
サイエンスコミュニケーターとステークホルダー
ステークホルダーとは、利害関係者のことである。これは、お金の関係がある者だけではなく、その活動に関係する全ての人である。私は科学館で、サイエンスショーを行っている。サイエンスショーを行う上でのステークホルダーは、お客様、科学館の職員、ボランティアなど、様々である。この記事では、お客様とデモンストレーター(サイエンスショーを行うサイエンスコミュニケーター)の立場の違いと、連携の必要性について述べる。
第1に、「見る・見られる」という立場の違いがある。お客様は、サイエンスショーを見ている。デモンストレーターは、見られている。サイエンスショーは、写真、動画、本などとは違い、生モノである。つまり、内容や大枠のストーリーは同じでも、詳細なセリフや例として示すものは、お客様の年齢や知識に合わせ、その回ごとに異なり、毎回作るものである。しかし、お客様とデモンストレーターは、初対面で、お互いにどんな人物なのか知らない。ショーの中で、デモンストレーターの問いにお客様が答えたり、お客様の問いにデモンストレーターが答えたり、双方向のコミュニケーションをすることで、互いのことを知っていく。コミュニケーションという、お互いの協力や、連携があって、サイエンスショーは完成する。
第2に、「知らない・知っている」という立場の違いがある。お客様が持っている科学的な知識は人それぞれである。例えば、どんな実験をすればどんな結果になるのかについて、知らない、知っている、知っているが忘れているなどである。実験の結果を知っている人であっても、その実験を実際に見るのは初めてであったり、説明の仕方に興味があったりするなど、多くのお客様は、何か知らないことを知りたいという期待を持っている。その一方で、デモンストレーターは、実験の結果を知っている。背景となる科学的な知識、社会にどう応用されているのかなどは予習済みで、知っている。お客様から、何でも知っていると思われることも多い。しかし、この知らない・知っているという立場は、逆になることがある。専門的に学んだお客様であれば、デモンストレーターより知識がある場合があるし、デモンストレーターとは異なった生活環境にいるお客様であれば、社会への応用についてより多くのことを知っている場合がある。サイエンスショーは、各々の知っていることを共有することで、お客様、デモンストレーターという立場を超え、全ての人の学びの場となる。
サイエンスコミュニケーションにおける対話や協力関係の構築には、双方向のはらたきかけ、連携が必要である。上述した2点以外にも、お客様とデモンストレーターには、立場の違いがあるが、連携が必要である。また、他のステークホルダーとの連携も必要である。相手の立場、自分の立場を理解し、円滑なコミュニケーションを行なっていきたいと思う。