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彼とパスタと息子

「今日はベーコンのスパゲッティーがいい!!」

スーパーの入り口で大きな声で息子が話しかけてくる。

最近息子はこればかりだ。

よほど気に入ったらしく、ちょっとネットでレシピを調べて手間をかけた料理を作っても

「明日はスパゲッティーね!」

と満面の笑みで言ってくるのだから親としては悲しいやら困ったやらである。



いつもの材料を息子はどんどんとカゴに入れていく。

ナス、ベーコン、ニンニク

基本はこの3つがあれば後は家にある材料でできるので私としては楽である。

最近サッカーを初めた息子はどんどんと食べる量が増えていく。

先月のエンゲル係数は過去最高を記録し、元水泳部の旦那に負けじと食べるようになっている。

おいおい、そんなこと張り合ってどうする。と思いつつ、お腹いっぱいで笑う息子をやっぱりかわいく思う。

サッカー帰りの息子と仕事終わりの私は駅で待ち合わせをし、スーパーで買い物をして帰ることが多い。

まだ小学2年生。

今はいいけど、いつかは親と買い物なんかしてくれなくなるんだろう。

そんなことを思いながらレジのアルバイトの子からお釣りを受け取った。

家に帰ると息子は泥だらけのカバンを洗面所に投げ、ゲームに向かって走る。

私は洗面所でざっくり息子の練習技を片付け、洗濯機を回して料理モードに入る。







「君のパスタは母さんのに少し似てる。」

彼はそういって私のパスタをすすった。


学生の頃に付き合っていた彼はバンドマンだった。

友達に軽音サークルのライブに誘われてそこで知り合ったのがきっかけ。

打ち上げでメールアドレスを交換し、私たちはよくライブに行ったり、遊びに行くようになった。

彼はいつも好きな音楽の話を目をキラキラさせて話していた。

付き合って数ヶ月したある日、いつものように1人暮らしの私の部屋で夕飯を食べていた。

学校から彼の実家は電車で2時間。

付き合いだすと自然と私の部屋に転がり込んできた。

ちょっとわがままでも憎めない猫のような人だ。



最初にトマト缶をざるで裏ごす。

これはバイト先のキッチン20年の田中さん(42)が教えてくれた。

フライパンにオリーブオイルをひいてチューブのニンニクと唐辛子を入れる。

香りが立ってきたら、軽く焦げ目がつくまでベーコンを炒めて、半月型に切ったナスを投入。

ナスが油を吸ってしんなりしてきたら、先ほど裏ごししたトマトをいれる。

全体を絡めたら、コンソメ、赤ワイン、塩こしょう、砂糖少々とはちみつを入れてよく混ぜ煮詰める。

この間にお湯を沸かしておき、パスタを茹でる。

茹でている間にソースに粉チーズを振り、塩味を調整する。

この一連の動作に無駄のない感じ。

料理をしている時の私は無敵だなと思う。

「ねーまだー??」

彼はギターを弾きながらこっちも見ずに夕飯をねだる。

二十歳にして大きな息子を持った気分だ。

小さくため息をついて料理に戻る。

キッチンタイマーの合図で素早くパスタを湯切りし、ソースに投入。

全体をサッと混ぜ、お気に入りのお皿にかわいく盛り付ける。

そのパスタを食べながら彼はさっきの言葉を言った。

彼の母親は彼が幼い時に亡くなったらしい。

お父さんと妹、おばあちゃんの4人暮らしで彼は育った。

彼に関して女の噂を聞かないわけでもなかった。

友達にあいつはダメだ。と言われたことも何度もあった。

でも大学生の私はそんな彼を私なら支えられると思った。










でも社会人になり夢を追いかけたい彼と、現実的な私は自然と別れた。



息子にこのパスタを作る時は唐辛子を入れない。

旦那も辛いのが苦手なのでちょうどいい。

正直私は物足りないが。


息子にテーブルの上を片付ける指示を出す。

すぐに動く息子。

お腹の減った男子は素直でかわいい。


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「いただきまーす!」

息子はあちらこちらにトマトソースを飛ばしながらパスタにがっついてくれる。

幸せなんだな。

別にこれまで大きく不幸だったとか、挫折ばかりで見たいなドラマチックな人生ではなかった。

普通に就職して、恋愛もして、転職して、結婚して、子供ができて。

多分世の中的には順風満帆。

私なりに悩むこともあったし、辛いこともあった。

なんでわかってくれないんだと1人思うこともあった。

でも家庭をもって、人を理解するとか、あえて全てには触れない事も大事とかそういうことを学んだ気がする。

等身大って言葉が昔は嫌いだったけど、今は少し好きになった。

息子を見ていてもそれをすごく感じる。

子供というのは本当に等身大で、大人と違って自分に素直だ。

息子は10分ほどで食べ終わると「ごちそうさまー!」と一言いいゲームに戻る。

この素直さはたまに傷なのかな?

とか思いながら宿題の指示を出し、私は自分の食事を続けた。











旦那の晩酌の間に洗い物をするのがいつもの流れ。

連日のパスタ祭りのせいか彼を思い出す事が増えた。

彼はあのパスタを食べた時どんな気持ちであの言葉を言ったのかな。

そんなことを洗い物をしながらふと思った。



彼も私も別々の道を歩んだ。

今の私はこの幸せな家庭でこの子を育てながら仕事をするのが精一杯。でも楽しく暮らしてる。

人の道は分かれていって、でも時々その人を思い出す。

そんな風にできてるんだなーと柄にもなく思ったりした。








そして私はハッとした。

その時彼がパスタを食べてお母さんを思い出した気持ちが少しだけわかった気がした。



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かもめさんに教えていただいた「 #つくルンバ

一気に書き上げてみました。

西加奈子の「ごはんぐるり」の気分で楽しかったです。

最後にレシピでーす。

【ナスとベーコンのトマトソースパスタ:2人分】

《分量》
パスタ→200g
トマト缶→1缶
ベーコン→3〜4枚くらい
なす→小2本
ニンニク→チューブで3cm、生なら1かけ
オリーブオイル→大さじ3
コンソメ→固形1個
塩こしょう→適量
はちみつ→大さじ2
砂糖→小さじ2
粉チーズ→お好みで


かもめさん、ありがとうございました。

読んでいただきありがとうございます。もし気に入っていただけたらサポートをおねがいします。今後の感性を磨くための読書費や学びへの費用とさせていただきます。