「No.24」「柔らかな衣紋線」雪舟の《慧可断臂図》
こんにちは!かずさです!
先週末に法事がありました。法事のときって、住職さんが何かしらお話し(スピーチ?)をしてくれますが、その寺の方はいつも決まって寺の開山の話をしています。
仏教の説話(開山の話は説話ではありませんが…)は、あまりなじみが無いので毎度同じ話と分かっていても、ちょっと興味深いと思ってしまいます。
今日は、仏教に関係するお話がテーマとなっている作品を紹介します。
作品紹介
今回の作品は、雪舟の《慧可断臂図》(えかだんぴず)です。
紙本墨画淡彩 H199.9㎝×W113.6㎝ 室町時代(1496年) 京都国立博物館蔵
画面の多くは墨で描かれていますが、人物の肌や服に色が塗られています。
岩肌は写実というより、デザイン的な部分がありますが、墨一色で描かれていることで、ごつごつした感じや薄暗く冷たい感触が伝わってきます。
この作品の中の2人の人物は、壁に向かっている方が「達磨」で、手前に描かれている方が「慧可」です。
慧可の左手、何か違和感があると思いませんか?実は右手で、切断した左手を持っている場面なのです。
達磨と慧可
達磨と聞くと、選挙で勝ったときに政治家が目を入れている場面やおめでたい飾りものというイメージが浮かぶかもしれません。
この飾りものは、6世紀頃にいたとされる禅宗の初祖をモチーフにしています。
「達磨大師」はインドで生まれ、中国に禅宗を広めた僧で、南朝梁の武帝との問答や少林寺での壁観のエピソードで知られています。
月岡芳年 《月百姿》より「破窓月」明治20年(1887年)
達磨の置物に手足が無いのは、壁に向かって9年間坐禅をしている内に手足が腐り無くなってしまったというエピソードに由来するものです。
慧可は達磨の弟子と伝えられる人物で、達磨に教えを請いたいと思い、彼のもとを訪れました。しかし、初め許されませんでした。そこで自らの左腕を切り落とし、自分の決意を伝えたところ、入門を許されたというエピソードが伝わっています。
師匠にしても弟子にしても、聞いているだけでぞわっとくるような話ですが、これらの話は「禅機」といって「無我の境地から宗旨を体得しえたものの心の働き」という説話だそうです。
実際にあったかも(?)しれませんが、達磨や慧可のエピソードは「無我の境地」を象徴的に表したものかもしれませんね。
柔らかな衣紋線
そういえば、人物の表情や岩肌はとても細かく描かれているのに、着物のしわは一気に描いたかのようにサラっと描かれています。
この作品の作者、雪舟(1420-1506)は教科書でも重要人物の1人として挙げられています。歴史の教科書ではありませんが、幼い雪舟が涙でネズミの絵を描いた話が載っている教科書がありました。
雪舟は、幼い頃に出家し、相国寺で周文に絵を習いました。(周文は幕府の御用絵師にもなった人物です。)
成長した雪舟は大内氏の山口に画房を持ち、1467年に大内氏の勘合船に乗せてもらい明へ2年ほど行きました。この際、中国の雄大な自然や、宋や元の時代の作品に触れる機会をもったことが、その後の彼の画風に大きく影響しました。
雪舟の画風は、宋元明の時代のもの、特に南宋の夏珪、梁楷や北宋の李唐など、更に玉潤の破墨などが目立つとされています。
今回の《慧可断臂図》の衣紋線(服のしわ)の表現は、梁楷の「減筆体」の影響が見られます。
梁楷 《李白吟行図》 南宋時代・13世紀 紙本墨画 81.1×30.5 1幅 東京国立博物館蔵
「減筆体」とは読んで字のごとく、描く線の数を減らした画法です。上の《李白吟行図》の着物の表現でよく分かりますが、とてもシンプルに描かれていますよね。何度も塗り重ねたり、輪郭を描くことなく着物の布の質感を表現しています。
減筆体は唐代くらいまで遡ることが出来るので、梁楷オリジナルというわけでは無いのですが、彼は減筆体をより洗練したものにしたことで知られています。
《慧可断臂図》では、達磨の着物の衣紋線に顕著です。達磨の体をすっぽりと覆い隠す布は簡潔に描かれています。
(月岡芳年の達磨の着物の表現と比べてみるともっと分かりやすいかもしれません)
薄暗い岩陰で慧可の決意を表す場面はとても緊迫したものなのに、柔らかな衣紋線があることで、緩急がある画面になっています。もし、着物まで細かく描かれていたら、顔の描写がクローズアップされにくくなってしまったかもしれません。
今回は雪舟の作品を取り上げてみましたが、いかがでしたでしょうか?先人の様々な画法の良い部分を組み合わせて画面を構成していくところは、雪舟のただ天才なだけではない、努力家な面も垣間見えそうですよね。
京都国立博物館も東京国立博物館も6月から開館するそうなので、ぜひ今回紹介した雪舟と梁楷の作品を見に行ってみてください!
次回は、ヨーロッパのアートを紹介します(o^―^o)
画像は全てパブリック・ドメインのものを使用しています。
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今回参考にした本、おすすめの本を紹介します!ぜひ、おうち時間に読んでみてください!
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