とりあえずCanvaで!が可能にする甲府市教育委員会の『新しい学びをつくる。』とは?
こんにちは、Canvaの涼夏です。遠くに富士を眺め、ブドウや桃など自然が豊かな町。約20万人が暮らし、36校もの小中学校がある甲府市で、「新しい学び」を推進されている1人の先生がいます。
甲府市教育委員会で現場の学びを助ける仕事をしている山主先生は、2022年6月にわずか一週間で甲府市の全12,000端末にCanva for Educationを導入されました。
Canvaを使った教育にどのような価値を見出されているのか、どうやって周りを動かし、史上最短で甲府市全ICT端末にCanvaを導入することができたのか、先生の教育観と導入の舞台裏を伺いました。
きっかけ
ーーCanvaを知ったきっかけを教えてください!
甲府市ではGoogle Workspace for EducationとChromebookを利用しています。児童生徒は11,000人、教職員は約1,000人おります。
また、「新たな時代の『まなび』を創り、子どもの未来を拓くまち。」をGIGAスクールの基本推進目標として取り組んでいるところです。
現在、GIGAスクール2年目で、今までアナログで取り組んでいたものを、デジタルの力で支え、両方のいいところを使っていこう、という取り組み、いわゆる「ベストミックスの教育」を目指しています。
その甲府市の目指す「新しい学び」のための使い方やソフトウェアを探していたところでした。
先ほどもお伝えしたように、本市ではGoogle for Educationを利用しています。私自身もGoogle認定トレーナーやGoogle認定イノベーターなどの資格を持っていることもあり、多くのGIGAスクール構想に関わる活動を行う中、学校や自治体で中心となる先生方にお会いする機会がこれまでありました。
その中で、何度か「”きゃんば”が良いですね」「”キャンバ”は使いやすい」「”キャンバ”は日本語の縦書きができる。」などの情報をいただくことがありました。
そのときは、Canvaがなんであるかも知らなかったので、人の話題を聞けば聞くほど、興味を持ちました。
ーー初めてCanvaを使ってみた時の感想を教えてください!
最初は自分の個人アカウントで利用したところ、すぐに使い方を理解できました。
私は、中学校で技術科の教員をしておりましたので、多くのプレゼンテーションソフトといわれるものを利用してきました。Microsoftパワーポイント、Googleスライド、はっぴょう名人、Preziも使ったことがあります。
どれも素晴らしいソフトなのですが、どうしても授業で利用する場合には、「想像以上に制作時間がかかる」ということです。
児童生徒も、自分の作品に凝りたいあまりに、文字の大きさ、色、場所、絵、写真・・・魅力的な1ページを創るには1時間では時間が全く足りないのです。
「そんなものなのかな。」と私も教えながら思ってしまっていた部分はありました。
その中で、Canvaは「とりあえず形にする」のに適したツールだと思いました。豊富なテンプレートと素材を利用できるので、あっという間に完成してしまいます。
とりあえず形にできるというのはとても価値があると感じています。
美しさや芸術性の完成度を求めるのであれば、それは美術科という教科になります。
美術としての美しさというのは、それはそれで絵を描いたり、タッチペンを使ったりして絵を描けば表現は可能と思います。こうした目的のためにはもっと優秀なソフトウェアがあると思います。
一方で、今Canvaを使ってやっていることというのは、周りの人に対してメッセージ性があるものを制作する、つまりコミュニケーションツールとして作品を作っていく、ということではないかと思います。
山主先生が考えるCanvaの教育価値
ーー制作時間を短縮できると、子供たちにとってどんな教育的価値が生まれるのでしょうか?
