バレエ感想「アラジン」新国立劇場バレエ団
このnoteに記載する「アラジン」感想はバレエファンの会社員の所感、妄想、願望まみれの、あくまでも個人の意見です。根拠の無い文章を読むのが嫌いな方はそっとブラウザを閉じていただくようお願いします。
6/14(金)から新国立劇場バレエ団「アラジン」の上演が始まり、私は6/14と6/15ソワレを見に行きました。
舞台は6/23(日)まであり、今回は大好きな福田圭吾さんや清水裕三郎さんの新国アデューなので、私は来週も劇場に通う気満々です。しかし来週はこの2人のアデューが悲し過ぎてまともな文章を書ける自信がないので、アラジン前半戦の感想だけでも先に書いておこうと思います😂
新国アラジンの面白かった点🍎
6/14(金)公演で主演のアラジンを演じられていた福岡雄大さんが、2幕で小野絢子さん演じるプリンセスからリンゴをもらうというシーンがあります。そこでなんと雄大さんがリンゴを本当に食べ始めて驚きました!
雄大さんはドンキホーテの酒場のシーンでのパンや、ラ・バヤデールでガムザッティと会うシーンでのブドウなど、物を食べる演技が本当に上手なダンサーなので今回も最初は「演技が上手だな」と思っていました。しかし、雄大さんはずっと口をモグモグしているだけでなく、リンゴの齧っている部分もどんどん大きくなってきていて「これは本当に召し上がっている!」と気づいて驚きました。あまりに器用に踊るので、サラリーマンも昼休みに食事しながら会議に参加することはしょっちゅうありますが、ダンサーも忙しい合間を縫って食事しながらリハーサルをすることもよくあるのかもしれないと感じました。
なぜリンゴを食べながら踊る振付にしたのか、振付家の意図は意味不明ですが、まさかの食事をしながらのパドドゥは人生で初めて見たので、とても面白かったです。ちなみに別回の速水渉悟さんはリンゴを食べる演技だったそうで、私が見た奥村康祐さんも演技だったので、今のところ実際にリンゴを食べていたのは雄大さんのみです。
6/15(土)は奥村康祐さんがアラジンを演じられたのですが、40歳近いのにオッサンの若作り感が一切出ておらず、リアルなヤンチャ小僧に見えたのは凄いですし、とても可愛らしかったです。洞窟のシーンで宝石達が踊っている時も目を輝かせながら一喜一憂している様子が純粋な子供のようで素敵な役作りだと思いました。
奥村アラジンは快活でまさに当たり役という感じでしたが、6/15はまさかのパートナーの米沢唯さんが2幕で体調を崩され、3幕以降は奥村さんも一緒に降板されてしまいました😭
前回の「ラ・バヤデール」で印象的な軍人役を見せて下さった清水裕三郎さんと趙載範さんはゴールド役を演じられましたが、一般人が着たら周りに驚かれそうなハロウィンのコスプレみたいなキンキラキンの衣装を着こなしており、迫力が満点でした。演技や存在感が濃い裕三郎さんと、ガチ兵役経験者の趙載範さんが並ぶだけで王様のような重厚感でした。一緒に踊った渡辺与布さんや朝枝尚子さんが爆美女なので、この高身長美男美女の4名がステージにいると華やかさが凄まじかったです。
直塚美穂さんと渡邊峻郁さんのルビー🟥
2回アラジンを見た中で印象に残っている踊りの一つは何と言っても直塚美穂さんと渡邊峻郁さんのルビーです。ルビーのパドドゥは短いですが、実力者の2人が組むとこんなにも見応えがあるのかと驚きました。この2人の作り出す世界観が濃くて、ダンサーとしての格の違いを目の当たりにし、久々に舞台を見ていて鳥肌が立ちました。
直塚さんは長い手足や柔軟性を活かしながら艶やかに踊られているだけでなく、音楽に各ポーズがバシッとハマり、ものすごく格好良かったです。
私は普段よくボリショイやマリインスキーなどロシアのバレエ団の動画を見ているので、直塚さんの凄さを最初は「ダンサーならあのくらい踊って当たり前なんだろう」と思っていたのですが、冷静に考えればそんな訳ありません。
クリサノワのような強靭で華麗なテクニックを持ち、ステパノワやスミルノワのような美しいポールドブラを持つ直塚さんの存在は奇跡です。改めてこれだけレベルの高いバレリーナが新国立劇場バレエ団で踊り続けて下さっていることに感謝したいですし、運営側は誰も得しない無意味な年功序列などの日系企業的なくだらない人事をさっさと廃止して、直塚さんを即刻プリンシパルにすべきだと思います。そして直塚さんにもっと沢山踊ってもらい、日本バレエ界のレベルの高さを世界にアピールしてほしいと感じました。
渡邊峻郁さんは新国立劇場バレエ団では少女漫画の王子様のような「The⭐︎プリンス」というような役柄が多いのですが、今回のアラジンでは魔法の精ジーンやルビーなど、少女漫画的要素からは外れた役であり、どちらも素敵でした!
