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3年に一度ひつまぶしとモーニングと芸術祭を楽しむ会【あいち2022】

今回のロゴ、ダサすぎないか?
フォントも新聞記事みたいだけどどうしちゃったの⁇

「あいちトリエンナーレ」改め「あいち2022」に抱いた感想である。いつも文字とシンボルマークを織り込んだシュッとしたロゴタイプが、今回はうってかわってまるで柄のようなふんわりと印象に残らない仕様。

前回開催時にはニュースに取り沙汰させるほど話題を呼んだ芸術祭であり(とても良かった)、おそらく県内でもさまざまな言われ方がされたことは容易に想像がつく。今回の開催に当たっては運営委員会の編成も変わっただろうし、会場も作品選びも慎重になるだろう。

芸術祭にはいわゆる山岳地域や島、人口過疎地域をめぐる地方の芸術祭と大都市で開催される都市型の芸術祭に二分される。愛知は名古屋市で開催されていることから明白だが都市型と言われる芸術祭である。地下鉄や電車を乗り継げば全貌が見えるもので、比較的めぐりやすい。ちなみに地方型は展示場所が駅から歩けない距離にあるため車が必須で、なんなら時間帯によっては食事にも困るような地域で開催されていることも多い。

今回も東京から新幹線で名古屋へ行き、電車・バスで会場を回った。初日は一宮エリアと愛知芸術文化センター。一宮は旧スケートリンクや元看護学校で展示がありこんな都市部に使われなくなった場所が?と驚いた。

私のお気に入りは西瓜姉妹(ウォーターメロンシスターズ)。上階から降りてきて割と静かな作品が多い中でそれをぶち破るエロティックさ、そしてその欲がなんだか人間らしい気がした。ただエロティックなだけでなく、それが台湾における同性婚が合憲になったことに端を発する作品でもあるため、ジェンダーについて考えさせれる。台湾に行った時、同性同士のカップル(内面的なジェンダーが分からないのに、同性と見た目で判断している私も問題だ)が手を繋いでいる光景に泣きそうになったことを思い出した。ただの愛として、なんの変哲もない愛として、許させるとか許されないという観点でなく、ただ存在しているという事実が嬉しくて、そしてたまらなく羨ましかった。

西瓜姉妹(ウォーターメロンシスターズ)《Watermelon Love》2017

スケートリンクに至っては、老朽化が原因のようなので恒久的な活用は無理にしても、例えばライブハウスや展示スペースとして活きる場所だろうなと感じた。一宮会場は塩田千春作品が大きく扱われていたが、そこはバス移動必須。賢い鑑賞者はレンタサイクルという手もあったらしいが、バスの本数も多く困ることはなかった。

塩田千春《糸をたどって》2022

※バス乗り場がはちゃめちゃにわかりにくいのでそこだけは注意してほしい

愛知芸術文化センターのお気に入りは渡辺篤の《YourMoon》(2021)。この作品は孤独を感じていることを共通点とした人々から作者に送付した月の写真から構成している。それぞれの場所から見上げた月は同じ月でありながらも全く違う表情を見せ、月を見上げる人の存在を画像の向こうに感じさせる。もう一つのお気に入りは彼の紹介キャプション。「足掛け3年にわたるひきこもりを経験しました」の言葉には筆者の愛を感じてしまう、普通だったらただひきこもりって言っちゃうところなのに。


二日目は気になるお店でモーニングを楽しんでから常滑エリアへ。
※このコンポートも全て手作りで、いちじく、マーマレードとオーソドックスな味から、栗、くるみバナナというレアな味まで。クリームがさっぱりしていて意外に食べやすかった。そして昼まで活動できるほどボリュームがあった。

小倉あん・ホイップクリーム・コンポートを搭載したトーストとコーヒー


エリアに踏み込むとそこにはいわゆる地方型の光景が広がっていた。坂がちでスーパーもコンビニもエリア内には見つからない。なんなら信号機もない。狭すぎて道を車も通れない。
加えてなかなか見ない町並み。焼き物が埋まった路面や路肩、窯の煙突が並び、一般家庭の一角で陶器が販売されている。
瀬戸内の島みたいな地形だと感じた。狭い路地に坂が多く、頑張って歩いた先に作品があるような、島を巡った夏を思い出す。

焼き物が埋め込まれた道と塀

このエリアは黒田大スケがお気に入り。
常滑にゆかりのある3人の陶芸家に扮して(?)思い出を語る映像作品なのだが、なりきっていないどころか動物に無理やり仮装していて本当に面白い。こういうぶっ飛んだ展示は芸術祭に入れると芸術やアートの難解さを溶かしてくれる。綺麗なものを期待している方は拒絶するかもだけど、どんな形でもわっと思わせたら大成功だと私は信じている。

最後は有松エリア。
ここは下町というか城下町というイメージ。染め物の街なので川を中心に街が構成されており、常滑とは異なり平坦で直線状に歩くわかりやすいエリア。
このエリアで展示していたAKI INOMATAの生き物への眼差しがたまらなく愛おしい。ミノムシを彼女と称し、有松で生産された染めものを渡してミノムシに鮮やかなミノを作ってもらうという作品。元もと彼女のファンで、この作品を見にこのエリアに行ったといっても過言ではないが、本当に愛しい気持ちが浮かぶ作品だった。

今回のあいち2022は前回の話題になった芸術祭とはまるで異なり、センセーショナルな作品もそこまで多くなく(なくはない)、作品のメッセージひとつひとつを丁寧に汲み取れる仕組みのあるやさしい芸術祭だったように思う。キャプションがかなり書き込まれているところにそれを感じた。作家の作品傾向や展示内容の簡単な紹介があったので、初めて芸術祭に来る層や美術鑑賞初心者にも馴染みやすかったようにも思うが、これはもしかしたら、予防線なのでは?とも思ったりする。言葉が多くて、作品の読み解き方を限定的にしているような気がして。

前回のあいちトリエンナーレの、思わず心がぎゅっとなるような、ちょっと自分を鼓舞しないと観られない、泣いちゃうみたいなものではなく、いい旅行だったな、いい作品をたくさんみたな、たくさん歩いて新しい街を文化を知れたなという気持ち。ちょっとヒリヒリが足りないような気もするけれど、今もまだ心に残る作品があるということはとてもいい芸術祭だったってこと。

また3年後、楽しみにしています。


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そういえばお気に入りの西瓜姉妹(ウォーターメロンシスターズ)が最終週末に一宮の商店街を練り歩くイベントがあるらしくてちょっとドキドキする。2人が幸せに表現活動ができますようにとお母さんみたいな気持ちになっている。


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