤で」と言うこともあるらしい。
説明が前後するが上記の「ハスの花の脈」をデザインに取り入れた作品にも金のフューミングを施している。全体に薄く桃色になっているのがおわかりだろうか。脈は少し在庫があった紫色のガラスで表現した。
ハスの花のかたち
ハスの花の色は金のフューミングで赤色を得て解決した。形に悩んだがフューミングでよく使われる方法でハスの花の形を表現することにした。ハスの花をよく見ると花びらの付き方に規則性があったのでそれも取り入れて制作した。1度作ってみると今まで作ってきた作品とは別の雰囲気のものができたので、今回はこちらを《旅のガラス》として発表する。
今回の《旅のガラス》「蓮の花」
完成したガラスペンの写真を掲載する。
ふんわりと淡い桃色や橙色。ハスの花びらが天に伸びるようなイメージのガラスペンになった。軸を拡大してみよう。
ペン先の根元には軸とペン先をくっつける作業の当日に届いたレモン色のガラスを置いた。これはハスの花の中でも後々実になって種子ができる部分、花托の色を表現した。黄色を入れることで作品がグッと引き締まったように感じた。
フューミングで作った色は白背景と黒背景で色合いが変わる。黒背景に置いたときの「蓮の花」も見てみよう。
だいぶ雰囲気が違って見えるだろう。黒背景では橙色や緑色になる。透過して落ちた光が紫色になっている。これは白背景の時の名残だ。
白背景でも黒背景でも楽しめる作品だ。ちなみに、転がり止めは蓮の花のつぼみを意識した形にしたぞ。
「蓮の花」ガラスペンをオンラインショップにて販売予定
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2024年7月27日(土)21時に「蓮の花」ガラスペンをオンラインショップにて販売開始予定だ。これからもう少しペン先を作って研磨をしていくぞ。Xにもポストするのでまだの方はぜひフォローしてほしい。
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ツキイチで《旅のガラス》をやっていく予定なのでぜひチェックしてほしい。
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あとがき
ハスの花からガラスペンを作ったぞ《旅のガラス》第3回、創作編はいかがだったろうか。表現方法に思い悩みつつも完成まで漕ぎ着けた。途中、普段やらないフューミング技法を使うに際し工房の排気問題も見直した。気化した金属を吸い込むと息苦しくなるのでガラス作品を作られる方は注意してほしい。
最後まで読んでくださりありがとうございました。
それではまたの機会に。グッドラック!