特にジーンは「空中にいる時間のほうが長いのでは?」と思うくらい軽やかでずっと空中にいるかのようでした。
ルビーでの直塚さんとのペアで面白かったのが、峻郁さんが直塚さんに必死で食らいついて行っているように見えたことです。直塚さんが峻郁さんを引っ張っているようにも見え、2人がお互いの実力をさらに引き出しあっているような印象を受け、とても見応えのあるパドドゥでした。
峻郁さんはおそらく実際にお兄さんということもあり、誰と踊っていても「うん、上手に出来たね😊困ったら僕に全部任せて😉」という声が逐一聞こえてくるような、お兄ちゃん感を感じることがよくあります。よく言えば常に余裕があるお兄ちゃん、悪く言えば全く隙の無い完璧な優等生兄貴という感じです。おそらく新国立劇場が峻郁さんに求めているのは「完璧で格好いいプリンス像」だと思うので、峻郁さんは運営の期待には十分応えていると思いますが、観客としては綺麗なだけでなく、もっと人間的で演劇的な一面も見てみたいとずっと思っていました。
峻郁さんが元オペラ座エトワールのカデル・ベラルビ率いるトゥールーズ・キャピトル・バレエに在籍していた頃の「美女と野獣」と「海賊」の映像を見たことがありますが、人間臭くて荒々しくて、でも不思議な色気と魅力があったのが印象に残っています。その映像の峻郁さんが魅力的で、少女漫画的な甘いプリンス一辺倒の新国立の最近の配役には物足りなさを感じていたので、今回違った雰囲気の峻郁さんの踊りを見れてとても嬉しかったです。
渡邊峻郁さんと直塚美穂さんのペアは実力者同士が組むとどんなに短い踊りでもこれだけ格好良く魅力的なんだと強く感じました。ぜひこの2人の主演舞台をもっと見たいです。
佐野和輝さんのオニキス🥷
以前DVD化された「アラジン」では福田圭吾さんがオニキス役を踊っており、今回は誰が配役されるか楽しみにしていました。オニキスはパール役のバレリーナとペアになって3組6名で踊るのですが、中でも佐野和輝さんの踊りが秀逸で、忍者のようにキレよく踊っていたことがとても印象的でした。
去年くるみ割り人形を見ていたとき半分寝落ちしていたところ、佐野さんが踊り出したらあまりに上手で眠気が吹っ飛んでからずっと注目していおり、今回も風を切り裂くかのようなシャープな踊りが素敵でした。ジャンプが軽やかで素早くて正確で、どの動きも美しかったです。
今回印象的だったのが、佐野和輝さんの踊りに品の良さ感じたことです。素敵なダンサーがまた増えたなと嬉しくなりました。
ここからはあくまでも私の意見ですが、なぜこれだけ上手で感じも良くて、明るいオーラを持った佐野さんがアラジンに配役されないのか意味が分かりません。新国はたまに根拠不明な謎な配役を行い、時としてそれは「研修所枠」と揶揄されますが、なぜ研修所出身で実力もある佐野さんが主要な役にアサインされないのでしょうか。正直、彼の実力に対して冷遇されているように感じることもあります。
もしも予算の関係等で研修所出身者の主演比率を増やす必要があるのなら、出身教室の力が強いダンサーではなく、佐野さんのように本当に実力があるダンサーにその枠を使って欲しいです。彼ほど実力のあるダンサーであれば誰も「研修所枠」だなんて文句を言わないでしょうし、素敵な踊りで新国の魅力的な一面をさらにアピールしてくれると思います。
急遽代役登板した福岡雄大さんの踊りを見て感じたこと👑
6/15ソワレで主演の米沢唯さんが体調を崩され、急遽3幕は小野絢子さんと福岡雄大さんとペアごと交代となりました。バレエダンサーは常に怪我や体調の変化などと隣り合わせであり、非常にハードな仕事です。最後まで踊りきれなかった米沢さん、奥村康祐さんの悔しさと辛さはダンサー達が一番感じているはずであり、急遽登板することになった雄大さん達も非常に辛く、心配だったと思います。
いきなりの登板であるにもかかわらず、雄大さんの踊りからは踊る喜びが爆発しており、どんな状況であってもダンサーは踊ることが大好きでそれが生き甲斐なんだと感じました。雄大さんの名誉のために言いますが、もちろん急遽登板を喜んでいるのではなく降板者を非常に心配しているはずですが、観客の前で踊れることの純粋な喜びがとても伝わってきたと言うことです!