制作することに時間をかけるのではなくて、制作後にそれをどのように活用するのかということに、先生たちは集中することができるようになります。
制作して終わりではなく、それを、相手ががどう感じ取ったり、自分がどういう思いで作ったのかということを伝え合う力がすごく重要だと思います。
子ども達は大人になった時に様々な職種に就きますが、誰かと協力したりコミュニケーションを取ることで、仕事が順調に行われることが多いですよね。これからの未来社会は、あらゆる国々の様々な価値観を持った人たちとコミュニケーションをとって、社会や文化を支える時が必ずやってきます。
「僕こんなの作ったんです、こんな想いで作ったんです」
「すごい効果的で目を引くと思うよ」「挿絵がすごく上手だったよ」
こんなやりとりを通じて人とコミュニケーションを取れるようになっていくというのは、とても価値のある学びだと思います。
教育現場という限られた時間と環境の中で、いかに効率良くこの学びの機会を作っていくかという点はポイントです。
そういう意味で、Canvaには大きな可能性を感じます。
娘とCanvaを使ってみたら
ーーご家庭でもCanvaを使われたお子さんとのエピソードもあるそうですね。
ちょっとした、個人的なエピソードですが、私には小学校5年生の娘がおります。
妻が買い物に行っている間に、娘と二人で留守番をしておりました。せっかくだから、ノートパソコンを2台並べて、娘にCanvaの使い方の説明をして作品を創らせてみようと考えました。
テーマを決めて、「母親への感謝のメッセージカードを制限時間は10分でつくろう」と始めたのですが、5分くらいで二人とも完成することができました。
比べてみると娘の方がメッセージカードのできが良かったのにはショックでした。
年齢や経験はさほど必要ではなく、ひらめきやアイディアが発揮される。
そんなCanvaの可能性を感じることができる出来事でした。
情報活用能力の育成がつまっているといいますか、アイディアの具現化が速いというか、子ども達のひらめきをすぐに形にできるソフトなのかなと思いました。そのためのテンプレートや素材が潤沢にあることが、最大の魅力なのかなと思います。他のプレゼンソフトウェアのように、素材を探すためにアプリ内やネット内をさまよう必要が全くありません。
ーー教育現場でCanvaを使ってみた時のことを教えてください!
現在は、教育委員会に指導主事として勤務しておりますので、授業でCanvaを使ったことはありませんが、多くの先生にCanvaの良さや利便性を伝えて、普及する活動を行っていくところです。
6月に全12,000端末への導入が完了したばかりですが、教師や児童生徒のChromebookからすぐに利用開始できるので、着々と利用者が増えています。
「Canvaで〇〇創ってみました!クラスも盛り上がりました!」という話を聞くことは嬉しいです。
また、先生同士でも情報の共有がされています。GEG KofuのSlackグループでもCanvaの活用事例が上がっていました。
市内のある小学校の授業では、特にテーマを設けずに、「まずCanvaを試してみよう!」として使ってみたところ、熱中症予防のポスターや、環境係さんからの呼びかけポスター、自分の一学期の読書記録などが出来上がってきました。
発表も込みで1時間の授業内で収めることができ、かなりの人数が使えていました。他のアプリだともっと時間がかかったと思います。
「表現の手段が1つ増えました♪」と担当の先生が共有してくれました。
Canva導入の舞台裏
ーー甲府市教育委員会への導入の経緯を教えてください!
甲府市ではGIGAスクール構想のビジョンのもと、現場の声にきちんと耳を傾けるため、各学校の校長先生や教諭の先生方にGIGAスクールに関するアンケートを定期的に実施しています。
先生方にGIGAスクールの甲府市の取組で「満足できる点」「課題となる点」という項目を回答していただくのですが、アンケートの「課題となる点」の回答においては「回線スピード」などの他に「利用できるソフトウェアの種類や数が課題」という回答をたくさんいただいております。
また、「授業で活用したい。でも、良いソフトウェアがないんだよな。」と感じている先生がいることも、現場の現状として知ることができました。
どこの自治体も、高額なソフトウェアをすぐに購入・導入することはできません。そのため、教育現場で無料で活用できるソフトウェアを探すことになります。
こうした背景があり、「ICT活用を推進でき・無料であり・自治体一括で導入できる」というのが主なポイントとなり、Canvaの導入を検討し決定しました。
学校ごとに導入ではなく、自治体一括で導入というのははじめから大切にしていました。ソフトウェア環境は平等に同一として、甲府市内の児童生徒や先生方の利便性を図るためです。
また、甲府市では小学校1年生より、中学校3年生まで同一のGoogleアカウントを利用しますので、小学校で制作したCanvaの作品はずっと保存されるメリットがあります。
ーー甲府市に導入するにあたり、大変だったことはありますか?
