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ミライのキャリア#5 ラインとスタッフ
キャリアを働く組織から考える
【えりな】
今回は、ラインとスタッフの話です。ラインって、LINE、ですか?
【ホリデー】
スタッフは、「スタッフ〜!スタッフ〜!」のスタッフ?
【えりな】
ふるっ!!ふるっ!!!ホリデーさん、古い!
【ホリデー】
古い、ってわかるってことはえりなちゃんも知ってるんじゃんw
で、えーと、キャリアの中でのラインとスタッフ、うーん、全然想像つきません。かおる先生、教えてください!
【Caol】
ラインとスタッフとは組織の形の話。今日は、そんな「組織」についての話をしようと思います。
【ホリデー】
あ〜。組織。最近、組織について悩むこと多いです。うちは小さなデザイン事務所で社員も数名だけど、それでも組織って難しいなあ、って思います。
【えりな】
確かに!完全に一人で働いて仕事が完結することって珍しいですよね。
【Caol】
そうなんです。仕事をする上で、キャリアを考える上で、「組織」を考えることは避けて通れないんです。組織がどうなっているのか、という見方はいろいろあるのですが、今回はそのうちラインとスタッフという見方の話をします。
ラインとスタッフ
【えりな】
なるほど。で、ラインとスタッフってなんですか?
【Caol】
ラインとスタッフというのはフランス革命後の近代国家でできた組織の考え方。日本だと明治時代からの古い組織論、ということもできるが、いまだにこの仕組みでやっているところがあります。
【えりな】
ほほ〜、なるほど。組織の味方、という意味がやっとわかりました。
【Caol】
で、そのラインとスタッフ、の違いなんだけど。
ラインは業務を遂行する人で、上下関係があり、命令する人、される人という階層がある指揮系統のこと。ヒエラルキーというピラミッド形の階層構造があるものです。
スタッフは専門家としてラインの人をサポートするが、ラインの指揮権限はない人。あとスタッフ同士での上下関係はない。もともとは軍隊の言葉でスタッフは参謀、司令官の判断をサポートする役割。
【えりな】
上下関係がある方がラインで、平等なほうがスタッフ?って捉え方であってます??
【Caol】
軍隊だと、将軍の命令を聞く人、イコール兵隊がライン。将軍の判断を支える、例えば諸葛孔明のような人がスタッフ。
で、日本に限らず行政機関、官僚という組織は、働き方といい、役割といい軍隊そのもの。で、これから私が話すのは、法務省という極端にライン機能に偏った組織の話です。
【えりな】
おお〜〜。そういえば、国家公務員の世界って、知ってるようで知らない世界!【ホリデー】
いや、知らないようでいて、やっぱり知らない世界だよね!結局、知らない!楽しみ楽しみ。
【Caol】
そうなんですよ。私が居た法務省はガチガチのライン形の典型の組織です。軍のような組織体型、仕事のやり方をするところでした。
【えりな】
やっぱりそうなんですね!!
級と号
【Caol】
で、法務省に限らず全ての国家公務員には、級と号というランクがあります。級はライン上での階級を表すもの。1級からはじまり10級まであります。法務省の矯正局というところでは、課長級になるには、○級、部長級になるには○級、とか、刑務所などの施設長になるのは○級の人、という規定がある。戦艦の艦長になれるのは大佐、という軍隊の階級と全く一緒。
【ホリデー】
おおお、厳格なピラミッド組織。
【Caol】
で、級とはべつに、号、というものがあって、それは給料の額を規定するもの。1級の1号俸、と表現。数字が大きくなると年棒が上がる。
高校卒の試験で刑務官になった人などは、級は上がらないが、長く務めると、号が上がる。10級だと21号棒までだが、2級だと125号俸まである。刑務所などの組織では、ベテランで同じ刑務所に長く勤めている看守が仕事をよく知っている、ということがある。こういう人はライン上の階級は上がらないが、年俸で報いる、という制度になっている。級と号は俸級表というものに定められていて、人事院のページで誰でも見ることができます。
【えりな】
まずこのかおる先生が法務省の人だったという!かっこいいな~。なるほど。階級が下でも給料が上、ってこともありうるんですね。
【Caol】
そうです。で、級が上の者は下の者に命令ができる。級が一緒だったら「先任指揮権」といってさきにその職になったものが後からなった人に命令ができる、となっています。
【ホリデー】
指揮系統がかなり厳密なんですね!完全に軍隊だ〜!
民間企業でも課長なり部長なり、もちろんヒエラルキーはあるんだけど、厳密さが全然違う気がする。
【Caol】
そう。私がいた刑務所では所長不在の際には、5人いる部長にもランクがあって上位者がいないときに全体の指揮を執るのがだれか、という順番が決まっていました。
【ホリデー】
うわ〜。多分、僕、向いてない。
技官の仕事
【Caol】
で、私がやっていたのは技官という仕事。技官とは公務員のうち、専門性が高い技術を扱う職のこと。厚生労働省には医師の資格を持つ厚生労働技官、国土交通省には土木の専門家である技官がいます。私の名刺には「調査専門官(心理)」となっていました。この技官になるには、専門職での試験になり、法務専門職員、大学院修士終了の試験になります。
【ホリデー】
僕、広告代理店ではアートディレクターっていう特殊専門職だったんですが、そういうことですかね。
【Caol】
専門職になる入口が決まっている、という点ではそのとおり。国家公務員の専門職は高度な専門家で、受験資格も大学院修士などハードルがたかいんですよ。
でもね、技官ってね、いわゆるノンキャリアってやつなんです。官僚として出世しない、さっきの話だと級があんまりあがらない、というポジション。
【ホリデー】
ああ〜〜。なんか職人ってことですねw特殊スキル一筋で、人の上には立たない、的なw
【Caol】
そうそう、特殊スキルしか使わない人。
で、国家公務員総合職、昔の国家1種試験で入った人がキャリアという官僚として出世できて、事務次官になる可能性がある人。
実際には、入省してから高等科試験というものを受けてノンキャリアからキャリアにあるということもあるのだがややこしくなるので省略。ノンキャリアの専門職でも、スタッフとして必要、となると本省に転勤になって、ということもある。大半は技官が必要な施設、法務省矯正局だと、鑑別所とか刑務所に勤務することになります。
【ホリデー】
なんか、あれだ。踊る大捜査線、みたいな話になってきましたね!青島と、室井さんみたいなやつだ!
