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コンテンポラリーアート、現代写真の研究者たちによる若手作家の作品、展覧会を紹介するレビューマガジンです。※執筆者随時募集 執筆者/ ・斉藤勉 京都芸術大学 大学院修士課程卒(M…
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#広島市立大学

広島市立大学の山本樹の展示

広島市立大学の卒展。山本樹さんによる展示は、ファッションを通じた自己表現と価値選択の問題を取り上げた2作品(各194×97cm)で構成されていた。両作品は、現代社会における「選ぶこと」の意味と、その背後にある価値判断の複雑さを問いかけている。 左側の作品《Ready to Wear》は、白いTシャツと破れたジーンズというシンプルな装いをした女性の肖像画である。スタイリングのアクセントとしてのネックレスは、最小限の装飾による個性の表出を象徴している。黒のグラデーション背景は、

広島市立大学の安達響の展示

広島市立大学の卒展で提示されていた安達響さんの展示は素材との対話という本質的な要素を、きわめて独創的な方法で提示していた。展示空間に足を踏み入れると、まず目に入るのは床一面に敷き詰められた大理石の粉末だ。その白い地平から立ち上がる三点の彫刻作品は、それぞれ人骨の断片(頭蓋骨、手、背骨)から立ち上がる波のような形、波動の中から魚やタコを見出すことができる。浮かび上がるような海洋生物(魚、タコ)のモチーフが波と融合した姿を見せる。死を想起させる人骨であるが、立ち上がる波動から現れ

《Angel Dust -骨まで溶けるような熱いキスをして-》伊藤大寛

広島市立大学の卒展を見に来るのは二回目だ。大学に来るのは三度目だろうか。バスに乗って長いトンネルを抜けると広大なキャンパスが見える。芸術学部の他に情報科と国際科の学部を持つ。 伊藤大寛さんの《Angel Dust -骨まで溶けるような熱いキスをして-》は、その存在感が際立っていた。 2メートルを超える巨大な彫刻は、その圧倒的な存在感で見る者を威圧するのではなく、むしろ繊細な感情の機微を表現しようとしている。それは作品全体を覆う表面の鱗のような反復的なパターンが感情の波紋が

《君ありて幸せ》, 川口紅葉

広島市立大学はコンパクトに卒業・修了制作展を見ることができる。やや迷路のようであるが、友人が案内してくれたので助かった。 川口紅葉さんの《君ありて幸せ》が展示されているアトリエスペースに入ると、土の匂いがした。土を作品に用いていることがすぐに分かった。 本物の土を使っているようだが、花は一目で造花と分かる。そこに赤い点が見え、奥の方は白い花が赤に染まっている。 この造花はゼラニウムであり、白のゼラニウムの花言葉は「あなたの愛を信じない」という。そこに、てんとう虫が集まり

《足らぬが良し》, 安村日菜子

初めて見に行く広島市立大学の卒業・修了制作展、現代表現研究領域の安村日菜子さんの作品はインスタレーションだった。 白い展示台にいくつかの立体作品が並べられている。その立体作品が置かれている台の近くに鉛筆で立体物に対する説明が書かれている。当初はルアーに目が行ったが、これらは全て漂着ゴミであるという。 ルアー、陶片、ライター、実に様々なものが漂着してくる。そうして集めたゴミを金継の一種である呼び継ぎを使ってひとつにしている。呼び継ぎとは、破片と破片を合わせて、重なり合いそう