教育委員会で導入する場合は、自治体のソフトウェアの取り扱いや個人情報に関わるセキュリティポリシーなど乗り越えなければいけない課題は当然ながら存在します。
ただし、まずは「このソフトウェアを利用したい!」という強い誰かの思いは、伝えて集約していくことが必要です。甲府市の場合は、必要とする声を二段階で伝えたことで、環境や現状を変えていくことができたと考えています。
まず一つ目の声は、先生方からのアンケートの回答です。「利用できるソフトウェアが欲しい」という現場の先生からの声が検討を進める力になりました。
二つ目ですが、私が導入担当だったのですが、熱意を持ってCanvaの魅力を関係各所に説明していきました。具体的には、まずは甲府市教育委員会内での確認と意思決定を行い、甲府市のICT活用推進委員会という委員会でも確認を行いました。
Canvaは使い勝手については申し分ありません。そして、教育機関で利用する場合に無料であることも大きなメリットでした。自治体の中で、利用する選択肢が広がることは、必ず一人一台端末の利用率の向上につながります。
今回実は、いくつかのソフトウェアを同様に導入しました。甲府市では、従来よりGoogle Workspace for Educationを、Chromebookで利用できるようになっていましたが、今回Microsoft Office365 A1も導入し、GoogleとMicrosoftが両方利用できる環境にも致しました。また、Canvaのみ一択の選択肢ではなく、Adobe Creative Cloud Expressも利用できる環境を用意しています。
先生達は自分の使ってみたいソフトウェアを自由に選択して利用することができます。そのような中であっても、Canvaにしかできない魅力を発見して、利用している先生が多くなっている現状です。
ーー意思決定後、申請から1週間で設定完了という速さでしたが、SSO設定作業はどうでしたか?
今回は、いくつかのソフトウェアの導入設定を、自分達で行いました。
同時期にAdobeもMicrosoftも作業をしましたが、Canvaは外部の委託業者とのやりとりや現場での作業もなく、日本語化されたガイド通りに進めた結果、障害もなく一番楽に設定完了まで進むことができました。
夏前に生徒11,000人、先生約1,000人の端末に導入ができており、新しいソフトウェアが入ったことを発見した人たちが続々と使い始めています。今後は、学校に使い方のお知らせを伝えれば、更に浸透し始めるでしょう。
難点は、使い方を紹介するための1ペーパー資料があったらいいなと思うところです。Canvaには利用方法の動画はありますが、自治体ベースですと、配付するための1ペーパーがあると非常に助かります。
これから
ーーこれからやってみたいことを教えてください!
既に学校の先生から、「学年でCanvaの掲示物コンテスト」などの計画を聞いています。12,000人の、想像力や創作力を引き出すことができれば、甲府市の学びも大きく変化するでしょう。Canvaを利用した新しい児童生徒のコミュニケーションが実現できると期待しております。それはまさに甲府市の「新しい学びをつくる。」につながります。
学校内には、たくさんの掲示物があります。それらが、子ども達のアイディアで今以上に活性化されることは素晴らしいことです。
コロナ禍において、学校現場では多くの我慢を強いられました。逆に、多くの新しい取り組みや、オンラインを利用したつながりや交流を行うこともできました。
学年や学校だけではなく、学校を越えた取り組みや交流もできる可能性を、Canvaは秘めているので、多くの先生方とアイディアを実現させていきたいと考えています。
でも、つい大人の考えになってしまっているので、企画のアイディアから子供たちに出してもらうのも良いかもしれないですね。
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山主先生、貴重なお時間をいただきありがとうございました!
Canva for EducationやCanva教育者グループについては、下記のサイトをご覧ください。
その他、Canvaの教育活用に関する記事はマガジンにまとめています。