【えりな】
とりあえずすごいということはわかりました。なになに省ごとに専門家がいるんですね!その法務省の心理の専門家だったわけだ。
【Caol】
そうです。法務省の矯正局というところが管理運営しているのが刑務所で、刑務所の調査専門官というのは、刑が確定した受刑者を調べてどこの刑務所に送るか、刑務所で何をさせるか、あと、社会復帰の可能性などを査定する仕事。
【ホリデー】
なんとなくは知ってたけど、改めてそう話されると、すごい仕事だよね!!
刑務所の法務技官
【Caol】
刑務所では、国家権力を行使している、という実感はバリバリにあって、当時の私は大学院を修了して数年の20歳代、なのに、調査のためなら県警の警部で、私より年上のベテランデカをいつでも呼び出せるし、電話ですけど。で、担当する受刑者は私の一存でどこにでも送れる。
【ホリデー】
か、かっこええ。
【Caol】
もちろん個人の判断だけで暴走しないように、法務省では「根拠」と言う言葉がしょっちゅう出てきました。これはエビデンスという意味ではなく、判断や指示の根拠となる法律を示せ、という意味。ここでの法律というのは、六法全書に書いてある法律だけでなく、法務省の省令や矯正局長の指示なども含みます。こういう根拠が書いてあるのが赤六法という法務省内部で使う仕事用の六法全書と、キングジムのファイルにとじられた指示の文書。
【えりな】
もう、全て頭が良さそう。
省庁の会議=シン・ゴジラ
【Caol】
シンゴジラという映画の会議のシーンで出てきた青いファイルがそう。
【ホリデー】
あああ〜〜!!もうめっちゃわかりました!あの世界かあ。観る分には面白いんだけど、中にいると大変そう。
【Caol】
会議だと統括(係長に当たる人)や首席(課長に当たる人)に「その判断の根拠は?」と聞かれて、「分類級規定の6の5の2『反社会組織の構成員でない場合』の判定基準です(この省令は架空です)」と何も見ないですぐに答えられなければいけない。さすがに聞かれそうな根拠は会議前にメモ作りましたけどね。
【Caol】
なんでこんな話をしているかというと、ディティールに仕事の本質が現れるだろう、と思うからです。法務技官のうち、心理調査専門官の仕事というのは、心理調査の専門家で、専門性も高い仕事ですが、行政の人として、細かい法律の話とか、あと作成した文書は全て公文書となるので、文字の全角半角とかインテンドの幅とか全てチェックされるよ。といった専門とは無縁に思える細かいことに気を遣う仕事ですね。
【えりな】
うんうん、ぶっちゃけ固くて根拠が必要で発言は文書になって細かくて…ってイメージ通り。ここからこの仕事の本質が見えるんですね。
律令制から変わらない官僚と公文書
【Caol】
余談だけど、奈良時代の律令制の本を読んでいたら、このころと現代の官僚、だいぶ似ているんですよね。官僚に従三位、とか正五位下、とか位により職位が決まっていて正一位じゃないと太政大臣になれない、とか。文書がすべて国家の命令だからほんとにこまかい言い回しにこだわるとか、ある意味1400年以上変わっていないかもしれない。
【ホリデー】
もう、絶対に僕には、一ミリも無理な世界だ。ライン組織、無理。かおる先生はそれ、得意だったんですね。
【Caol】
いや、できるからやっていたけど、やっていてちっとも面白くないし、得意とも思えなかったので、トータル2年で辞めましたね。フルタイムのポジションでは。【ホリデーえりな】
ぎゃはははははは〜〜!
8つのキャリアアンカーから見た法務技官と法務省総合職
【Caol】
キャリアの話をするポッドキャストなので、8つのキャリアアンカーの視点から、法務技官と法務省の総合職の仕事を評価してみるよ。
【えりな】
特定専門分野・機能別能力
【Caol】
技官だとある。総合職だと特定の専門、とはならない。
【えりな】
一般管理能力
【Caol】
総合職で級が上がると管理職となる、のでこっちにはある。
【えりな】
自立・独立
【Caol】
ほとんどない。
【えりな】
保障・安定
【Caol】
これはとてもある。
【えりな】
起業家的創造性
【Caol】
まったくない。
【えりな】
純粋な挑戦
【Caol】
ほとんど、あるいはまったくない。
【えりな】
奉仕・社会献身
【Caol】
直接感じることは少ないが、とてもあるはず。ただ医療や介護などの仕事のようにクライアントに直接感謝される、ということはまったくない。働く人の想像力次第。
【えりな】
生活様式
【Caol】
ワークライフバランスというのはいまひとつない。刑務所などの勤務になると非常招集と言って緊急事態の時にいつでもどこからでも招集されて仕事をしなければならない。あと、公安というポジションになるので、4時間以上の外出には上司の決裁が必要で、海外旅行には施設長の許可が必要、とだいぶ私生活に制約があります。
ので、「奉仕・社会献身」について「誰にも感謝されないが私は日本の治安と安全を守っている」という想像力と使命感がなければつづけるのが難しい仕事ですね。
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