
バレエ感想「DANCE to the Future 2024」新国立劇場バレエ団 NBJ Choreographic Group
(2024年12月14日追記あり)
11/29, 30に新国立劇場バレエ団「DANCE to the Future 2024」を見に行きました。新国公式インスタにアップされた一瞬の練習映像を見てあまりの格の違いに驚愕しましたが、予想通り小㞍健太さん振付作品「プレリュード」の完成度は他を凌駕していました。

ダンサー達の出品作品

ダンサー達による出品作で1番好感が持てたのは橋本真央さんの『Afterglow』です。目先の評価を求めるような打算的な雰囲気を一切感じさせず、若い感性の瑞々しさを感じさせてくれて、見ていて気持ちが良かったです。
実は橋本さんについてはDttf開幕前からかなり注目していました。Dttfは振付家として参加しつつ、自らも踊る場所を求めるダンサーが大多数を占めます。毎回役がもらえる高ランクなダンサーならまだしも、まだコールドで普段あまり役がつかない彼女が振付に専念するとは覚悟を感じましたし、どんな作品を彼女が生み出すのか楽しみにしていました。
橋本さんの作品は全員ブルーの衣装を着用しており、ノイマイヤーやバランシン、ハンス・ファン・マネンの作品から着想を得ているような気もしましたが、パクリだとは感じませんでした。むしろ彼女の作品からは彼女が相当色々な舞台を見て勉強し、かなりの量のインプットを行っていること、偉大な振付家に対する畏敬の念を持っていることがよく伝わってきました。グループで連動して動く様子を見て小㞍健太さんのWSを思い出し、もしかしたらアドバイスを請うたのかなと想像させてくれました。東真帆さんや大木満里奈さんなどの実力者を随所に配置するなど、ダンサーの選択や彼女達をどう使うかも工夫していると感じました。
様々な舞台から着想を得てそれを振付という形で世に出せる人はそう多く無いと思います。橋本さんの作品からは周りの評価や名声よりも、一生懸命積み重ねてきた芸術性を踊りを通して表現したいという純粋さを感じました。ぜひこれからも沢山の作品を作っていって欲しいと思います
(2024年12月14日追記)
色々感動していましたが、ご出身のハンブルクバレエスクールの映像を見つけて何だか似てるなという印象…。まさか…まさかね…。私の勘違いだといいのですが。というか私の勘違いであって欲しい。

他にも西川慶さん振付の『Re』は体育大学舞踊科の課題作品のようにも見えましたが、写真家の西川さんらしくライティングにこだわった舞台で面白かったです。
赤い背景をバックに横からライトを投影したり、正面のライトから生み出される影の大きさを動きによって変えたり、ロダンの地獄の門で苦しむ人々を彷彿とさせてくれました。様々なライティングの変化はNDT出身の小㞍健太さんのアドバイスも取り入れたのかなと思いました。
短い音楽だったので消化不良感は残りましたが、様々な部分で西川さんの工夫を感じました。ぜひ引き続き新たな作品を生み出していって欲しいです。
そういえば1つだけ西川さんの作品で気になったことがあって、池田理沙子さんのズボンの丈が中途半端だったことです。他の4人はYUMIKOみたいな格好いいロングパンツのボディスーツだったのですが、池田さんは白いブラウスに茶色いズボンでした。既製品を使われたのかもしれませんがパンツの丈が中途半端で、一般人ならあの丈で問題ないのだと思いますが、池田さんはバレリーナなので一般人より足が細くて長いため、明らかに丈が足りてなかった気が…。
せっかくの細くて長い足が中途半端な丈のせいでなんだか短く見えてしまいもったいなかったです。もし足首を見せたいならもう少し足先に向かって細くなるテーパードやレギンスに近いものの方がラインが分断されず、池田さんの綺麗な足のラインがさらに美しく見えるかもなと思いました。美しい人は美しく見せてほしいものです😊
その他の出品作品は打算的で、内部の受けを狙ったものや、人気のあるダンサーを起用して絶対的な評価を高めようとするなど、作品を作ることよりも新国という組織の中で生きていくために周りから評価されることを優先した印象を受けました。もちろん、実際どうなのかは知りません。あくまでも彼らの作品を見た私の印象です。
小㞍健太さん振付『プレリュード』について

小㞍健太さん振付の『プレリュード』はさすがNDT出身という感じで照明使いの多彩さや衣装の美しさなど、観客を引き込み続ける工夫を随所に感じました。照明は月を模したり、夕焼けのような色合いになったり、最後は影を上手く映し出してストーリーに奥行きを持たせており視覚的な効果を感じました。ブレッヒャ・ヴァン・バレン(Bregje van Balen)さんによる衣装はアジア人の肌や体型に合っているだけでなく、照明の変化を反映しダンサー達を美しく見せていることが印象的でした。
『プレリュード』は2組のキャストによって踊られましたが、特に西一義さんと五月女遥さんがとても良かったです。2人のパートナリングはとても良く、小㞍健太さんが作り出す繊細な世界観がよく伝わってきました。
踊りを見ながら彼らがただ振付をこなすだけでなく、振付の先にある意図に応え、自分の体を通して形にしようと工夫していると感じました。最後の美しい仕掛けも2人がタイミングを合わせて散って行っており、名残惜しさを残してくれました。彼らは作品に真剣に向き合い、作品を自分のものにしておりダンサーとしての底力の高さを感じました。また機会があればぜひこの2人を見に行きたいです。
私は小㞍作品に対してはあっと驚くようなインパクトを期待していたので、正直にいうと『プレリュード』には2月に見た『幻灯』やNDTの舞台を見た時のような世界に切り込んでいくような強烈さは感じることができませんでした。
しかし音楽を視覚的に観客に届ける振付や、美しさや構成などよく考えられていて素晴らしい作品だと思いました。『プレリュード』を見て今回のDttfのチケットを購入して本当に良かったと心から感じました。
余談
Dttfの過去開催分を見たら作品を出品するダンサーが毎回ほぼ同じということに気がつきました。
批判を恐れているのか興味がないのかは知りませんが、これだけ同じ名前ばかり出てくるということは振付家として参加するダンサーが少ないのではと思います。少ないということは参加するだけでもまず組織内で評価されると思うので、もったいないなと…。何でみんなもっと出ないんだろうか…。
Dttfへの参加はダンサーのセカンドキャリアにも大きく関わってくる気がします。例えばDttfで沢山の振付作品を上演した貝川鐵夫さんの作品は先シーズン新国立劇場バレエ団によって全幕で上演されましたし、今シーズンは同じくDttf常連の福田圭吾さんの作品が予定されています。
バレエ界で今後生きていくならば振付師というのは大きな選択肢であり、Dttfに出品を続けたら自分の作品が新国で上演されるチャンスもあるのだろうなと思います。もっと沢山のダンサーが作品を出品するようになればキャリアの幅とチャンスが広がるような気がしました。ぜひ沢山の方に参加して色々な作品を見せてほしいです。