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コンテンポラリーアート、現代写真の研究者たちによる若手作家の作品、展覧会を紹介するレビューマガジンです。※執筆者随時募集 執筆者/ ・斉藤勉 京都芸術大学 大学院修士課程卒(M…
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#卒業・修了制作展

名古屋芸術大学の村瀬ひよりの展示

名古屋芸術大学の西キャンパスは、フラットな敷地なので歩きやすい。油画が展示されるZ棟は、飛び地になっていて、道路を渡っていく。それまで見ていた展示とは気持ちを切り替えて作品と向き合うことができる。 そんなZ棟で最初に見た村瀬ひよりさんの作品、「さかいめ」と書かれたステートメントがあったが、展示空間は、村瀬さんの様々な作品によって構成されており、さながらポートフォリオのようであった。 モノクロで描かれた作品は木炭で描かれている。《さかいめ》は、自身の日常と日本の他の地域や、

《陳列》森崎萌黄

名古屋芸術大学の卒業・修了制作展はスタンプラリーを実施していた。スタンプを集めるための順路は、そのまま展示を見る順路として重宝した。 森崎萌黄さんの《陳列》は展示スペースの部屋全体にシルクスクリーンの肉が文字通り陳列されていた。 印刷された肉、形のバリエーションはいくつかあるが、版画であり、複製されている肉である。すぐさま、3Dプリント肉に思考が飛ぶ。工業製品として工場で肉が生産される。よい霜降り具合をプリントすることで、食味もよくなる。原材料は大豆などの代替肉や、培養し

《目覚めの挨拶》平石はるな

京都市立芸術大学の作品展、平石はるなさんの作品が圧巻だった。 大きな画面にピンクの花と鳥、手前にいるのはオカメインコとセキセイインコだろうか。インコと花が同化し密度のある画面下部から視線を上げていくと空に抜ける。青と緑のセキセイインコが相まって飛び、青いインコの背景の雲によって視線の誘導がなされていく。 何かの名画を参照しているだろうと思ったが、何だろうか。かなり昔に見たジョルジュ・ロシュグロスの《花の騎士》を連想したが、果たしてそうだろうか。アトリビュートで読み解こうと

《美少女戦士私》岩崎佑香

佐賀大学は有田にもキャンパスがあり、毎年の卒業制作ではセラミックの作品が多く展示されている。他の大学でも工芸系でセラミックの展示があるが、有田焼の窯元にキャンパスを構えているからだろうか、レベルの高さに毎年楽しみにしている。 岩崎佑香さんは有田セラミックだけれども、巨大なサイの編み物を提示していた。テキスタイルではないかと勘違いして、キャプションを二度見してしまった。 大きな胴体のボーダー、足の付け根には花のようなモチーフがあり、足のボーダーの向きの変化を自然に接続してい

《無題》埜口さくら

佐賀大学の日本画は面白い。近藤恵介さんに依る所が大きいと思う。昨年は武蔵美市谷キャンパスのαMや、LOKO GALLERYなど東京でも展示していた。埜口さくらさんは大学院・日本画とあった。 佐賀大学の美術館、1階から2階への吹き抜け空間に展示されている埜口さんの無題、遠くから作品を認めたときには、モノクロ写真だと思った。 一行に八つの正方形が並ぶ。墨でグリッドを描いている。いや結果としてグリッドが浮かび上がるということで、どちらが主なのか曖昧にさせているように見える。 墨

《無題》坂本紗菜

佐賀大学の卒業・修了制作展、坂本紗菜さんの作品はひときわ目を引いた。 カオスであるが、きちんと壁に陳列されており、矛盾を感じさせる。 これは何か? 陳列されているような展示はお店を連想するし、現に値札らしきものも掲出されている。 どうやらグミの販売棚を表現しているのでしょう。マテリアルはミクスとメディアとだけ記載されており、何でできているのかは想像するしかない。まさか、本当にグミを作っているとは思えない。 人の顔(口と鼻の間に目がある)のパッケージから溢れているグミは

《月桂》, 松延怜亜

佐賀大学の卒業・修了制作展を見に来た。京都から始まった卒展巡りも佐賀で一段落になる。佐賀大学との縁は4年にもなり、キャンパスも(芸術系に限れば)どこに何があるのかも把握できた。 松延怜亜さんの作品《月桂》は、暗転したギャラリースペースで展示されていた。プロジェクターで映像を投影するが、プロジェクターの前には根巻き苗の金木犀が置かれている。金木犀に金木犀の映像を投影している。風に揺れる金木犀、手前にある金木犀もそうだが、花はなく匂いはしない。これが何の木なのか、最初にステート

