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バレエ感想㉙「日本舞踊の可能性vol.5 信長」ルジマトフ/岩田守弘/藤間蘭黄

この機会を逃したら一生見れないであろうファルフ・ルジマトフ、この舞台での引退を宣言している岩田守弘さん。競争が激しいロシアバレエ界で第一線で活躍された豪華キャストが出演しており、正直本当に開催されるのか不安視しており、狐に騙されているんじゃないか?とずっと思ってました。

第一幕は藤間蘭黄さんの長唄「松の翁」からスタートしました。
藤間さんは最初翁(老人)として登場。足取りが重いだけでなく、動きがスローモーションで本当に老人に見えます。不思議だったのが、藤間さんは動画で見たときに端正な顔立ちや精悍な雰囲気がとても印象に残っていたのですが、舞台に登場した瞬間、そのような精悍さがなく生気が感じられません。調子が悪いのかな?と思って見ていたのですが、途中からリズムが速くなるにつれ、動きや表情で若々しさを表現されており、変わりっぷりに驚きました。もちろん、ものすごくカッコよかったですし、最初のショボくれた老け具合はは演技だったと確信。扇を使いながら水の流れや松の葉が散る様子を表現されており、景色が鮮明に頭に浮かんできました。
日本舞踊は今回初めて見たのですが、藤間さんの重心の安定さがすごく、バレエのように飛んだり跳ねたりしない分、上半身や表情を大きく動かしながら表現されている姿が印象に残りました。

藤間さんの舞の後に幕間があり、休憩時間でもないし、一体なんなんだろうと思っていたのですが、司会の落語家桂吉坊さん曰く、10分かけて床を日本舞踊仕様の所作台からバレエ仕様に手作業で取り替える作業を行なっていたそうです。すごい。ものすごく手間がかけられています。ちなみに桂吉坊さんはお話や解説がとても面白かったです。バレエにもこんな解説者がいたらもっと楽しめそうと思いました。

幕も変わりました!

次にボリショイバレエ団元ファーストソリストの岩田守弘さんが登場したのですが、岩田さん、本当に上手い。うますぎる。そこら辺のプロを名乗るバレエダンサーよりよっぽど上手です。今回がラストと仰ってますが、ご冗談ですよね・・・。 これだけ体が動いて、観客を魅せられるのに、もう引退だなんて早すぎです。
岩田さんのソロは「生きる」というタイトルで、ショパンの「革命」に乗って踊ります。音楽だけでなく、動きも激しく、命の炎が激しく燃えている様子、生きることへの執念、ものすごい量のエネルギーを表現しており、あっという間に終わってしまいました。5分あったらしいですが、30秒ほどで終わってしまった気がするくらい、圧巻のパフォーマンスでした。

1幕の最後はファルフ・ルジマトフによる「レクイエム」です。迫真の舞を目の当たりにして、私はこの時点で号泣です。ルジマトフの情熱と何かを追い求める姿勢を目の当たりにして涙が止まらなかったです。
このプログラムはプーシキンの「モーツァルトとサリエリ」という戯曲が元になっており、ルジマトフはモーツァルトの才能に嫉妬するサリエリという設定。登場人物は1人なので、楽譜をモーツァルトに見立てているのですが、この嫉妬心の表現がものすごく力強い。自分は絶対に敵わないモーツァルトの才能を確信した時、ものすごい嫉妬に燃えている様子が狂う寸前のようで、心が痛くなりました。サリエリだけでなくルジマトフ自身も常に芸術の高みを追い続けている人だからこそ、この苦しみをよく理解でき、それを表現に昇華させているのだと思います。
ルジマトフのバレエへの強い愛と誇り高さがよく伝わってくる凄いプログラムだなと思いました。圧倒されましたし、涙が止まらなかったです。

インパクト大のグッズ

休憩時間は号泣しつつも、周りを見渡すとバレエ関係の人も沢山おり、色々な業界の面々がミックスされた様子は非常に興味深かったです。また、グッズもTシャツやロシアンケーキなど売っており、充実しています。

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さて、メインの「信長」ですが、これは非常に面白いプロダクションです。ルジマトフのいい意味での異質さが織田信長と被ります。音楽は箏曲や和楽器が使われており、クラシック要素はありません。岩田さんやルジマトフの動きはもちろんクラシックバレエがベースになっていますが、変なクラシックさが良い意味で無く、舞台と一体化しています。

