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バレエ感想「The 3rd Ballet Education」 田北志のぶ ガラコンサート
1年ぶりに亀有に来ました!
亀有といえばこの方が有名ですが、この日の目的はウクライナ国立バレエ団でリーディングソリストとして活躍された田北志のぶ先生の発表会です。今年は2つの発表会を見に行く予定で、その1つが今回の「Ballet Education」です。
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第1部「白鳥の湖」より第3幕
今回は細かい事前発表がなかったため、よく発表会で上演されるプティパ/イワノフ版「白鳥の湖」かなと思っていました。しかし幕が開くとすぐにナポリの踊りの森本亮介さんが登場し、軽快なジャンプで観客を惹きつけます。ナポリの後にはスペイン以外の各民族舞踊隊が出てくる構成となっており、これはまさかと思ったらやっぱりウクライナ国立バレエ団で上演されていたヴァレリー・コフトゥン版だーーーーーー😍😍😍
田北先生は去年もコフトゥン版をベースにした「くるみ割り人形」を上演されていましたが、今年も見られるとは…。懐かしいし、これはすごく嬉しい!!!!!!!
ウクライナ国立バレエ団では現在戦争の影響でチャイコフスキーの音楽を使った作品を上演出来ませんが、田北さんがこうして日本でコフトゥン版を上演することによって、ウクライナバレエの伝統は世界中に伝えられて行くのだと思いました。
ウクライナ国立バレエ団の来日公演は毎回見に行っていますが、特に白鳥の湖は以前レオニード・サラファーノフとオレシア・ノヴィコワが客演した回を最前列で見た思い出もあり、とにかく懐かしかったです。
舞台の感想ですが田北先生がどの生徒にもよく指導して、ウクライナのバージョンをきちんと伝えていることがよく伝わってきました。「Ballet Education」は趣味でバレエを習っている人だけでなく、バレエ団に所属しているプロもいるのですが、実力差を観客に感じさせないようよく考えられており、統一感がとれた舞台だと感じました。特に民族舞踊を踊るダンサー達の顔の向きや独特のアクセントなどは全て統一されており、これだけの技を伝授される田北先生の指導力は凄いなと改めて感じました。
また衣装の趣味も非常に良いです。昨年の「くるみ割り人形」でも落ち着いたペールトーンの衣装で統一感があって良かったのですが、今回もどの生徒にも似合う色合いをチョイスされており素敵でした。
おそらくですが、今回はウクライナ国立バレエ団で使われている色合いをベースにされたのかと思います。例えば王女様の衣装はゴールドトーンでしたし、スペインも赤と黒ベース、ハンガリーはエンジベース、ポーランドは今回薄い水色ベースでしたがウクライナで使われていた濃いめの青と色合いを合わせたのかなと思いました。ナポリはウクライナ版では左右で白黒と色違いのタイツを履いていますが、今回はゼンツァーノの花祭りのような白タイツの上に黒い丈の短いタイツを重ねるような衣装で、やはり色合いからコフトゥン版を連想させる衣装だったなと思いました。
「白鳥の湖」は第3幕のみ上演で、プログラムに田北さんの名前はありませんでしたが、なんと黒鳥のグランパドドゥや最後に王子が騙されたと分かるシーンで、後ろで悲しむ白鳥役として登場されました。そのオデットがあまりにも手足が長く、白鳥の羽ばたきが雄弁で美しく、ノークレジットだったということもあり私は最初ロシアのバレリーナの映像を流しているのかと思いました。しかし最後に再び登場するときに実在の人間が白鳥を演じていると分かり、あの美しさは絶対に田北さんだろうなと確信しました。
ちなみに第1部終了後に客席はオデットの話でザワザワしており、前の席の親子連れも「あの綺麗な白鳥は田北さんが踊っていたのかな?」と話題にしていたのでやはりみんな一瞬出てきた白鳥が綺麗だと思ったのでしょう。手足の長さ、動きの美しさ、出演は一瞬でしたがとても印象的でした。
さて田北さんの一瞬の登場が圧巻すぎて全てを持っていかれましたが他にも印象に残ったダンサーがいて、その1人が南江祐生さんです。
南江さんはポーランドの踊りで出演されていたのですが、民族舞踊に華やかなアクセントを添えていただけでなく、踊っていない時のお芝居も生き生きとされていて驚きました。もちろん立ち役のダンサーは全員お芝居をしているのですが、南江さんは特に良かったです。
具体的にいうとまず上半身の使い方が大きく、ポールドブラがとても優雅でした。ポーランドの民族舞踊を踊る時も首や手首をうまく使って強弱を付けるだけでなく、足の踏み鳴らしも力強くて踊りが立体的に見えると感じました。
また特筆すべきは立役としての振る舞いです。通常立ち役のダンサー達のお芝居は手を前にやって周りの人にアイコンタクトを送るような平凡なものが多いのですが、南江さんは手を前に動かすだけでなく横にも動かし、そして首も優雅に動かして、一切ボーッと突っ立つことがなく常に演技モードだったことが印象的でした。例えば普通のダンサーが1分間に1回は動いているとすれば、彼は30回は動いていたでしょう。そして彼自身がお芝居を常にしているだけでなく、彼のお芝居によって彼の周りのダンサー達も自然にお芝居に参加するようになり、周りのダンサーの芝居する力を引き出していると感じ、彼の周りは舞台が生き生きとしていたことがとても印象的でした。