どんな状況であっても、ダンサーというのは踊ることが喜びであり、純粋に踊ることが大好きで、踊ることが生き甲斐なのは間違いないでしょう。これは以前別のダンサーのオープンクラスに行った時に「バレエが本当に大好き」という強い気持ちを感じて以来で、雄大さんのバレエへの大きな愛を感じて感動しました。
踊る喜びを全身から発していた雄大さんを見て、ダンサーはなんて純粋なんだろうかと感じました。日本バレエ界には待遇や環境など、ヨーロッパに比べて大きな課題が山積みです。ですがどこのバレエ団に所属していてもダンサー達自身は純粋で真面目です。新国は比較的待遇がマシとは聞きますが、そのような純真なダンサー達をもし日本バレエ界の運営陣が劣悪な環境に置いているとしたら、それは搾取でしか無いでしょう。
ダンサー達の真面目で真剣な取り組み姿勢や、現役生活の短さ、体への多大な負担を考えると本来なら20代で1,000万、30代は2,000万円くらい給料が支払われるべき職務内容ですし、そのくらい所得が無いと割に合わないよなとつくづく思います。
「アラジン」離脱者の多さについて自分の本業に置き換えてみた👨💻
今回は金城さん、仲村さん、小柴さん、森本さんなどが事前に怪我降板を発表されましたが、なんとプリンシパルの米沢唯さんも途中降板し、あまりの離脱者の多さに驚きました。バレエダンサーは怪我人が多いので「怪我降板」で離脱はよくあることですが、それにしても今回は欠員が多いなと感じました。
ふと自分の本業でこれだけの欠員が出たらどうなるかと考えてみました。例えばIT企業において、本番運用直前にこれだけの欠員が出たとします。もし私の所属するプロジェクトでこれだけの離脱者が出たら、状況としてはこんな感じになり、まず仕事が回らなくなるでしょう。
もちろんバレエ界とIT業界は全然違いますが、これだけの欠員が出るって一般企業に置き換えてみたら相当ヤバいのが分かりますし、これだけの欠員を出したことは管理者の責任ではないかと思うのです。これはあくまでも私が自分の作業内容に置き換えてみただけですが、この欠員の多さはインシデントレベルではないでしょうか。
注:上の置き換えはあくまでも私がヤバさを可視化するために考えた仮定です!頭おかしいバレエファンの妄想です!実際これだけヤバいかどうかは知りません!
ちなみに一般社会の仕事でこれだけ離脱者を出したら、マネージャーや管理者が「なぜこんなに離脱者を出したのか」と上から責任を追及されるのが普通です。なぜこれだけの離脱者が出たのか原因を解明して報告するだけでなく、原因を解消するように努め、更なる離脱者を出さないように対策を考えるのが、一般社会における管理者の仕事です。
バレエダンサーの場合は怪我人や降板者が出ても当たり前になってる部分はありますが、本来であれば怪我人等(離脱者)を出さないようにするのが管理者の仕事だと思います。
もう一度言いますが、一般社会では離脱者が出るのは上の責任とされます。
以前別のバレエ団所属のダンサーが本番中にステージで滑って大怪我したのを目撃したことがあります。あれは明らかにダンサーではなく、床のコンディション管理を怠った管理側の責任でした。そう考えると、今回これだけ怪我降板を出したのもダンサーの責任では無く、管理者がきちんと仕事をしていれば、もしかしたら防げたかもしれないと思うと観客として非常に悔しいです。
今後新国立劇場側が今回の離脱者大量発生の原因を解明し、再発防止に全力を注いでくれることを願ってやみません。
もしランプの精ジーンにお願いができるなら、今回怪我降板されたダンサー達がすぐに復帰し、1日でも早く舞台に戻ってきてくれることを心から願います。本当に、本当に早く舞台に戻ってきて欲しいですし、皆様の踊りをまた見れるのを心から楽しみにしています