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買ったはいいが読めていなかった文庫本
特に最近出た本というわけでもなく、何となく買って置きっぱなしにしていた文庫本をいくつか読んだので、よかった本の感想です。
スティーヴン・キング『書くことについて』(小学館文庫)
キングの小説執筆指南本。小説に限らず、文章を書く人にとってはなかなか役に立つ内容。各種アドバイスあるのだが「できるだけシンプルに」というのはその通りと思う。特に副詞の指摘がおもしろい。たとえば「居丈高に言った」「卑屈に懇願した」「横柄に言い放った」などの説明的な描写、副詞の乱用はやめ、シンプルに「〜は言った」で統一した方がいいとキングは主張する。これが正しいかどうかは人によると思うけれど、なるほど一理ある。いずれにせよ、書くときに迷わなくて済むのは確かだ。
また、本人のアルコール依存問題、交通事故からの復帰など、人生で遭遇したいくつかの困難についても書かれていて、こちらも興味ぶかかった。キングは道を歩いていて、よそ見運転していた車に轢かれたのだが、ドライバーの男がまったく反省するそぶりを見せず「あー、これは足の骨5本くらい折れてますね」と普通のトーンで言う場面が印象的だった。死ぬか生きるかの瀬戸際でそんなこと言われても困っちゃうよね。交通事故はかなりの大けがだったようで、読んでいて気の毒だった。文章の書き方に迷っている人には大いに参考になる本かもしれません。
山田宏一『日本映画について私が学んだ二、三の事柄 2』(ワイズ出版)
この本はシリーズになっており、1冊目は読んだけれど、2冊目は買っただけで読みそびれていた。ようやく手をつけたのだが、語られている映画もさることながら、山田さんの視点が本当にみずみずしい。私も映画評の依頼をいただくことがあるが、作品を「いい」と感じたときの語彙にも限界があるし、どう伝えればいいのか、うまい言葉が見つからないことも多い。ああこう書けばいいのかと、言い回しを思わずメモしてしまった。
映画の核心をすっと取り出す、山田さんならではの手際のよさも随所に感じられる。また、シネフィル的な参照のおもしろさ、個人的経験やパーソナルな感情、インタビューなど事実関係の引用といった諸要素を、どれもやりすぎないていどに入れ込むバランスのよさも絶妙で、もっと山田さんの本を読んで勉強しようという気にさせられた。いちばん好きだったのは、神代辰己評で書かれた「エロティックな、好色な、ずばり、もう、あくなき助平根性の所産にほかあるまい」の一文でした。最高。