《君ありて幸せ》, 川口紅葉

広島市立大学はコンパクトに卒業・修了制作展を見ることができる。やや迷路のようであるが、友人が案内してくれたので助かった。 川口紅葉さんの《君ありて幸せ》が展示されているアトリエスペースに入ると、土の匂いがした。土を作品に用いていることがすぐに分かった。 本物の土を使っているようだが、花は一目で造花と分かる。そこに赤い点が見え、奥の方は白い花が赤に染まっている。 この造花はゼラニウムであり、白のゼラニウムの花言葉は「あなたの愛を信じない」という。そこに、てんとう虫が集まり

《足らぬが良し》, 安村日菜子

初めて見に行く広島市立大学の卒業・修了制作展、現代表現研究領域の安村日菜子さんの作品はインスタレーションだった。 白い展示台にいくつかの立体作品が並べられている。その立体作品が置かれている台の近くに鉛筆で立体物に対する説明が書かれている。当初はルアーに目が行ったが、これらは全て漂着ゴミであるという。 ルアー、陶片、ライター、実に様々なものが漂着してくる。そうして集めたゴミを金継の一種である呼び継ぎを使ってひとつにしている。呼び継ぎとは、破片と破片を合わせて、重なり合いそう

《花と苑と死》, 和田花苑

京都市立芸術大学の卒展は上下の移動が多い。7階まで上り、ひとつずつ階を下りてみていく。エレベーターはあるけれど、一基のみなので混雑する。しっかり階段を使えるようにしたい。 和田花苑さんの作品を鑑賞する。 紙本著色の大きな縦位置の画面、深く沈みこむような藍色、翠色も見えるよう。見る角度を変えることで、様々な色が現れる。周囲を取り囲む一段と濃い藍色は、むしろ黒と言った方がいいのかもしれない。 月の無い深夜の公園で、木立の中で空を見上げたような感覚、右上の画面に明るさが差してい

《浮かぶ姿(自画像?)》, 橘葉月

京都市立芸術大学の卒業・修了制作展は、卒業、修了年次ではない学生、院生の作品も展示されている。この試みはとてもいいと思う。 橘葉月さんは、大学院の一回生とあった。 新しいキャンパスのアトリエ、その高い天井に届かんとするかのような大きな作品が鑑賞者を見下ろす。 サイズの表記は無かったので定かではないが、4mほどの高さがあるだろうか。大きな足から見上げていき、顔に視線が移っていく。遠近感がバグるような視線の移動、強い線の輪郭の内側はキャンバスの地のままのようである。背景は描か

京都芸術大学の卒業・修了制作展 尾崎いろはの展示

京都芸術大学卒業・修了制作展の尾崎いろはさんの展示空間は、独特の雰囲気が漂っていた。幾何学的に見える展示空間、金属のような素材そのもののように見える平面と中央にある円環状の作品、中央の作品は天井と床から糸で貼られており、静止しているのだけれども、回転しているかのような錯覚を覚える。 円環状の作品の表面は、注意しないと読めない色で文字が書かれている。 ひらがなで書かれた文字は、言葉としての意味をはく奪しているかのように見える。どこから読み始めて、どこが終わりなのかを意図的に

《dune》白井桜子

京都芸術大学の卒業・修了制作展の白井桜子さんの展示は作品のボリュームに圧倒される。蛍光イエローの物体が展示空間の半分を占めており、蛍光ピンクの平面作品と対峙する。蛍光色、注意を引くための色、何かを侵食するかのように広がっている。 展示空間を占める黄色の作品は《dune》とあった。浸食するように広がってきている黄色だが、どこか空虚に感じるのは、それが薄く、空洞に見えるからだろう。表面に盛り上がった痕跡は何だろうか。独特なテクスチャ―は、レジ袋を染めたものだろうかと感じた。マテ

《あの日No.3》亀井佑果

亀井さんの作品は乾さんの作品の近くで展示されていた。サイアノタイプを用いた作品が数点展示されていた。 壁面に額装された作品が掲げられ、台座にはアクリル貼りした作品が並置されていた。 壁面の作品はすべて”あの日”を冠して、あとはナンバリングされているのみである。 この額は厚さがある。アクリル板を三枚重ねて入れられるようになっており、額の上側に切れ込みが三つ確認できる。 一番奥にサイアノタイプを入れ、前面の二枚にはアクリル絵具でドローイングした透明のアクリル板が入れられてい