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[読書の記録]松尾潔『松尾潔のメロウな日々』(2014年9月23日読了)
鈴木雅之、久保田利伸、EXILE、平井堅、宇多田、JUJU、CHEMISTRY他
いま日本でR&Bな歌謡曲を作らせたら最も売れっ子なプロデューサーである松尾潔さんが、90年代、当時接触することすら困難と言われたさまざまなアーティストとの個人的交流を通じて、米国産ブラックミュージックの先進的紹介者として活躍していた、自身のライター時代を回想して書いた本である。
この人がライターをしていなかったら私た日本人にとって今ほどR&Bは身近な音楽だったろうか、あるいは。
この人が筆を折った後にプロデューサーに転身していなかったとしたら、日本の歌謡曲シーンにヒップホップ/R&B的な音が膾炙するのはもっと遅れていたかもしれない、あるいは。
それほどまでに偉大な人物である。
書籍の内容はもともと『bmr』(現在休刊)に松尾氏が連載していたコラムと、さまざまな名盤に寄せたライナーノーツから構成されている。
私は長年ブラックミュージックを愛好しており、bmrも休刊するまでは読んでいたから連載も目にはしていたが、当時bmrに寄稿していた執筆陣としては丸屋九兵衛さんや渡辺祐さん、塚田桂子さん、押野素子さんといった面々のほうが好きで、松尾さんについては少し懐古趣味(90年代サウンドへの極端な傾倒)なおじさん、くらいの認識しかなかった。失礼。
(もっとも EXILE "Lovers Again"やJUJU ”桜雨”、3代目J-Soul兄弟のデビュー曲・・・といった美麗でメローなプロデュース仕事群は素晴らしいな、と思っていて、音楽制作者としてはずっと好きである。)
というわけで、発売から時間がたってもこの本については存在を知りつつ、特に手にとっていなかった(※この感想文は2014年に書かれている)のだが、先日、下北沢B&Bにて催された林剛さんとの対談イベントに行ってみると、改めて松尾さんという人が持つR&Bに対する愛と造詣の深さがわかり、「いっちょ読んだろう」と思ってその場で購入して帰ったのだ。
bmrの連載として一度は目にした内容とはいえ、やはり一気に読めるということはそれだけで価値がある。
まさに「メロウ mellow」と形容するに相応しい筆致で、ぐっと引き込まれた。
私自身、松尾さんがライターとして活躍していた90年代のR&Bをこそゴールデンエイジだと思っているのもあるが、やはり当時の米国ブラックミュージックが持っていた熱量と松尾さん自身の感動、そして日本において流通している情報量とのギャップと焦燥、葛藤、当時も今も日本の音楽ジャーナリズムにおいて主流のロック業界との確執など、高い臨場感を持って伝わってくる。
そして松尾氏が筆を折った理由も。
松尾さんは持ち前の行動力と政治力でかなり若くしてライターやラジオパーソナリティとして成功しているのだが、それでも、YoutubeもiTunesも無い時代に、無知で、時に無神経ですらある日本の音楽ファンに最先端のR&Bサウンドを紹介し続けるという仕事は、溢れ出る愛がなければできなかったことだろう。
それが特に顕著に伝わってくるのが、初公開稿であるPuff Daddy(現Diddy)との対談である。
この部分だけでも買って持っておく価値アリ。
研究書ではないが、ブラックミュージックラバーなら最高に楽しめると思う。