見出し画像

新年と魂の旅立ち

2022年になりました。
私の新年は、訪問看護の緊急携帯電話の
呼び出し音で幕開けしました。

5:24 携帯電話が鳴る。一気に目が覚める。
予測していた患者さんの名前が表示される。
「◯◯です。呼吸が止まったようです。」
鼻をすする音がする。同居の娘さんからだ。
「わかりました。今から伺います。30分位で到着します。」
慌ててベットから出て、洗面所へいく。自宅に置いていたユニフォームに着替える。外は寒い。重ね着し、聴診器、ペンライト、エンゼルケアキット等必要物品の確認。
高校生の娘の部屋に向かい、ドアを少し開け、「◯◯ちゃん、患者さん亡くなったから、お母さん行ってくるね。ゆっくり寝てていいよ。」と声をかける。「んー。」と返事。
直ぐに家を出て、職場で、社用車に乗り換え患者さん宅へ向かう。社用車のフロントガラスは、ガチガチに凍っている。何だよ、こんな時に…。真っ暗な街、川と丘陵を越えると、神社の護摩焚きが浮かび上がって見えてきた。

経験上、深夜から朝方にかけて息をひき取る方が多い。年末から状態が不安定、元旦の朝か、2日の朝かな、と心づもりはしていたからか、心肺停止の確認は落ちついていた。
担当医へ連絡。医師の死亡確認が済むまでは、看護師は処置はできない。
ご家族に、ここまでが保険内、看護師によるエンゼルケア(死後の処置)は、実費になることを説明する。希望されたので、最後に着せたい服などの準備をお願いする。
担当医の到着まで、1時間はかかるため、
一旦、席を外し、死亡確認後に再訪問することを説明する。
車に戻り、iPadの電子カルテに、詳細を記録。
時計を見ると6:20。今日は、元旦だったよな。お雑煮の準備まだだけど、まあ、いいか。
コンビニで温かいお茶を買い、医師が到着するまで、待つ。

7:00過ぎに、担当医到着。何という偶然のめぐりあわせか、この医師と患者さん、同姓同名なのである。先生も長い付き合い、死亡確認後も色々と思い出を話されていた。

医師が帰られた。これからエンゼルケアと呼ばれる死後処置に入る。娘さんの希望もあり、一緒に行う。死後硬直が進むと着替えが難しくなるので、手早くを心がける。創傷部位のガーゼを新しいものにする。排泄物の処理をし、蒸しタオルで、全身を拭き、髭剃りをする。体液漏出を防ぐため、鼻腔と肛門にゼリー状のものを注入する(かつては、綿)。用意されたお召し物を着て頂く。娘さんに死に水を取って頂く。好きだったお茶で。一緒に、死に化粧を薄く施す。最後に娘さんに紅をさしてもらう。
介護用ベットの柵を全て外し、布団をかける。
闘病の労い、安らかに眠って頂きますよう手を合わせて、訪問看護は終了となった。

30年間、診療所に通院し、近年、建て直した家で、4世代で住まわれていた。最後は、娘さん、孫家族に看取られ息を引き取った。退院直後は、娘さんも最期まで看る自信はないと話されていたが、4ヶ月間自宅介護をするうちに、様々なことを受容できるようになっていた。コロナ禍で入院や入所をしたら、面会できない事実。これが自宅で看取るという覚悟を決めさせたと理由と思われる。いつも関わる人に感謝を述べていた97歳、素晴らしい最期だった。

写真は、初日の出前、夜明けの空。
こんな空を見させてくれ、ありがとう。
感謝します。
さあ、少し、私も休もう。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?