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「No.13」「意外なところに○○?」中央アジアのギリシア

こんにちは!かずさです!

前回、オウィディウスの『変身物語』をテーマにしたベラスケスの《アラクネの寓話》を紹介したのですが、見ていただけたでしょうか?

(まだの方はぜひ見てくださいね!)

今日は、前回に引き続きギリシア神話をテーマを見ていきたいのですが、その作品はちょっと意外な(?)ところから発見されたものです!

(今回資料の都合上あまりカラー写真がありません(;'∀')あと、トップの画像はタジキスタンではないです…)

作品紹介

今回の作品は、タジキスタン共和国、タフティ・サンギンのオクス神殿から発見された《マルシアス小像》です。

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H68㎜ BC2世紀 タジキスタン タフティ・サンギン オクス神殿出土

まず、私も含めて「タジキスタン??どこ??」となるかもしれないので、地図を載せておきます。

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外務省HPより引用

オレンジで塗られているところがタジキスタンです。中国のお隣なんですね。タフティ・サンギン遺跡はアフガニスタンとの国境付近アムダリヤ川の近くにあります。

今日の作品の《マルシアス小像…。選んでおいてあれなのですが、あまり可愛いとか綺麗とかそういうものではないですよね。ビール腹の禿げたオッサンが(しかも裸)、2本の縦笛を同時に吹いている…、ちょっと反応に困るやつです。

この表現にはまた『変身物語』が関わってくるのですが、ひとまず「なぜタジキスタンでギリシア神話が出てくるのか」について簡単にお話しします!


グレコ・バクトリア!

タフティ・サンギン遺跡が造られる前の紀元前4世紀、現在のタジキスタンがある地域にアレクサンドロス大王がやって来ました。

世界史の最初の方に出てくるアレクサンドロス大王の大遠征です。アレクサンドロスは、都市などを制圧すると連れて来た兵士と現地人を結婚させたり、戦えなくなった兵士を都市に残したりしていました。

その結果、ギリシア的な都市の造り方(劇場造ったり、アゴラを造ったりなど…)や神話などの文化が各地に広まり、各地の文化と融合したものになりました。これらをざっくりヘレニズム文化と呼んでいます。

そんな中で、タジキスタン周辺にもヘレニズムの波が押し寄せました。アレクサンドロスが亡くなった後、セレウコス朝の一部となったのですが、あれやこれやがあり、紀元前3世紀の中頃に「グレコ・バクトリア王国」が出来ます。この王国はカザフスタン、アフガニスタン、タジキスタンにまたがる地域にありました。

ギリシア人と現地のバクトリア人の割合は都市によって異なるのですが、タフティ・サンギン遺跡にはバクトリア人が多く住んでいたそうです。《マルシアス小像》が見つかったオクス神殿はアレクサンドロス遠征以前からあるアケメネス朝的な建築にギリシアの文化が融合した、極めてヘレニズム的な建物でした。

祀られている「オクス」というのは遺跡のすぐ近くを流れる川、アムダリヤ川の神の名前です。そんな神の神殿になぜギリシアの「マルシアス」というおじさんがいるのか…。それが、今日の「物語」です!


オクス神とマルシアス

マルシアスの物語は『変身物語』の第6巻に登場します。

「ある時、女神アテナはアウロスという双笛を発明します。それを他の神々の前で披露したところ、笛を吹くと頬が膨れて醜く見えるという(訳の分からない理由で)笑われてしまいました。

アテナはそれが嫌になって笛を捨ててしまいます。それを拾ったのがマルシアスというサテュロスの1人の獣神でした。マルシアスはその笛を練習し、そのうちに物凄く巧みに演奏するようになります。

そんなマルシアスの噂は、音楽の神でもあるアポロンの耳にも入り、2人は笛と竪琴でどちらが素晴らしい演奏が出来るか勝負をします。結果、マルシアスは負けてしまい、アポロンによって皮膚をはがされてしまいます。

マルシアスから流れた血は、フリュギア(現在のトルコの1部)で一番清らかな川になりましたとさ。おしまい。」

………、昨日の話と凄く似ています。殺されているし、清らか川になっても何の救いもありません。(実は昨日のアラクネも第6巻に入っています)

アウロスという笛は、どんな笛かはちょっと分かりにくいのですが、フィレンツェの考古学博物館で似たようなものを見つけてきました。

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笛を2本同時に口でくわえて、紐を頭の後ろで縛り固定するそうです。

また、先ほど話に救いが無いと言いましたが、実は「救いがある」ということになっています。

アポロンに皮をはがれたマルシアスですが、これは「皮をはがされたことで、中にある真実の自分になることが出来た」ということになるそうです。(ダンテも『神曲』の中でそんなことを言っています。)

ちょっとドM過ぎないかとも思いますが、「一皮むける」的なことなのでしょう…。

少々脱線しましたが、上の『変身物語』の結末でも分かるように、マルシアスは川と関係がある獣神でした。大体おじいさんの姿で表されます。

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マルシアス像 2世紀頃 イタリア ウフィツィ美術館蔵

縛られたりして何とも頼りなさげですが、ちゃんと信仰もされていました。アレクサンドロス大王が連れて来た兵士の中にイオニア人という人たちがいて、その人たちの中にバクトリアのオクス神とマルシアスを同一視する考えがあったようで、その考え方かグレコ・バクトリアにも定着したそうです。

さらに、この《マルシアス小像》には下の画像のように台座があるのですが、そこには銘文があり、オクス神に捧げられた像であることが分かっています。

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現地の神と外から入って来た神話が合わさって新しい信仰になっていくことは、世界中各地に見られることです。しかし、この7㎝程度の小さな像にギリシアの伝統、バクトリアの伝統といった様々な物語が詰まっているところを見るととても感慨深い気持ちになります…。

今回は、アジアのギリシア神話というテーマで作品を見てきたのですが、いかがでしたでしょうか?

タフティ・サンギン遺跡の治安はちょっと分からなかったのですが、タジキスタンへは事前のビザ申請があれば観光に行けるそうなので、コロナが終息したら、次の旅行先の候補にぜひ入れてくださいね!

次回は、ヨーロッパのアートを紹介します(o^―^o)


画像はフリー画像、加藤九祚『シルクロードの古代都市』、外務省HPからの引用と自身で撮影したものを使用しています。

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今回参考にした本、おすすめの本を紹介します!ぜひ、おうち時間に読んでみてください!




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