やわらかい死の気配【榎本浩子】
今季の水戸芸術館のクリテリオムは榎本浩子さん。
初めて見たのは前橋で行われていたソウウレシという展覧会。
その次に見たRiver to River2021の方が印象に残っている。
儚くて、やわらかい死の気配がすると思った。
怖いとか、寂しいとか絶望的な印象はない。
縁側で老衰の果てに息が遠くなるような、穏やかな死だ。
古民家での展示も相まって、祖父の死を思い出した。
癌で亡くなった祖父は、癌とわかってからあっという間になくなってしまった。
祖父の苦しみを思った母は、延命のための辛い治療を選択しなかった。
間違いだったか正解だったかは誰にもわからないが、祖父は眠るようになくなったと聞いている。
母の願い通り、苦しむことはなかったという。
クリテリオムでもRiver to River2021の出品作品が展示されている。
今回は展示風景が供物を並べた祭壇のようで祈りの場のような空気が流れている。
作品自体に死がテーマになっているものもあるからだろうか。
か弱くて消えそうな鉛筆の文字が、気持ちを静かに撫ぜる。
優しい色合いの絵画、手垢の残る彫刻、有機的な曲線を描く植物。
どうしても賑やかな空間になりそうなのに、静謐な空気が流れている。
誰もが穏やかで幸せでありますように。
彼女のそんな願いが聞こえてくるようだ。
作家紹介
■榎本浩子
群馬県生まれ、在住。
※2021年のRiver to River