そして印象に残ったダンサーのもう1人は森本亮介さんです。髪型が変わり笑顔も増え、とても綺麗だと思いました。
ちなみに休憩時間の話ですが、近くいたバレエに詳しそうなマダム達が「新国立劇場のソリストって凄いわよ。1年契約だけどね。」という発言をしていましたが、いやいやIT企業の高技能社員の単発契約じゃあるまいしその認識は…😅
補足すると日本のバレエ団の契約は1年更新が多いですが、基本的には定年までの契約更新が前提のはずです。1年契約なのは森本さんだけでなく、所属するダンサー全員です。ちなみにもっと細かいことを言うと現在の新国立劇場のダンサーはプリンシパルも含めて9月から7月末までの11ヶ月契約です。新国立劇場は海外のバレエ団のように固定給もあるため待遇はマシですが、日本のバレエ団の契約状況は一般社会では考えられないような劣悪なものも多いと聞きます。
第2部 バレエ・コンサート
第2部は田北先生の生徒さんによってヴァリエーションやパドドゥが披露されましたが、ここでも嬉しい演目が…😍
南江祐生さんが「くるみ割り人形」の雪のシーンのパドドゥを踊られたのですが、衣装の色合いや振り付けがコフトゥン版でした。南江さんのポールドブラが本当に美しかったです。
そして個人的にとても嬉しかったのは山本達史さんが出演されていたこと!
山本さんは新国立劇場バレエ団研修所出身、東京バレエ団や牧阿佐美バレヱ団に所属されていたダンサーです。実はかなり昔に山本さんの踊りを見たことがあって、当時は「感じが良くて関節が柔らかいダンサーだな」と思っていました。今回久々に山本さんを見たのですが、感じの良さは昔のままで、でも昔よりかなり鍛えられている印象を受けました。青い鳥のお相手ともきちんとコミュニケーションを取って踊られており、きっと相手のダンサーも踊りやすかったように思いました。
ゲストの森本亮介さんはタリスマンのグランパドドゥを踊られましたが、さすが新国のソリスト、サポートは素晴らしく、女性を高く上げるリフトでも変な力みを感じさせず、コーダでもきちんと相手を3回転回し切って次のポーズにスムーズにいれるなど、相手の女性をとても綺麗に見せていました。
ただ、バキバキに鍛えられた体と屈強な表情が、なんというか風神雷神…。以前どなたかが「硬派で頑強」と書かれていましたが、運慶快慶を思い出しました。
最後は田北志のぶ先生による「瀕死の白鳥」でしたが、水面を泳いでいるかのような浮遊感がありました。以前Youtubeで田北さんの瀕死の白鳥を見たことがあるのですが、ようやく実際の舞台で拝見することができました。
田北さんは日本でも有数のスタイルの持ち主で、手足を伸ばした時の華やかさがあり、最後にフィナーレで出演者全員が登場した際も突出して美しかったのでもっと踊って欲しいと思いました。特にフィナーレの力強いジュテがとても綺麗で、派手な動きはありませんでしたが彼女こそが真の実力者だと思いました。
ダンサーとして素晴らしいだけでなく、構成も良く、一人一人に合わせた選曲や見せ場が用意されていてとても楽しかったです。
Ballet Education当日は台風が接近しており、帰れなくなったら困るので悩みましたが、この舞台を見るために8月のきつい仕事を頑張ってきたので思い切って行きました。とても楽しかったので行って本当に良かったです😊
こぼれ話
余談ですが、田北先生の教え子である南江祐生さんの舞台は初めて見ましたが名前を聞いたことがあり、どこで知ったか調べたところ恩田陸さんの「spring」(筑摩書房)のパラパラ漫画のモデルになった人でした!
そして今回ゲスト出演された森本亮介さんはTBS「王様のブランチ」で「spring」特集が組まれた時のイメージ映像に出演されていた方です。偶然かもしれませんが、大好きな恩田陸さんの「spring」にゆかりのある2人が共演している姿を見れて嬉しかったです😆
ちなみに南江さんがモデルになった書籍のパラパラ漫画には同じく東京バレエ団の生方隆之介さんもモデルになっており、森本亮介さんが出演された「spring」のイメージ映像には森本さんと同じく新国立劇場バレエ団で活躍される森本晃介さんも出演されています。
南江祐生さん、森本亮介さんだけでなく、もし生方さんや晃介さんも今後共演される機会があれば、筑摩書房担当者や恩田陸さんだけでなく、springのファンの読者勢も沢山見に来るかもしれないなと思いました😊
恩田陸のバレエ長編『spring』本文のパラパラ漫画は東京バレエ団の生方隆之介さん&アスタナバレエの南江祐生さんの撮りおろし映像から作らせて頂きました。バレエ団の皆様、斎藤友佳理芸術監督、本当にどうもありがとうございます。最新公演情報は↓から!本物の舞台をぜひ。https://t.co/6xIAPjb2WH https://t.co/bpbVg5Bbpd
— 筑摩書房 編集部・企画部 (@ChikumaHenshubu) April 3, 2024