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HRBPのための人事戦略デザインのチェックポイント

今回は、広範に渡るHRBPのタスク (こちら) の中で、特に重要な担当事業部門の人事戦略 (Talent Strategy) 策定について、ポイントを整理しました。
人事戦略は毎年1回、事業戦略と連動して策定・ローリングし、毎月の事業部内リーダーシップチーム (事業部長と企画チームや事業部長直下の管理職メンバー等) で実行検討やモニタリングします。

以下では、人事戦略を9のモジュールに分けて、それぞれポイントを記載しました。

【参考】 経営戦略と人事戦略の13個の連携ポイントは こちら(note)



Module 1: 今後の事業に必要な人材 (質×量)とギャップ を明確にする

  • 各事業部門の短期・中期戦略遂行のために必要な人材の質と量を明確にします。人材の質と量とは、職種(Job Family)やスキル・等級等ごとに必要な人数です。

  • 多様化を促進するために、性別や年代・出身国や価値観・人材タイプ別の目標を設定することもあります (女性管理職比率 30%等) 。

  • 次に現在の事業部人材の質・量を可視化し、上記必要な人材の質・量とのギャップを把握します。

  • 人材の必要度やギャップの大きさをもとに、人材獲得の優先度を設定します。

【実務上のポイント】 全ての職種・スキル等を対象とせず、戦略上の重要領域に焦点を絞ってギャップを明確にする方法も現実的です。

【参考】 スキルデータの活用については こちら

Module 2: 組織の形を設計する/キーポジションを設定する

  • 戦略遂行のために最適な組織の形 (組織変更) を事業部長や企画チーム他関係者と検討します。どの組織形態にも長所と短所があるため、戦略上の狙いと組織形態の長所が合致し、かつ短所を許容できること、または軽減できることを確認します。

  • 事業部長から一般社員までの階層数や、管理職のスパンオブコントロールに上限値を設定し、組織設計時の制約条件とする場合もあります。

  • 組織の中で特に重要なポジションをキーポジション(またはクリティカルポジション)として設定します。キーポジションの基準には、例えば「業績への直接のインパクト」「他組織への影響範囲の広さ」「そのポジションの人材獲得の難しさ (希少性)」等があります。

【実務上のポイント】 HRBPとしては組織変更の設計だけでなく、変更した組織がその狙い通りに機能しているかを継続的にフォローする必要があります。例えば、連携強化を狙って1つの組織にまとめたチーム同士が、その通り円滑にコミュニケーションできているか等をフォローします。

Module 3: 必要な人材の獲得方法を設計する

  • 主な人材の主な獲得方法=人材プールの構築方法は、採用と育成、他事業部からの異動となります (他にはグループ会社からの出向受入等もあり)。また、退職防止のためのリテンションも重要です。但し、あらゆる可能性を考えても事業部内に活躍場所が無いであろう人材については、事業部外(または社外)に活躍の場所を求めてもらうことも検討しなければなりません。

  • 社員一人ひとりの保有スキル・強みや成長課題、ポテンシャル、キャリア希望等については、年1回のタレントレビューを通じて組織的に把握しデータ化ておくと効率的です。

  • 育休等休職からの確実な復職も重要であり、退職者の再雇用/アルムナイ活用も検討対象に含まれます。

【実務上のポイント】人材獲得方法は育成が中心となりつつも成長には時間を要する場合があるため、中途採用 (キャリア採用) や他事業部からの異動、外部人材の活用(プロフェッショナル派遣・業務委託等)も組み合わせて考えます。そのために、採用申請が出てからキャリア採用に動くのではなく、採用チームとも連携して常に外部にタレントプールを準備しておくことを目指します。

【参考】タレントレビューについては こちら
【参考】中途(キャリア)採用強化のためのタスクリストは こちら
【参考】キャリア開発支援プログラムについては こちら

Module 4: 人材の最適配置方針を設計する

  • 採用や他事業部からの異動、昇格等も加味してModule1のギャップを埋める人材獲得シミュレーションを行った上で、年間を通じた異動方針 (=職種・機能・部署間の異動人数概算) を設定します。ジョブローテーション・定期異動や社内公募等の異動方法別の方針を検討します。

