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優しさで自分を受け止める「セルフコンパッション」〜禅と心理学が融合した心のケア術でビジネスと人生を“活き”やすく〜
今回は座禅の話から…
突然ですが皆さんは座禅をしたことがありますか?
私は大学三年生の終わりごろから京都の嵐山にある天龍寺に通い始めて、だいたい4年間ぐらい月イチ開催の市民座禅会に参加をしていました。基本的に居眠り体質なこともあって、座禅に行くとまあよく居眠りしてしまったもので…。座禅会の老師からは何度も警策で叩かれたのを覚えています(笑)。
でも四年間も通うとそれなりのものになっていくようで、だいたい30分がワンタームでそれを四セットくらいするんですが、4年目の終わりの方はもう30分が一瞬で過ぎるぐらい集中力が続くようになりました。
そんな座禅の中には「一行三昧」という言葉があり、「今、その瞬間の出来事に集中すること」という意味を持っていて、いわゆる「マインドフルネス」とイコールと捉えられています。
google社ではこのマインドフルネス・瞑想を取り入れた研修を2000年代の後半に開発したと言われていて、驚いたのを覚えています。
心理学の領域でも最近徐々に流行り始めている「セルフコンパッション」。
なんとこの禅の思想にあるマインドフルネスを含んでいると知って驚き、今回のキャリアの自由研究のテーマにしようと考えました。
「個」が“活き”やすい世の中を考えていくうえで、とても大事な考えではないかと思っています。
思い返すと大学院の授業で教育心理学という科目があり、その中でセルフコンパッションがテーマとして取り上げられたことがありました。欧米から生まれた心理学という学問の中に、座禅・瞑想と言った東洋の思想が組み込まれていることにとても興味深く驚いた記憶があります。
最近は医学の世界にも東洋医学の漢方が入り込んでいるという話をテレビ番組で見たのですが、それと同じような感じでしょうか。
一昔前みたいに西洋と東洋の考え方を分けるのではなく、融合させるようなスタンスが生まれてきているのでしょう。
今回紹介する研究論文も心理学に関する学会に投稿されたものですが、「仏教では~」という内容の紹介が冒頭に行われていて、同じような融合を感じる面白さがあります。
セルフコンパッションとは?
ではまず、そもそも「セルフコンパッションとは?」という疑問から解消していきましょう。セルフコンパッションという概念は、2003年にアメリカの心理学者クリスティン・ネフ(Kristin Neff)が提唱しました。
日本では2021年に金剛出版から出版された「セルフ・コンパッション」というネフ著作の和訳本があり、そこから広く知られるようになっていったのではないでしょうか。
簡潔にネフ(2003)の定義では「困難な状況において、思いやりの気持ちを持って自己に向き合うこと」「自己の苦痛に開かれており、 それを緩和しようとする健全な自己との関わり方」としており、現代のストレス社会のなかで自分を追い込み過ぎず、優しさを持って自分を受け止めようという考え方ではないかと私は思っています。
類似概念としてレジリエンスや自己肯定感と似ているものがありますね。ビジネスシーンにおいてもストレスコントロールや生産性の向上のために瞑想を行う人が増えてきたと言われるように、コロナ禍を経てセルフコンパッションが注目され始めたように思います。
とはいえ、まだまだ日本における研究分野においてはこれからで、今後の可能性を感じる概念になっています。そこで、セルフコンパッション研究の萌芽的なものを今回は紹介したいと思います。
タイトルは「セルフ・コンパッション尺度日本語版の作成と信頼性、妥当性の検討」というもので、有光興記さんが2014年の心理学研究というジャーナルに投稿したものです。ネフが開発したセルフコンパッション尺度を邦訳した研究ですが、その尺度の内容を見ると、セルフコンパッションがどういう概念で構成されているのかが良く分かります。
セルフコンパッションの構成要素と質問紙
ネフの研究では相対する3組の要素がセルフコンパッションの構成要素として紹介されています。
1.⾃分への優しさ(self-kindness) ⇔ ⾃⼰批判(self-judgment)
2.⼈としての共通体験(common humanity) ⇔ 孤⽴(isolation)
3.マインドフルネス(mindfulness) ⇔ 過度の⼀致(over- identification)
この3つ目の構成要素であるマインドフルネス(mindfulness)が禅の要素を含んでいるんですね。
次に研究論文で紹介されている邦訳された尺度(質問紙)の内容をポジティブな3つの要素に絞って見てみましょう。
⾃分への優しさ:Self-Kindness
・感情的な苦痛を感じているとき,自分自身にやさしくする。
・苦労を経験しているとき,必要とする程度に自分自身をいたわり,やさしくする。
・苦しみを経験しているとき,自分自身にやさしくする。
・自分自身の欠点と不十分なところについては,やさしい目で見るようにしている。
・自分のパーソナリティの好きでないところについては理解し,やさしい目で見るようにしている。
⼈としての共通体験:Common Humanity
・自分にとって物事が悪い方向に向かっているとき,そうした困難は誰もが経験するような人生の一場面に過ぎないと考える。
・気分がどん底のときには,自分と同じような気持ちになっている人が世界には大勢いるということを思い出すようにする。
・自分自身にどこか不十分なところがあると感じると,多くの人も不十分であるという気持ちを共有していることを思い出すようにする。
・自分の失敗は,人間のありようの一つであると考えるようにしている。
マインドフルネス:Mindfulness
・何かで苦しい思いをしたときには,感情を適度なバランスに保つようにする。
・何か苦痛を感じることが起こったとき,その状況についてバランスのとれた見方をするようにする。
・自分にとって大切なことを失敗したときは,偏りがないように物事をとらえるようにする。
・気分が落ち込んでいるとき,自分の感情に関心を持ち,心を開いて対処しようとする。
まとめ
いかがでしょうか。質問項目の内容を見ると、失敗や困難にさしかかったとき、自分自身を優しく捉えるためのヒントがたくさんあるように感じます。「やさしい」「自分自身」「心」といった気持ちが楽になるようなキーワードが溢れているのが特徴的だと思います。
現代のストレス社会のなかで、自分自身を守っていくための視点としてとても大事ですし、組織においてもセルフコンパッションの度合いを計ることによって、個人が生き辛い組織になっていないかどうかを判断する1つの指標になりうる可能性があるのではないでしょうか。
ワークエンゲージメントやキャリア自律といったある種の「攻め」の尺度で数値を計ることも良いですが、逆にセルフコンパッションのような「守り」の尺度で個人や組織の状態を計ってみることもお勧めしたいと思います。
次回のお知らせ
さて、次回もセルフコンパッションをテーマに投稿したいと考えています。今回はセルフコンパッションについて基本的な概念をご紹介する内容になっていますが、次回はより本格的なセルフコンパッション尺度を活用した研究論文を紹介したいと思いますので、乞うご期待ください!
そして、レイド株式会社代表の蒲原さんと、キャリアの自由研究・編集担当のあやぴょんさんにこのセルフコンパッション尺度を使ったアンケートに回答頂いていて、その結果をお知らせしたいと思います!研究のデータに比べて、お二人のセルフコンパッションが高いのか、低いのか、めちゃくちゃ楽しみですね(笑)。来月の投稿もどうぞよろしくお願いいたします!
【引用文献】
・Neff, K.D.(2003 ).The development and validation of a scale to measure self-compassion. Self and Identity,2,22–250.
・有光興記(2014)「セルフ・コンパッション尺度日本語版の作成と信頼性,妥当性の検討」『心理学研究』85 巻 1 号 p. 50-59