ストーリーについては信長の一生の中でも斎藤道三との出会いの部分から、本能寺の変、そして豊臣秀吉が明智光秀を倒すまでが描かれています。衣装も簡素でありつつも、かなりストーリー上重要となっており、細かな工夫が見られます。例えば、信長がメインで着ているのはうつけを表現した網タイツのような素材の異様な衣装です。しかし正装を表現するときは、ルイ・ヴィトンのコレクションのような黒と金が基調となった肌の露出を抑られた、重厚感のある衣装に変化します。

藤間蘭黄さんは、斎藤道三役と明智光秀役を演じられていますが、斎藤道三を演じるときは薄い山吹色のような淡い色の着物を着られています。もちろんその着物はとても上等な仕立てで羽織の刺繍も細かく、着物自体は素晴らしくて藤間さんに似合っているのですが、信長のドギツイ色合いの服の圧倒的勝者感を目の当たりにするとどうも色合いがぼやけてしまい、色でも信長に負けたことを表現しているのかと感じました。ちなみに明智光秀役では打って変わって紫色のはっきりした正装がメインとなります。紫は昔から高貴な色なので、文化に精通して教養の高い明智光秀を表す色にしたのかと感じました。

岩田守弘さん演じる豊臣秀吉の衣装は農民出身ということもあり、労働者階級の象徴とされるジーンズのような素材です。途中で力をつけ始めると羽織を着ますが、キンキラキンでゴテゴテしており、正直明智光秀の衣装のように洗練されてはいません。これも農民出身で派手好きの秀吉というキャラクターを表す一つの手段なのかなと思いました。

https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000002.000104011.html

さて、衣装の話ばかりしてしまいましたが、踊りの方も藤間さん、岩田さん、ルジマトフのそれぞれの個性の強さがマッチしていて、とても見応えがありました。
ここで本当に興味深かったのが藤間さんの表現です。例えば、怒りを表す際、岩田さんやルジマトフのバレエ組は手足を大きく振り、大きくジャンプをしたり、体を反らせたり、体を大きく動かして表現します。しかし日本舞踊の藤間さんはそもそもバレエダンサーのように足や手を振り上げるということはせず、怒りを表現するときは表情でまず表現し、体の中心から震え上がる怒りを爆発させたかのような独特の体の震えを表し、今にも主君を殺さんばかりの強い怒りを見せていました。
バレエも日本舞踊も体を使って表現しますが、手足を大きく使うバレエと、体の中心から上半身や首の傾け具合などで表現する日本舞踊の対比が本当に興味深かったです。

ではバレエと日本舞踊は全然違うのかといったらそんなことはなく、例えば比叡山延暦寺のシーンなどでは3人揃って踊るのですが、不思議なことにバレエ組と藤間さんの振り付けは違うのに、ものすごくマッチしていて、全く違和感がないのです。このシーンの重厚感がすごかったです。国やスタイルを違えど、古典を極めた3者が迫真の演技とともに踊りを見せてくださるなんて、なんて贅沢なのでしょうか。

「信長」はタイトルにもある通りルジマトフ演じるNOBUNAGAが主役だとは思いますが、ルジマトフに全く隠れることない岩田守弘さんと藤間蘭黄さんの強さを感じました。ルジマトフは最初から圧倒的な個性の強さと魅力で、NOBUNAGAというキャラクターの独自性とカリスマ性にぴったりでした。

岩田さんは最初は花道ではなく、客席で手を振りながら登場し、農民出身で親しみやすい秀吉というキャラクターを表していました。NOBUNAGAの部下ということで仕事を真似るように、NOBUNAGAの動きを真似るのですが、なんとも拙く、まだNOBUNAGAの域には達せていないことを表現しているように思いました。岩田さん、子供っぽさや若さの表現が本当に素晴らしかったです。

特筆すべきは藤間蘭黄さんですが、躍動感と生命力が爆発しているファルフ・ルジマトフと岩田守弘さんに対して、打ち震えるような強い怒りや誇りを感じさせてくレ、日本舞踊ってなんて力強いんだと感じました。そして所作が綺麗で、斎藤道三の打ちひしがれた様子や、明智光秀の執念などが静の動きの中でよく表現されており、見応えがありました。

カーテンコールはもちろん総立ちです。そして写真撮影OKだったので、3者が色々とポーズを決めてくれるというサービスっぷり。藤間さんがアップされたカーテンコールの映像を見れば迫力が伝わるはず!これだけ迫力ある舞台はなかなか無いので、ぜひ再演してほしいです(出来れば今のメンバーで!)

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