  • 最適配置の「最適」の定義 (= 何を重視してポジションと人材をマッチングさせるか) を整理しておく必要があります。等級はもちろんですが、他にもスキルや経験、資格などがあります。

  • 併せて、キャリアプラン申請等で把握する社員本人の配置希望を異動検討の際にどのように考慮に入れるかも考えておきます。

  • 尚、年間の異動人数が多すぎると引継ぎ・新規業務習得により組織の生産性への影響が大きい場合、異動人数の上限目安を設定し異動の優先度を方針として設定しておきます。

【実務上のポイント】検討している異動方針(=職種・機能・部署間の異動人数概算)がどれだけ社員の配置希望とギャップがあるのかを確認し、ギャップが大きい場合、その縮小可能性についても検討します。

【参考】ポジションと人材のマッチング項目については  こちら

Module 5: 人材の能力最大発揮の環境を設計する

  • ここで考えるべき要素は多岐に渡りますが、代表的なものとしては、評価・報酬 (非金銭的報酬含む) の公正性や、働き方の柔軟性、成長・キャリア開発環境の充実度、健全な組織風土・前向きなカルチャー等があります。

  • これらは、従業員エンゲージメントサーベイ結果で"社員の声"として確認ができるため、サーベイ結果をもとに総合的・多面的に事業部全体および個別部署の課題を整理し改善の方向性を検討します。

  • 尚、この領域については就業条件や評価・報酬制度など全社的な人事制度に関する項目が多いため、必要に応じて本社人事への提案を検討します。

  • 各事業部HRBPとしては、表彰や成長機会整備など事業部独自企画の検討も行いますが、就業条件・人事制度の適正な「運用」の徹底が重要テーマとなることが多くあります。

【実務上のポイント】エンゲージメントサーベイ実施後に、各部署で自律的に改善に取り組めるようプロセスやカルチャー構築を目指します (何もしないと気づくとすぐ次のサーベイ時期が来てしまいます)。
その際には、個別のサーベイ項目に場当たり的に対応するのではなく、自組織は社員に何を提供できるのか/自組織の魅力は何か (EVP) を強く意識してもらうようします。

【参考】従業員エンゲージメント向上については こちら


Module 6: キーポジションの後継者プールの強化方法を設計する

  • 後継者プール (タレントパイプライン) を確認し、後継者候補が不足しているポジションの強化策を検討します。事業部内だけでは十分でない場合、他事業部や社外の候補者も探したり、事業部内でポテンシャルの高い人材の育成加速を検討します。

  • Module 4 人材配置では、後継者育成のための異動を優先的に検討します。

Module 7: DE&I促進の方法を設計する

  • 「多様性」の定義と多様化の重点対象範囲を設定します。多様性の定義とは、性別等のデモグラフィックダイバーシティを指すのか、考え方・価値観等のコグニティブダイバーシティも含めるのか等です。一方、多様化の重点対象範囲とは、キーポジションの候補者プールの多様化を目指すのか、管理職を優先対象とするのか、事業部全員を対象とするのか等です。

  • 女性管理職の数値目標がある場合、採用・登用・リテンションの具体的な数値目標と対策を設定し、管理職候補となる社員状況 (タレントパイプライン) やエンゲージメントスコア、退職率等の男女比較を行い、課題の対応策を検討します。

Module 8: 人事リスクの想定と軽減方法を設計する

  • 人事リスクとは、ここでは人材が"離脱"してしまう可能性を指します。代表的なものとしては、コンプライアンス違反や傷病、介護と仕事の両立不可等があります。それぞれ具体的な対応方法は異なりますが、リスクの発生可能性の想定と事前の対策を検討しておきます。

Module 9: トータルコストを管理する

  • 以上のModule 1〜8までで必要なコストを可視化し、上限内に収めていくよう調整 (または増額を調整) します。

【参考】経営戦略と人事戦略の連携ポイントは こちら(note)



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